第66話 覚醒
「おい、なんだよあれ」
オスカル、ヴァレリア、アーシュ、ザークの4人は、ルシファーとベルクたちが戦っている場所に来ていた。そこについた途端、オスカルが驚嘆の声を上げる。目の前には、悪魔のような姿をした男がルシファーと戦っていた。
「あれ、ベルクか?」
アーシュは悪魔のような姿の男を指差し、そう言った。
「剣さばきがベルクだ」
ヴァレリアが言う。確かに男の剣さばきはベルクだが、6つの黒い翼が生え、手には底なしの穴のように真っ黒で2メートルほどある刀を持っていた。
***
数分前。
「ひとつ僕に策がある」
ベルはそんなことをベルグに言った。
「本当か!?」
「ただし、失敗すればベルクは無事じゃ済まない」
「そ、それでもいい......」
「決めるのが早すぎるよ。まず話を聞いて。ベルクは悪魔憑きって知ってる?」
「ああ、悪魔が人に取り憑いて操るアレだろ?」
「そう。そして、それをベルクにする」
「そうか、ベルが俺の体を操れば......」
「いや、体を動かすのはベルクだ。仮に僕がベルクを操作するんだとしたら、ベルクの自我が崩壊しちゃうんだよ」
「じゃあどうするんだ?」
「悪魔は元来体の中心部の魂に取り憑くもの。でも、今回僕は、ベルクの目と背と刀に取り憑く。まあ、魂から離れたところに取り憑いても、僕が少しでも気を抜けばベルクに危険が及んじゃうんだけどね。それでもやる?」
「もちろんだ。俺はベルを信じるからな」
ベルの体は黒い霧のようになり、ベルクに纏わりついた。すると、ベルクの刀が黒い霧を纏い、目が赤く染まる。そして、背中からミリミリという音を立てて、6枚の黒い翼が生えた。
「無駄な悪あがきはやめろ。面倒臭いから、早く死んで欲しいんだよ」
ルシファーがそう言い終わった途端、家の壁にめり込んでいた。
「やりやがったな......お前......」
ベルクがルシファーに負けない速度で、ルシファーを吹き飛ばしていた。
「悔しかったら反撃してみろ!」
「数十年生きただけのまだけつの青いガキが!殺してやるよ......」
何を思ったのか、ルシファーは胸に手をめり込ませる。
「絶対に殺してやるからな......」
ルシファーが胸から手を離すと、手には黒い槍が握られていた。
その槍をルシファーが投げると、10メートルほど地面が抉れ、家が倒壊する。
だが、ベルクはルシファーを上回る速度で反撃を繰り返す。数十秒間攻撃を繰り返したベルクは、一度距離をとる。
「速度が上がれば良いというものじゃないことを分かっているのか?そんな弱々しい攻撃じゃ、かすり傷をつけるので精一杯だろう?」
ルシファーは嘲笑するようにそう言った。
「ベルク、刀を使うんだ」
頭の中でベルがそう囁く。
「だけどこの刀、めちゃくちゃ重くて......」
「自分の強みを忘れたの?その優しさからくる人望の厚さを」
ベルクの周りには、町の悪魔を全滅させた仲間たちが、心配そうにベルクを見つめていた。
「みんな!5秒でいい。こいつを拘束してくれ!」
ルシファーは眉間に皺をよせ、歯を食いしばる。
「お前......俺の相手がこの下等種族どもに務まるとでも思っているのか!」
「ああ、俺の仲間の方がお前なんかよりよっぽど強いさ」
「黙って言わせておけば!」
ルシファーはベルクの横にいるレナに向かって槍を放った。
ベルクは重い刀を抜き、なんとか槍を防ぐ。
「雑魚どもがいくら集まろうと、変わらないぞ!」
ルシファーがベルクに近づこうとすると、足が少し動きづらいことに気づく。
「いくら悪魔だろうが、影はあるんだな。影がある限り、俺の魔法からは逃れられねえ【影操作魔法 拘束する影】」
ルシファーの影が、ルシファーの足に絡まっていた。
「こんな低俗な魔法、すぐに蹴散らしてやるか」
「貴様の言う低俗な魔法とやらが、時には貴様を躓かせることを覚えておいた方がいい【植物生成魔法 蠱惑的拘束樹】」
ルシファーの立つ地面からツタが10数本生えてきて、ルシファーを縛り付ける。
「何が躓くだ!お前らは道端の石ころ同然なんだよ!」
ルシファーの槍が1人でに浮き上がった。そして、ヴァレリアとオスカルに向けて飛んでいく。
「そうはさせない!【水魔法銀の水飛沫】」
レナが水を纏った戦鎚で、槍を叩き落とす。そして、叩き落とした槍を戦鎚で押さえつけた。
「レナちゃん、私も手伝うよ!ほら、お兄ちゃんも!」
3人が槍を押さえつけると、完全に槍が動かなくなった。
「クソックソックソッ!お前ら悪魔の怒りを買うのがどんなことかをわかっているのか!」
「さあな、ご教授いただきたいところだよ」
ザークはルシファーに近づいていく。
「【召喚魔法| |唯我独尊(アイ・アム•ザ•ロー)】お前は禁固刑だ」
空に黒い穴がぽっかりと空き、そこから鉄格子が次々と降り注ぐ。それがルシファーを囲み、牢獄が完成した。
「レノラ、新しい魔法を見せてやれ」
「わかったぜ兄貴!【付与魔法後天的引力】」
アーシュが魔法を唱ると、ルシファーの体がわずかに光り、鉄格子に体が引っ張られる。ルシファーの抵抗も虚しく、体が鉄格子にくっついて身動きがさらに取りづらくなった。
「こんな鉄格子など鉄屑に......」
ルシファーはなんとか鉄格子を掴み、壊そうとする。
「【生命創造魔法自由なる逃避行】」
オーギの魔法が、ルシファーの腕を引っ張り、鉄格子から手を離させる。
「ホト、私たちもやるぞ!【水精霊魔法水精霊の涙】」
「わかりました!【血液操作魔法核心をつく杭】」
ホトの血が鋭く尖り、ルシファーの胸を貫いた。そして、アルスの魔法で牢獄ごとルシファーは水に包まれる。
「みんなありがとう」
ベルクは空中で刀を大きく振りかぶり、振り下ろした。
「やめろ......。おい!やめろぉぉぉ!」
叫ぶルシファーの声ごと刀から飛んだ黒い斬撃が、ルシファーの体を斬り裂いた。
ベルクはその場に倒れ込み、ベルクの体から黒い霧が湧き上がる。霧は固まり、ベルが現れる。
「どう?悪くない斬撃でしょ?本当は君にもう一撃お見舞いしたかったんだけどね」
「嫌味かお前......」
「君がそう感じるならそうなんじゃないかな?」
「殺してやる......。絶対に......」
ルシファーの皮膚が裂け、本当の姿が露わになる。
ルシファーは真っ黒の肌に、鋭く蛇のような目、歪なツノに、長い牙が生えていた。
「お、おい、あれまずいんじゃないか!?」
慌て始めるオスカル。
「ま、まずい。逃げて!できる限り遠くに!」
ベルは焦った顔でそう叫んだ。
ルシファーは浮き上がり、手を太陽に向けて掲げた。
「全て消し炭だ」
【魔法解説】
蠱惑的拘束樹
10数本の蔦を生み出す魔法。
蔦は自由自在に動き、敵を拘束できるほどの頑丈さを誇る。
後天的引力
磁力を付与する魔法。
生物にのみ有効な魔法で、その磁力はかなり強力。
核心をつく杭
血を操り、鋭い針のように固める魔法。
死んでさえいれば、自分以外の生物の血でも操ることができる。




