第65話 共闘戦線
町には悪魔が溢れかえっていた。悪魔は山羊の頭で人の体を持ち、鋭い爪とコウモリのような翼を持っていた。
「コロシテヤル、コロシテヤルゾ」
悪魔たちはそうボソボソと呟き、町を徘徊していた。
「なんだこいつら。話には聞いてたが、マジで悪魔がいるなんてな」
「驚いてないで行くぞオスカル」
2人は悪魔たちに向かって走っていく。
「影に沈め。クソ野郎ども!【影操作魔法 誘惑の沼地】」
悪魔たちの立つ床が真っ黒に染まり、泥濘む底なし沼のように悪魔たちが沈んでいく。中には抵抗する悪魔もいたが、黒い沼から伸びる手によって引き摺り込まれてしまった。
「私はお前たちのような悪を許せない。悪いが死んでくれ【植物生成魔法有毒な残虐性】」
地面から生えてくる紫色の花。その花は、悪魔に向かって毒気を吹きかけた。
悪魔たちはもがき苦しみ、口から血を吐いて動かなくなった。
「あんまり手応えないもんだな」
「オスカル、あまり油断はするな」
ヴァレリアがそう注意すると、真横の家の壁が突如として崩れ、悪魔が4体ほど飛び出してきた。
「やっば!」
急な襲撃に反応できないヴァレリアとオスカル。すると、飛び出してきた悪魔たちの背後から2人の男女の声が聞こえてくる。
「俺から逃れられると思うな。お前らの刑は確定している。【召喚魔法|唯我独尊(アイ・アム•ザ•ロー)】」
ザークの声と共に現れた大男たちが、3体の悪魔の首を掴む。その大男たちは、手に大きな斧を持っており、悪魔たちの首を一斉に切り落とした。
「私の魔法を喰らえ!【付与魔法 真紅の鼠 藍色の馬 】」
アーシュは悪魔の顔を殴り飛ばした。吹き飛んだ悪魔の顔は青く光っており、アーシュの拳は赤く光っていた。
吹き飛んだ悪魔はアーシュに引っ張られ、再びアーシュに殴られる。それを数度繰り返したところで、悪魔は動かなくなった。
「あ、ありがとう」
ザークは転んでいたヴァレリアに、手を差し伸べた。
「礼はいい。ベルクは妹の命の恩人だ。その友人を助けるのは当たり前のこと」
「いいのか?俺たちはお前を捕まえるかもしれねえのに」
ザークにオスカルがそう尋ねる。
「それは2人だって同じだろ?2人はこんな大犯罪者を捕まえられるチャンスを棒に振ってまで、友のため、見知らぬ国の名も知れぬ町の市民のために懸命にはたらいている。それに、俺はそんな奴らが嫌いじゃない」
ザークは少し笑い、そんなことを言った。
「兄貴!悪魔たちが!」
アーシュの指差す方向には、悪魔たちがうじゃうじゃと蔓延っていた。
「話は後だ。手を貸してくれないか?」
差し出されたザークの手を今度はオスカルが強く握った。
「俺もお前みたいなやつは嫌いじゃねえ」
悪魔の大群を圧倒する4人。そことは別の場所、町の中心あたりで、アルフレッドとロゼが悪魔と戦っていた。
「な、なかなか怖いな......」
「何言ってるのお兄ちゃん!しっかりして!」
「実は俺、幽霊とか悪魔とか苦手なんだ......」
「もー、じゃー私の後ろにいて。たまには頼られるのも悪くないしね」
ロゼはそう言って、アルフレッドよりも1歩前に出た。
「【加護拝受魔法不完全な天啓】」
魔法を唱えるも、何も起きない。
「あれ?神様、調子でも悪いのかな?」
ロゼはしょうがないと呟き、アルフレッドが持ってきた大鎌を借りる。
ロゼは一振りで2体の悪魔の胴を切り離していく。悪魔も負けじと腕を振り回す。それを避けようと後ろに下がったロゼが足を滑らす。
「きゃっ!」
ロゼに向かって悪魔の鋭い爪が襲いかかってくる。
ロゼは思わず目を閉じて、頭を手で覆った。だが、悪魔の爪はロゼに当たることはない。
「ロゼに触るな!」
悪魔の腹に振り抜かれたアルフレッドの拳は、悪魔を数メートル吹き飛ばす。
「1人にして悪かった」
アルフレッドは手を引き、ロゼを立たせてあげる。
「ありがと、お兄ちゃん」
2人は手を取り合い、悪魔たちの方へ向き直る。
アルフレッドが蹴り飛ばした悪魔を、ロゼが大鎌で切り裂いていく。
悪魔がほとんど地に伏してしまった頃、2人の背後から大きな音が鳴り響く。
「逃げてくれ!」
後ろから聞こえるアルスの声。そのアルスの前には、先ほど倒していた悪魔たちの3倍ほどの大きさ、実に4メートルほどの悪魔は、2人に向かい突進してきていた。
「ロゼ下がってろ!」
アルフレッドは巨大な悪魔の腰あたりに手をまわし、悪魔の突進を止める。
「ホト!彼が止めてくれているうちにやってしまうぞ!【水精霊魔法霊水の大太刀】」
「わかりました!【血液操作魔法血液嗜食】」
アルスの手から水が吹き出て、それが大太刀の形に固まった。それをアルスは悪魔の右肩から斜め左下に思い切り振り下ろす。
ホトは右手を高く掲げる。すると、周りで死んでいた悪魔たちの体から血が溢れ出し、ホトの右手へと集まってくる。やがてその血は大鎌へと姿を変えた。ホトはそれを、悪魔の左肩から斜め右下に思い切り振り下ろした。
切り裂かれた悪魔は、グチャリと音を立てて地面に倒れた。
「あんたなかなか根性あるな!」
「ははっ、ありがとよ!」
アルフレッドの背を叩くアルス。その時、遠くで大きな音が鳴り響いた。
悪魔と戦っていた8人は、大きな音に反応してその方向へと走り出した。
***
大きな破壊音が鳴り響く。
「さっきまでの威勢はどうした?」
ルシファーはベルク、レナ、オーギ、ベルの4人を見下し、そう言い放った。
4人の後ろの道は大きく抉れ、隕石が落ちたのかと思わせるほどの大きな穴が空いていた。それは、ルシファーの強さを物語っていた。
「あまり僕を舐めるなよ......」
ベルはルシファーに向かって走っていく。
余裕の表情のルシファーは、スッと右腕を上げるとその腕を素早く振った。一瞬消えたかのように思えるほど素早いその右腕は、ベルの首をはねる。
「わかるぞ。後ろだろ?」
ルシファーはそんなことを呟き、後ろを振り向く。首がはねられたベルはボロボロに崩れ、正体を現した。首がはねられたベルは、蠅の大群だった。そして、本物のベルはルシファーの背後へとまわっていたのだった。
「これも通用しないのか。気持ち悪い」
ベルがルシファーに振り抜いた拳は空を切る。
ルシファーはベルクにはとても見えない速さで、ベルの背後に動いていた。そのまま、ルシファーはベルを蹴り飛ばす。
ベルクは、飛んできたベルを受け止めた。
「大丈夫か?」
「なんとかね。人間なら死んでるよ」
ルシファーは首をコキコキと鳴らして、こちらに近づいてくる。
「もう終わりにしようか」
そんなことを呟くルシファー。
「もうオーギもレナも魔力が残ってない......。俺もあいつの動きを目で追うことすらできない......。どうすれば......」
「ひとつ僕に策がある」
ベルはニヤリと笑いそう言った。
【魔法解説】
血液嗜食
血から大鎌を作り出す魔法。
死んでさえいれば、自分以外の生物の血でも大鎌を作ることができる。




