第3話 殺人劇は笑顔で終わる
「俺がマフィアを抜けた理由は、俺が刑期を終えて戻った時に、イカれた宗教を信仰してやがった上に、女子供からも金をむしり取る屑に成り下がってたからですよ」
「なんだよそれ?」
エルミアは思ってもいない言葉に少し困惑した。
「人類の争いが絶えないのは、神が人類に魔法を与えたせいだ。だから、神を殺すために悪魔に協力しようつって。どうかしてるでしょ?」
「お前らのボスは私益だけを考える屑野郎だっただろ?そいつはどうしたんだ」
「俺が牢屋にぶち込まれた後のボスことですか?殺されたって聞きましたよ。今のトップは魔人です」
「そうか。それと、お前が前吐かなかったアジトの場所も教えろ」
「教えますから......。ほらこれ」
スカルは地図に印をつけた紙を渡した。
「ふうん」
「今、新しくなったマフィア共に追われてるんですよ!助けてください!」
「知るか。もう用は済んだ。じゃあな」
エルミアが去ろうとすると、酒場の壁がいきなり吹き飛んだ。
「奴ら追いついてきやがったのか!?くそっ、助けてくださいよ!」
スカルがエルミアに泣きついてくる。
「少し足止めしとけ!街の人を避難させてくる!」
エルミアがそう言ってスカルを一蹴し、レナと共に酒場の外へ出た。
「運が悪かったのか、はたまた誰かさんが呼び寄せたのか。どうなんだろうなぁ」
エルミアはレナの肩を掴みそう言った。
「えっと......なに?」
「なんでもねえよ」
***
「なんでバレやがった」
スカルは共にいた部下を逃した後、酒場に突っ立っていた。
壁が破られた酒場には粉塵が舞っており、その中から1人の男が出てくる。
「こんにちは、スカルさん。ブラックイービルズを無断で抜けるとは、礼儀がなってないと思いますよ」
きっちりとした七三分けの黒髪を櫛で撫でつけ、少し下にずれた丸眼鏡をかけた男がそう言った。
「礼儀がなってないのはお前の方だ。おれがイチから叩き直してやるよ」
積もり積もったイライラをぶつけるように、スカルは腰のホルダーに入っていたナイフを抜いた。
「ひとまず、俺らの飲み代と店の修理費出せよ。【召喚魔法 悪ガキ同盟】」
スカルの足元から黒い物体が湧き出し、体を包み込んだ。しばらくすると、その黒い物体はスカルの体から離れ、体毛が真っ黒な猿へと姿を変えた。
「悪役っぽさが滲み出ていて実にいいです!」
スカルの魔法を見た男は歓喜の声を上げた。
「いちいち癇に障るガキだな!」
スカルは手に持っていたナイフを思い切り放り投げた。
それは微かに男の頬を擦り、飛んでいった。
「ふぐっ!」
次の瞬間、男が妙な声を上げた。
男の背後に飛んでいったはずのナイフは、男の肩に深々と刺さっていた。
男が振り返ると、背後には赤い眼光で睨んでくる猿がいた。
「あぁぁぁ!私の完璧なシナリオが!」
猿に殴りかかる男の拳は空を切る。
猿はドロドロに溶け、床と一体化したように見えた。
「あ、あなたは悪役っぽさに少し欠けるところがあります!あなたは、理由なく人を傷つけ、殺し、完璧を演じて欲しい!」
男は肩のナイフを抜き、地面に投げ捨てた。
「そして、最終的には私に惨たらしく殺されて欲しいんです!【演劇魔法 劇化する人生】」
男が魔法を唱えた後、眩い光がスカルの目を覆った。そして、スカルの意識の糸はプツリと切れてしまった。
***
血の匂いとカビ臭い匂いがスカル鼻をつく。
「ここ、どこだ?」
スカルはまず妙に視界が狭いことに気がつく。
「くそっ、取れねえ」
顔には仮面が付けられており、まるで釘で固定されたかのように動かなかった。
次にあたりを見渡すと、背後には路地裏を模したハリボテ、正面には木でできた人形が大勢座っていた。
「ここは......劇場か?」
彼は壇上に寝かされていたらしく、その奇妙な状況に困惑していた。
「さあさあ皆さん、開演です!本日の劇は、『快楽殺人鬼スカル』。屑野郎の悲惨な死を、どうぞお楽しみください!」
パチパチと拍手を始める木の人形たち。
「かっ......くっ......」
声が、でねえ......。
スカルの自由が奪われた。
声を出すことすら許されないスカルは、無意識的に観客席へと走った。
1番前に座る人形を、いつの間にか持っていたナイフで突き刺す。
「死ね!死ね!死ね!ハハハ!」
思ってもいない言葉が出るスカル。
最初に刺した人形がボロボロになった頃、スカルは右隣の人形を引っ掴み、壇上へと持っていった。
「ゆっくり首を切り裂いてやろうかなぁ!」
人形の首にナイフを押し当てていると。
「やめなさい。そんなことをして何になるんですか!」
舞台袖からゆっくりと歩いてくる男は、酒場を壊して入ってきた男だった。
「黙れ!俺は人を殺すと気持ちいいんだよ!」
男は素早くスカルに近づき、腹に魔法拳銃を押し当てた。
「随分と悪役向きになりましたね。あなたみたいに仁義やらを大切にする屑を見ると、私は虫唾が走るんですよ」
そう囁いた後、男は拳銃を発砲した。
「あなたは部下に愛されていたそうですね。ブラックイービルズが乗っ取られるのを知った者たちによって、あなたは牢獄へと避難させられた。それも、多大なる犠牲を払って......。しかし、それも意味がなかったようですね」
立て続けに3発撃ち込まれた銃弾は、全て貫通し、腹に風穴を開けた。
「ゴブっ......。俺は、犠牲にした部下たちを無駄だなんて思ってねえ......」
ばたりと倒れたスカルに、観客席の人形たちが群がり始めた。
「フハハハハ!ああ、実にいいエンディング」
いつの間にか劇場は消え、元の酒場へと戻ってきていた。
「お前は反吐の出る仁義に嵌められたんだぜ?」
男の後ろにはニヤニヤした黒い猿がそう言っていた。
「なぜスカルの魔法が!?奴は死んだはずでは?」
「俺ら無法者でも、礼儀知らずじゃない。兄弟分の為なら命を賭ける事さえ厭わない」
猿がドロドロと溶け、中からスカルが現れた。
「じゃあこっちのは!?」
倒れていたはずのスカルの姿は跡形もなく消えていた。
「ま、待ってください!私はまだ演じ足りないんです!」
ジリジリと詰め寄ってくるスカルに、男は嘆いた。
「笑えよ。演者なんだろ?」
「あへへへ、し、死にたくないんですよぉ」
壁に追いやられた男に、スカルは思い切りナイフを突き立てた。
「ひ、ひぃぃぃ」
男の顔の真横を通り過ぎたナイフは、壁に刺さった。
「二度と俺の目の前に現れるな。次見つけたら殺すからな」
「わかりましたぁぁ!」
髪を乱しながら、男は逃げていった。
「まあまあ入ってんな」
スカルは右手に持っていた布袋の中身を見た。それは、逃げていった男の財布だった。
「死神に報告しに行くか」
ため息をつき、スカルは酒場の外へ出た。
「おいおい、一体どうなってる......」
思わず息を呑んだスカル。それもそのはず、彼の見た空はおかしかった。
真上にあったはずの太陽は月に姿を変え、真っ黒な空は彗星で埋め尽くされていた。
【魔法解説】
悪ガキ同盟
自分の姿を黒い猿に変え、自分そっくりの魔法でできた人形を召喚する魔法。
黒い猿になれば、影に潜ることができる。
魔法でできた人形とは視界を共有でき、自分の意思で自由に動かすことができる。
劇化する人生
相手に隙が生まれた時(自分が深手を負い、相手が勝ちを確信した時など)に発動する魔法。
相手に自分が思い描く劇を演じさせることができる。




