第59話 第3試合 第4試合
「あんた降参しといた方がいいで。絶対死んじまうぞ」
「ムリダ」
「わかったわかった、でも、手加減はできひんからな」
第3試合はあっけなく終わりを迎えることとなった。
「オイシイ、オイシイ」
ラウルの頭はフールに噛み砕かれ、ラウルの体はその場で立ち尽くしていた。
フールはブツブツの顔を掻きながら、今度はラウルの体を食べようとする。
「待てや待てや!」
フールの口からそんな声が響く。
「ナニ?ナニ?」
フールのお腹がぷっくりと膨らむ。そして、ミチミチと音がし始めた。
「クルシイ、イタイ」
フールの腹が裂け、ラウルの顔が飛び出てきて、佇んでいた体に引っ付く。
「最悪な気分や。ベトベトで気持ち悪いわ」
手で服についた胃液と血を払い、肩を落として歩く。
***
ため息をつきながら、生臭い臭いを放つラウルがベルクの横に座ってくる。
「5試合中3試合勝ったんや。これで俺らも自由やろ」
「いや、そうでもないらしい」
闘技場の真ん中にグラン司祭が立っていた。
「好都合。僕もやりたかったんだ。僕のこの時を止める魔法を思い切り使えそうだね」
ギルは立ち上がり、闘技場の真ん中へと歩いていく。
***
「僕は老人だからって気を使うつもりはないけど大丈夫?」
「お黙り!まだ人生経験の浅いあなたの方こそ戦えないのではないですか?」
「よくいるよね。無駄に歳を重ねただけなのに威張るババア」
「言ってなさい。その減らず口を塞いであげますから【逆転魔法鏡写しの常識】」
「やってみなよ!【時間操作魔法独りぼっちの右手】」
ギルは投げナイフを取り出し、放り投げた。だが、グランがパチンと指を鳴らすと、ナイフが壁に当たったかのように空中で一瞬ピタッと止まり、ポトリと地面に落ちてしまう。
「やるなー。でも、僕のフルスピードのナイフは受けられるかな?」
ギルは胸を張って腰を回し、野球のピッチャーのようなフォームでナイフを投げようとする。ちょうど、あげた右足を地面につけ、踏み込んだ時......。
グランが指をパチンと鳴らすと、ズルリとギルの足が後方に滑る。正確には足裏にキャタピラがつき、後方に走り始めたかのように足が引っ張られたのだ。
「どんな魔法を使った......!?」
ナイフを止め、足を後方に引っ張る。何も共通点のないこの2つの現象は確実にグランの魔法なのだ。だが、どのようなものなのか一切わからない。
「鏡写しの力を楽しんでちょうだい」
ギルは上着を捲る。上着には、無数の投げナイフが付いていた。
「数が多ければ対応できないでしょう?」
5本、10本、15本。無数のナイフがグランに投げられる。
グランは落ち着いた様子でパチンと指を鳴らし、ナイフを地面に落とす。
「それなら近接戦でいこうかな」
ギルは走り出し、グランの方へ近づこうとすると、踏み込んだ足がまたもや後方に引っ張られた。
滑るギルは派手に転んでしまう。
「あら大丈夫かしら?」
「あんまり僕をコケにするなよ......」
ギルは勢いよく飛び起き、右手でグランの頭を掴もうと手を伸ばした。その手はナイフのように壁に当たったかのようにピタッと止まる。その隙にグランは鞭を取り出し、ギルの頬を思い切り叩く。
肉のえぐれた頬から血が滴り、首を伝って血が垂れた。
「その右手。触ったら私タダじゃすまなさそうね」
「へえ、僕の弱点がもう露見しちゃったよ。君の方の魔法はさっぱりなのに」
「経験値の違いですよ」
「言ってろよ」
とは言ったものの、魔法の正体がわからない。透明な壁を張ったようにナイフや拳がぴたりと一瞬止まってしまう。さっき殴った時も、一瞬空気が固まって壁ができたような感覚があった。でも仮に、壁を張っていたとして、足が滑る理由にはならない。
足は真逆に引っ張られたように滑ったんだ。
待てよ......。やつは鏡写しの力と言っていた。もしや、あのババアの魔法は特定の力に拮抗した力を発生させる魔法?
ナイフや拳の進行方向にはたらく力と真逆の力を、足を踏み込んだ時は、足の進行方向と真逆の力を。それらを一瞬だけ発生させたのか。
「ふむ。魔法の正体がわかったものの、対策し難い。まあ僕にかかれば攻略できないこともないけどね」
ギルはしゃがみ込んで、床に敷き詰められた砂まみれの石をナイフで掘り出す。そして取れた石を思い切りグランに放り投げた。
石は弧を描き、グランの頭上へと落ちる。
石は一瞬ぴたりと止まり、グランはその隙に石を避ける。
「私の魔法はどれだけの質量のものにもはたらきます。まだまだ私の魔法を理解するのは無理そうですね」
ギルはそんな言葉を無視して何個もの石を投げ続ける。
「鬱陶しい。やめてください」
「それは無理な相談だ」
顔ほどの大きさの石を10数個投げたところで、残りの投げナイフを構え、真上に投げた。
その後、ギルはグランに近づき、右手を再び振りかざす。
「何度やっても同じです」
ギルの手は一瞬硬直し、グランは思い切りギルを鞭で叩く。
「いったぁ......。ねえ、上を見なよ」
ギルが先程投げたナイフはギルの魔法で空中に止まっていたが、それが一気にグランに降り注ぐ。
「あなたが上空にナイフを仕掛けているのを私は見ているのに、どうして対応できないと思っているのですか?」
ナイフは一瞬ぴたりと止まり、その瞬間に自分の上にあるナイフを鞭で振り払う。
勢いよく弾かれたナイフたちは、地面に砂煙をたてる。まった砂埃は、2人の視界を奪う。
いつの間にかいなくなったギルを、グランは懸命に探す。
シュッ。
微かな音が聞こえ、その方向からナイフが飛んでくる。
「それが狙いなのですね。ですが、この程度の攻撃、私は喰らいません」
ナイフは鞭で弾き落とされる。そしてグランは、ナイフの飛んできた方向に走る。
うっすらと見える黒い人影を思い切り鞭で叩いた。頭をとらえた鞭。だが、人影はびくともしない。
「手応えがおかしい......まさか!」
グランは急いで人影に近づく。
「これは......床の石材で作った人形!?」
そこには人の形に積み上げられた石が佇んでいた。それは先程ギルが掘り返した床の石が、時間を止められ空中で固定されていたものだった。
「ここからナイフを投げたはず。あの子は絶対に近くにいるはず!」
体を動かそうとすると右足が動かないことに気づく。
「僕の魔法で一度投げたナイフの時間を止めたのさ。魔法を解除すれば、僕が近くにいなくてもナイフは飛んでいく。ちょっとボケてるんじゃない?」
ギルが背後に立っていた。
「はめたな......このガキが......」
徐々に体を蝕んでいくギルの魔法に少しでも抵抗しようとグランから、そんな心無い言葉が出る。
「じゃあなババア。そのまま時代に取り残されてろ」
とうとう自分以外の仲間が死んでしまったパスト司教。だが、彼の表情は笑っていた。
「やはりあなたの言うとおりになりましたね。あとは私が懸命に戦い、死ぬだけです」
「アア、ソノトオリダ!ニエ。オマエハニエダ!」
パストの肩には毒々しい模様をした蛇が巻き付いていて、パストの耳元で何かを囁いていた。
【魔法解説】
独りぼっちの右手
右手で触れたものの時間を停止させる魔法。
右手で触れた部位に接している部分に徐々に魔法が広がっていく。
魔法を解除するまで一生時間が止まり続ける。
鏡写しの常識
特定の力と逆のベクトルの力を加える魔法。
例えば、足を踏み込む際に足の進行方向と真逆の力を加えられると、摩擦力に加え、足の進行方向にはたらいていた大きさと同等の逆ベクトルの力が追加され、足が後ろに引っ張られるようにズルリと滑ってしまう。




