第60話 第5試合
「それでは、始めましょうか」
「待て、なんでこんなことするんだ。仲間が4人も死んでるんだぞ!」
闘技場で向き合うパスト司教とベルク。
「それが私たちの使命であり、運命なのです。ルシファー様を信仰した時点でもう私たちは覚悟していたんです」
「そんなことをして、何になるんだ!」
「貴方も酷なものですね。私たちの心配をするフリをして、結局は自分が助かることしか考えていない。ラウルさん、触らないほうがよろしいですよ」
「バレてたんか......」
パストの後ろの観客席に拘束されたディレクに、ラウルが近づこうとしていた。
「その方に私以外が触れれば、その方は死にます。それで困るのはあなたたちでしょう?」
「そんなハッタリ通じんわ」
「それなら触ってみたらいいじゃないですか。もっとも、あなたがその方を助けられないのはすでに決まった運命ですがね」
「いいんか?触るぞ?......クソっ、俺には無理や」
ラウルは渋々ディレクから離れる。
「それでは始めましょうか。【召喚魔法 |自己中心的な因果(セルフインタレスティッド・コース・アンド・エフェクト)】」
パストの背後から魔法陣が現れ、そこから蛇が出てくる。その蛇は、パストの腕に巻き付く。
「ハヤク、コロスゾ!」
ベルクには聞こえないほどの小さな声で蛇は話す。
「【火精霊魔法 炎纏いの刃 】」
鞘から抜かれた刀は、炎を帯び、パストの顔を照らす。
パストも腰に下げていた金属製のメイスを取り出す。
最初に仕掛けたのはベルクだった。ゆっくりとパストに近づき、間合いに入った瞬間、刀の切先が消えるほどの速度で刀を振るう。
「とても速くて、私には見えません」
パストはそんなことを言いながらも、メイスで刀を弾き防ぐ。
ベルクには、パストは刀の軌道を一切見ていないように見えた。
「なんで防げるんだ......」
「あなたが刀を振る前に、あなたの刀の軌道は決まっているのです」
「なに訳のわからないことを......」
「訳のわからない?事実を言ったまでです」
「軌道がわかるならこれも避けてみろ【火精霊魔法夜明けの光芒】」
ベルクの手から放たれた火は、銃弾のような速さでパストに飛んでいく。パストは火を放った瞬間、軌道を読んだように2歩ほど左にずれた。
火は闘技場の壁を抉り、煙を立てて消えていった。
「知っていますか?因果は宇宙が誕生した時点で全て決まっているのです。しかし、皆さんはそれを把握する術も、変える力もありません。ですが、私だけがそれを見て、変えられる」
「つまり未来が見えてるってことかよ......」
頭を抱えるベルク。幸いベルクの攻撃は素早く、パストがいくら攻撃の軌道を読もうが、こちらにパストの攻撃が通るとは思えなかった。
つまり、先に体力が尽きたほうが負けのジリ貧勝負になることが確定したのだ。
パストの話を聞くに、俺がいくら考えようが、最終的に行う攻撃はすでに決定している。つまり考えるだけ無駄ってことだな。
ベルクは考えるのをやめ、刀に意識を集中させる。
ベルクの猛攻が始まる。とんでくる火花が、その攻撃の強さを物語っている。
ベルクの痺れる腕が悲鳴をあげ始めた時、ひとつのことに気づく。パストの近くに寄ると、パスト以外の声が聞こえるのだ。その声は『右に23センチ下』などと言う指示をしていた。
あの肩にいる蛇。あいつが未来を読んで、パストに伝えているんじゃないか?
ベルクは狙いをパストの右肩に定めた。
「お前の弱点が見えてきた気がするよ」
ベルクの素早い刀がパストの肩を掠めた。刃は蛇をすり抜けてしまう。
「彼には私以外触れられません。仮にあなたが彼に触れられたとしても、当てられやしませんがね」
「ソウダ!コノバカガ!」
「じゃあ結局体力勝負になるわけね」
ベルクはため息をつき、刀を鞘に納める。
「【火精霊魔法 精霊憑依】」
いつにも増して素早い動きのベルクの拳は、虚しくも空を切る。それでも何度も殴りつける。
「はぁはぁ、あなたかなり強いのですね。どの司祭があなたと戦っても瞬殺されていたでしょうね」
「はぁはぁ、あんたには傷ひとつつけられてないけどな」
ベルクの魔法が解けてしまう。
ベルクは再び刀を抜き、構えた。
「おい、大丈夫か?」
ゼェゼェと肩で息をするベルクがパストに言う。
「もう結果は決まっています」
ベルクは今日1番力強く足を踏み込み、思い切り刀を振り下ろした。
ズルリ。
パストの足が疲労で滑る。パストは肩から腰にかけて斜めに刀傷を負ってしまった。
「オマエノ、ヤクメハ、モウオシマイダ。ヨク、ガンバッタ」
パストの肩で蛇がそう呟く。
「やはり、私は死にたくない......。ルシファー様の姿を一目でいいから見てみたい......」
「ナニ、イッテンダ、テメェ!」
パストは観客席の方に逃げる。逃げた先にはディレクがいる。
「まさか......まずい!」
パストは拘束されているディレクを、思い切りメイスで殴打する。
「ヤメロ!ヤツラヲ、コロスノハ、オマエノ、ヤクメデハナイ!シタガエ、コノ、アホガ!」
蛇が大口を開けシャーシャーと威嚇し始める。だが、パストはそれを無視して無心でメイスをディレクに叩きつける。
ディレクは言っていた。自分が死ねば、お前らも死ぬと。このままじゃ俺たちは全員死ぬ......。
もうすでにグチャグチャになり、助かりそうにないディレクを見て、ベルクは絶望する。
「私はこの後どうなりますか」
「マテ!イマミテル......。フフフ、オマエ、ウンガイイ」
「ルシファー様が降臨なされるのですか?」
「アア、オマエノセイデ、ジャクタイカシテ、シマッテイルガナ。コノ、アホガ!」
「申し訳ありません。そうだ、ルシファー様は今後どのようになされるのですか?」
「マエ、イッタダロ。オマエガ、シンダアトノ、カコハミエナイ。オマエハ、モウジキ、シヌ」
「わかりました。ルシファー様を見られれば、私は構いません」
パストはディレクに最後の一振りを決めた。
ミチミチミチ。
首から音がし始める。首輪が締まり始めたのだ。
「おいベルク!こっちに来い!」
ラウルはベルクに向かって叫ぶ。
「どうするんだよ」
ラウルの近くにいるラバドルが、首輪を手で引っ張りながらそう言った。
「みんな来たな。俺は初めて人に魔法をかけるから、失敗するかもしれへん。死んでも恨むなよ?【道化魔法| 現実は喜劇よりも嬉なり(ア・プレザント・リアリティ)】」
しばらくして、皆の首がとぶ。首輪がある程度締まった時、首輪の内側から刃が飛び出したのだった。首のない死体が5つ佇む。
「いてててて......。みんな生きとるんか?」
ラウルはとんだ首を拾い、頭をくっつける。その後に、みんなの頭を拾ってあげ、くっつける。
「は!お、俺の首が......くっついてる」
ベルクが目を開け、首をさする。それを皮切りに、皆目を開ける。
5人は遺跡を後にした。
「そういうことだったのですね。だから、私たちが生贄になるべきだったと」
「ソウダ。ホンライナラ、ヤツラヲ、コロスノハ、ルシファーサマノ、ヤクメダッタ」
「ですが、印をつけたディレクという男は殺しました。儀式はできます」
「イケニエガ、4ニンシカ、イナイ。ルシファーサマハ、カンゼンナチカラヲ、モツコトハ、カナワナイ」
***
「どこに行くんだ?」
遺跡から出た途端、バラバラな方向へ歩き出す4人。
「あ?俺たちが戻ったところで、一生牢獄か、ぶっ殺されるだけだろ」
ラバドルがそう吐き捨て、ベルクを残して3人はどこかに行ってしまった。
「俺はまだ罪を償ってない。やから、俺は戻るわ。ベルクは逃げたほうがいい」
とうとう1人になったベルクは、小走りで森を抜けようと足を踏み出した時。
「ベルク......大丈夫?」
目の前には、レナとオーギが立っていた。
「2人とも......無事だったんだな」
ぎゅっと2人を抱きしめるベルク。そんな3人に近づく者が1人いた。
「やあ、ベルク。大丈夫?」
緑髪の青年、悪魔の男、ベルだった。
「ベル......どうしてここに?」
「この2人が心配だったんでしょ?」
「あ、ああ。2人を助けてくれたのか......。ありがとう」
「フフフ、悪魔にお礼を言う人間って、なんか面白い」
ベルはクスクスと笑った後、少し深刻な表情をする。
「どうしたんだ?」
「実は、2人を連れてきたのはついでで、本当の目的は、この下にある」
ベルは地面を指差す。
「遺跡か?」
「そう。この下の空間が歪んでる。地獄とこの世が繋がるかもしれない」
「それは、まずいのか?」
「君たちにとっていい事は何ひとつ起きないだろうね」
ベルは3人の後ろにある遺跡の入り口に向かい歩いていく。
ベルは拳に力を込め、遺跡の入り口の壁に当てる。
バラバラに崩れ、塞がった遺跡。
「それじゃあ僕はこれで」
ベルは数メートル飛び上がり、木の上を走ってどこかに行ってしまった。
ベルクたちは、ひとまず王都を出ることにした。ディレクが死んだことにより、ベルクも死んだと思われている可能性が高いからだ。王都を出られれば、もう追われることはない。
3人は、森を抜けるために歩き出した。
【魔法解説】
|自己中心的因果(セルフインタレスティッド・コース・アンド・エフェクト)
未来に関する質問になんでも答えてくれる蛇を召喚する魔法。
過去のこと、自分の死後のことは聞くことができない。




