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君のための異世界放浪記〜奴隷猫耳少女は旅人に連れられ旅路を歩む〜  作者: みかん太郎
第1期 第6章 ティルシ王国編②
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第62話 べチャリ。

「え!?もうこの国を出ちゃうの?」


 コルは驚きのあまり目を見開いていた。いつもの落ち着いた様子のコルとは違った大きな声に、よほどショックが大きかったことが伺える。


「俺もまだいるつもりだったんだが、ちょっとまずいことになってな。本当にごめん」


「何か大変なことがあったんでしょ?別に謝らなくても大丈夫だよ」


 コルはベルクの顔を上げさせ、笑って見せる。


「そうか、ありがとう。それじゃあ、俺たちは行くよ」


 ソファーから立ち上がり、扉に手をかけるベルクの手を、コルは思わず掴む。


「待って......最後に1つだけ......」


***

 

 ベルクはコルの家のキッチンで目を輝かせていた。


「す、すごい。こんなに調理器具が......」

 

「好きなの使っていいよ。それとこれも使って」


 黒く細い乾燥した物体を手渡される。刺激的な香りを放つそれは、香辛料らしかった。


「これは?」


「バニラだよ。私、バニラの香りが好きなの」


「どんな香りー?」


 レナがベルクの持っていたバニラビーンズを手に取り、鼻に近づけて思いきり息を吸う。


「ひゃっ......うぅ」


「ははは、なにしてんだよ」


 涙目で鼻を擦るレナをオーギが笑う。


「こんなの入れたら、レナ死んじゃうよ」


「大丈夫大丈夫、美味しいから」


 レナをなだめて、ベルクは料理の準備をする。

 

 コルは最後にベルクのお菓子が食べたいと言ったので、ベルクたちはコルの家のキッチンに立っていた。


「それじゃあ作るか」


 ベルクは腕をまくり、鍋を取り出した。


「何か手伝うことある?」


「それじゃあ魔導オーブンの予熱を200度に。それとオーブンの天板に薄くバターを塗っておいて」


 いつものように手伝ってくれるレナにベルクはそう告げて、鍋に材料を加えていく。

 煮込まれる水を加えたバターと砂糖。沸騰したところで小麦粉を加える。


「なんか粘土みたい」

 

 鍋を覗き込むオーギがそう言う。

 しばらく混ぜた生地は粉気がなくなり、黄色い粘土のようだった。ベルクはそこに溶いた卵を加える。

 

「天板にバター塗れた?」


「できたよー」


 ベルクは鉄製のトレーをレナから受け取り、鍋の中の生地を丸い形に絞り、それをオーブンの中へ入れた。


「バニラはどうするの?」


 そう尋ねるコルの目の前で、鍋に牛乳とバニラビーンズを加えた。


「今回はカスタードクリームの風味付けに使う。オーギ、この鍋沸騰しないように見ておいて」


 そう言った後、ベルクは別の容器に卵、砂糖、小麦粉を入れてかき混ぜる。粉気がなくなったら、混ぜたものを先程の鍋に入れて火にかける。

 トロトロになりツヤができてきたところで、鍋の中身を冷やす。


「生地は焼けたかな?」


 ベルクがオーブンを覗くと、隕石のようなボコボコした形に生地が膨らんでいた。


「いい感じだな。あとはこれにカスタードクリームを詰めれば......」


 ベルクは焼き上がった生地を取り出し、冷やしているカスタードクリームの方を見た。カスタードクリームの近くには、ベルクに背を向け立っているレナがいる。

 ベルクはなにを思ったのか、レナの尻尾をグッと掴んだ。


「ひゃっ......えっと、えへへ......」


 レナは驚きベルクの方を振り向いたあと、口についたカスタードクリームを急いで袖で拭った。


「オーギ頼む」


「まかせろ!【生命創造魔法自由なる逃避行(フリー・トゥー・フリー)】」


 レナは押さえつけられ、動けなくなる。


「レ、レナはみんなのために味見してただけで......」


「よし、仕上げにかかるか」


「うぅ、無視しないでよー。ごめんー」


 ベルクは生地を半分に切り、中にカスタードクリームを入れる。


「シュークリームの完成だ」


 さらに山のように盛られたシュークリームのひとつをコルは取る。


「これ美味しい!」


 いつもの笑顔を見せるコル。それを見て、拘束を解かれたレナもシュークリームにかぶりつく。

端から漏れたクリームが、テーブルに音を立てて落ちた。


***


 べチャリ。

 

「やはり魔力もオーラも不味い。もっとマシな心臓はないものなのか」


 齧りかけの心臓がルシファーの手から離れ、地面に音を立てて落ちる。

 まだ明るい昼前なので、血に濡れたバラバラの肉片がキラキラと輝いていた。


「まあいい、これで魔力とオーラが見えそうだ。それじゃあ、出来損ないの猿どもを殺しにいくか」

 

 ルシファーはグチャリと肉片を踏み躙りながら、路地の奥の闇へと消えていった。

 

***


「それじゃあもう行くよ」


 コルに別れを告げて、ベルクたちは王都を出る。

 

 馬車に乗り込んだ3人が見えなくなるまで、コルはずっと手を振っていた。


「あの負のオーラ。最高だな」


 ルシファーはペロリと舌なめずりをしながら、ベルクの方を見つめていた。

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