第2話 血の雨に打たれて
「死ぬにはいい日だ」
そう言って白髪の女は悪魔に向かって走り出そうとした。
「何言ってるの!」
彼女の肩をレナは掴んで、自分の方へ引き寄せた。
「なんだ?一翼に何ができるって言うんだ」
「少しくらい手伝わせて。【水魔法 浪漫的怪雨】」
レナの手から水が放たれ、それが傘の形になる。
「それが武器ってか?笑えるな」
呆れた様子の彼女は、肩を落とした。
「これは盾」
「悪魔の攻撃を防ぐのか?こんなもので?」
「違う、今から降る雨から私たちを守るためのもの」
「ははっ、確かに降るだろうな。お前の血の雨が。はぁ、死にたくなかったらでしゃばるな」
なんだか疲れた顔の彼女は、レナから離れようとした時、足を止めた。
「危なっ......」
彼女の目の前に水でできたナイフが、高速で降ってきたのだった。
「ほら、降ってきたでしょ?」
「......。悪かった。確かに、傘が必要そうだ」
数十秒降り続けたナイフの雨は、周りの悪魔たちを粉々にしていった。
雨が止む頃、空はすっかり青く澄んでいた。
残る悪魔はわずか数体。
その悪魔たちに向け、2人は再び武器を向けた。
***
「私はエルミアだ。さっきは冷たくしちまって、悪かったな」
少し疲れて、腰をついていたレナに、エルミアと名乗った白髪の女は手を差し伸べた。
その手をレナは掴んで、悪魔の死体が転がる地べたから立ち上がった。
「ありがとう」
次にエルミアは悪魔の角が入った袋を、レナに差し出した。
「全部お前の手柄だ。それじゃあな」
そう言ってエルミアは、魔人の死体を抱えて去ろうとする。
「待って。少し聞きたいことが」
引き止められたエルミアは、振り返りレナの方を向いた。
「なんだ?」
「ルシファーって知ってる?」
「どこでその名を?」
エルミアは刀に手をかけた。
「それは六翼しか知り得ない情報だ」
「エルミアは六翼なの?」
「次に話を逸らしたら、お前を殺す」
「わ、わかった......。2年前にカナイの町で、ルシファーが初めて人間に手を出した町で、私はあの悪魔と戦った......」
エルミアはレナに背を向け、再び歩き出した。
「レナ、ついてこい」
「え?」
「ルシファーを殺したいんだろ?私が手伝ってやる」
レナはすぐにエルミアを追いかけた。
***
「どうして私に協力してくれるの?」
街に戻ってきたレナは、隣を歩くエルミアに言った。
「目的が同じだったってだけだ。それに、そこらの悪魔狩りより役に立ちそうだからな」
エルミアは煙草の火を消し、いつの間にか着いたギルドへと入っていく。
「すぐ終わるから待ってろ」
ギルドに入る前にレナにそう言い、1人で建物の中に入っていった。
「あのガキ、どこであんな事を知り得やがった」
乱暴な足取りのエルミアは、ギルドの職員の1人に、悪魔狩りである証拠のペンダントを突きつけた。
「四翼以上の悪魔狩りを1人貸せ」
「エルミア様、一体何を?」
「私の監視に、いや、正確には私の連れている亜人を監視させろ」
「わ、わかりました。すぐに手配します」
奥の方へ走っていったギルド職員を見届けた後、少し落ち着いた表情を取り戻した。
「まあ、死に場所にはちょうどいいかもな」
そう独り言を呟いたエルミアは、レナの元へと歩いた。
「あ、おかえり」
手を振ってくるレナ。
「日が落ちるまでまだ時間がある。もう一件解決しに行くぞ」
「え、でも、ルシファーは......」
「お前のランクであいつのいる場所に近づけるわけがないだろ。最低でも三翼くらいにならないと、近づくことすら叶わない」
「そうだったんだ......」
「それと、ルシファーの名はあまり口にするな。それは世間に知られてない極秘の情報なんだ」
「ごめん」
レナは少ししょぼんとしてしまった。
「あー、別にわかってくれればいいんだ」
エルミアはついてこいと言うように手を動かし、そのまま進み出した。
すぐに後ろをついていくレナの背後に、1人の男がつけていた。
***
昼過ぎに件の街に着いた2人。
「見た限り平和そうだけど......」
レナは街の人が道端で談笑する様子を見ながら言った。
「魔人の力を金稼ぎに使う屑どもがいんだよ」
「じゃあこの街に魔人が?」
「いや、隣国の中心都市に隠れてやがる。まあ、そのうち殺すがな」
「それなら一体何をしに?」
「この街に進出してきたそいつらの仲間をとっ捕まえて、牢獄にぶち込んでやるんだよ」
エルミアは少しあたりを見渡した後、酒場へと真っ直ぐ歩いていった。
「酒場に何しにいくの?」
「情報収集だ」
そう言って酒場の戸に手をかけ、ゆっくりと開けた。
エルミアは目立たない奥のテーブル席に腰掛け、蜂蜜酒を頼むとレナに耳打ちした。
「奥の扉を見ろ」
「......?」
おそらくバーのカウンターの隣にある扉のことだろう。
その扉の横にはガラの悪そうな男が1人立っていた。
「奴らがあそこで飲んでる」
「そうなの?」
「ああ、見知った顔が入っていくのを見たからな」
そう言ってエルミアは席を立ち、他の客に話しかけ始めた。
席に座っているレナにはその会話の内容はわからないが、エルミアがその客に何かを渡しているのが見えた。
「準備しろ」
レナのいる席まで戻ってきたエルミアは、そう言った。
「なんの準備?」
レナがそう聞いた瞬間、先ほどエルミアが話していた客が、例の扉の横に立つ男に酒をぶちまけていた。
「あー、悪いのぉ。最近歳で手が震えちまって。弁償するから......あ!」
酒を男にかぶせたあと、懐から取り出したお金を床にばら撒いた。
「はぁ、勘弁してくれ」
酒に濡れた服と、目の前の鈍臭い男の行動に少し呆れ顔のガラの悪い男は、仕方なく床に落ちたお金を拾い始めた。
「今のうちにに行くぞ」
エルミアとレナはこっそりとお金を拾う2人の後ろを歩き、奥の扉へと入った。
扉の奥はテーブル席が三つあり、そのうちの一つに2人の男が座っていた。
「誰だてめえ!」
1人の男がそう叫び、エルミアに掴み掛かった。
「おいスカル。このガキをどかさねえと、また牢獄にぶち込むぞ」
座っていた坊主頭の男の顔がみるみる青ざめる。
「なんで白の死神が......。お、おい!すぐにその方を離せ!」
スカルは部下と思われる男にそう命令し、急いで席を立ち上がってエルミアに駆け寄った。
スカルはエルミアのことを思い出す。
彼が投獄されて2ヶ月程がたった頃に、彼のマフィアが悪魔と繋がっていることを騎士が発見し、エルミアはスカルを尋問していた。
「ちょっと待ってくださいよ。今はあのマフィアを抜けたんですから、もう悪魔との関わりはありませんよ!」
「前に捕まっちまったから追い出されたのか?」
「あ、まあ、そんなところです」
「今、目逸らしただろ?」
「あはは......。嘘なんかつくわけ......」
「お前の悲鳴をつまみに酒盛りしてやってもいいんだぞ?」
「わかりました!言いますから!」
スカルは勘弁してくれと言わんばかりの表情で、そう言った。
「おい、ボスにあんまり舐めた態度を――」
スカルの部下がエルミアに再び掴みかかろうとしたところで、スカルが部下の頭を掴み、地面に押しつけた。
「二度も言わせんな。殺すぞ......。あはは、お見苦しいところを......」
「別に気にしてない。それより話を」
「わかりましたよ......」
スカルはため息をついて話し始めた。
【魔法解説】
浪漫的怪雨
魔力から水を生成し、雨傘を形成し、雨雲の水分を操り、水のナイフを生成する魔法。
ナイフは魔法により時速200キロ程の速度で雲から落ちてくる。ただし、生成した雨傘に当たるとナイフは飛散する。
予約投稿うまくできていませんでした。
遅れてすいません。




