第6話 2人を狙う影
「レナもう少し声のボリュームおさえろ。そんなに大声出したって魔法なんて出ないぞ」
「じゃあどうやってみんな使ってるの?」
「うーん、そういえば俺は魔力の循環ってのをやらされたな。意味があったかはわからんが」
「まりょくのじゅんかん?なにそれやってみる!」
「まずは目を閉じて、意識を体の中心、胸の辺りに集中させるんだ。そして、胸から外側に魔力をだして、その後胸の方にもどすんだ」
ふーっと息を吐き、レナは集中する。
「うーーーん」
「そうだ、集中して魔力を循環させて――」
まだ朝焼けの消えない早朝に、2人で練習している微笑ましい姿を、建物の影から覗くものがいた。
「ターゲットを見つけた」
魔道具を口に近づけそう呟く男。誰かに報告を終えた後も、まだ2人を陰から監視していた。
「ぜんぜんできないよー。こんなんじゃ早く起きたいみないじゃん」
「こんな短時間で使えるようになる方が異常だわ」
唇を尖らせ不機嫌そうなレナとそれをなだめるベルクは宿屋へと戻っていった。
「ターゲット屋内に入った」
1時間、2時間と刻々と時が進む中、男の周りだけ時が止まっているかのように、一切動かず2人を監視し続ける。
「レナ、そろそろ重いから膝から降りて」
「えー、やだー」
「そうだ、そろそろ朝ごはん食べに行かないか?美味しいとこ見つけたんだよ」
「いく。おなかすいた」
お店までの道を歩く2人の後ろを、男がついていく。
「5分後に作戦決行だ」
そう魔道具に話すと、路地裏へと消えていった。
「もう少しでつく?」
「ああ、もう少しだよ」
「やった」
2人がそう話しながら道を通っていると、路地裏からなにかが飛び出してベルクに当たる。
人がぶつかってきたのだ。
「ちょっと気をつけて――」
腹が熱い?
ベルクの腹は赤く染まっていた。ぶつかってきた男の右手に持った刃物からは赤い液体が滴っている。そいつは、レナに蹴りを入れ気絶させた後に、レナを小脇に抱え逃げていった。
「まて......」
血が止まらない......。
ふーっと息を吐き魔法を唱える。
「【火精霊魔法 炎纏いの刃】」
炎を纏うその刃を腹に押し当てる。肉の焼ける嫌な臭いと激痛にうめく。
そんな声が聞こえるが構っている暇なんてない。ふらつきながら人攫いの逃げた路地裏へ走った。
レナを抱えた男は、薄汚い路地裏とはそぐわない高そうな服を着た男にレナを差し出す。
「素晴らしい。カルロス様がお喜びになれる。カルロス様の大事な奴隷を見つけた私はどれだけ誉められるでしょうか」
満悦の笑みでそう呟く男を無視して、人攫いが口を開く。
「これで俺の仕事は終わりだ。早く金を渡せ」
「そんなに焦らなくても渡しますよ。これだから下民は、本当に意地汚い」
「あんたムカつく野郎だな。まぁ、俺は金さえもらえればなんでもいいんだが」
「それより、この奴隷につきまとっていたベルクという名の下民は、しっかり処理していただけましたか?」
「殺してはない。だが、重症を負わせたし、この場所までの道に俺の仲間3人を待機させている。ここまで来ることはないだろう」
「なぜ殺すなかったんですか!これだから下民は」
「こんなはした金で殺人まで請け負えるわけないだろ」
路地裏で揉める2人にひとつ近づく影があった。
「おい、レナをかえしやがれ」
息を切らしボロボロのベルクが、刀を2人に向ける。
「なんだお前......腹ブッ刺してやったのになんで......ていうか俺の仲間はどうした」
「お前の仲間はそこらへんでのびてるぞ。そんで次はお前らの番だ」
「この役立たずの下民が!だからあれほど殺せと言ったんです!カルロス様のために私の盾となりなさい!」
「俺の仕事は終わった。ここら辺で帰らせてもらう」
「カルロス様のために働く喜びがわからないのですか?そんな愚か者は壊れてしまえばいい」
その男の顔つきが変わった。さっきとは打って変わったおぞましい雰囲気が漂う。そして男は魔法を唱えだす。
「【心身操作魔法 愚者の戯言】」
人攫いは剣を抜き始め、目つきが鋭くなる。
「殺す殺す殺す殺す殺す」
さっきまで帰ると言っていたはずの人攫いが、そうボソボソと呟き血走った目でこちらに走ってくる。
ベルクは冷静に剣を持つ人攫いの右手を、刀の峰で叩き折る。だが、人攫いはひとつも怯まず、残る左手で拳を振り上げる。
「なんだこいつ......」
ベルクは少し恐怖を覚え、人攫いを蹴り飛ばす。それでも、顔色ひとつ変えずむかってくる。
キリがない。おそらくもう1人の男が魔法で人攫いを狂わせているんだろうな。それなら......。
迫り来る人攫いの足を払い、地面にうつ伏せになったところで、足首の腱を斬る。まだ襲ってこようとするが、うまく歩けないようだ。これで行動が制限できた。
「この役立たずめが。これ以上は魔力の無駄にしかなりませんね」
そう言った途端人攫いが叫び出す。
「いってぇぇ!俺の足と手がぁぁ!」
のたうち回る人攫いを見るに、魔法が解かれたようだ。
「人を操る最低な奴め。あとはお前だけだ」
「ふん、なにをおっしゃるのですか。このような力のない下民は愚者の戯言にさえ耳を傾け、下手なおべっかにいい気になり、力を利用される無知な王となる。それが自然の摂理なのです」
「なに訳のわからないこと言って――」
「訳の分からない?このエドワードめが、あなたに弱さを自覚させてあげましょう。そうすればわかるようになりますよ」
エドワードはレナを地面に寝かせ、腰のレイピアを抜き構える。
そして魔法を唱え始めた。
「【心身操作魔法 無知な王】」
エドワードの周りに水の玉が十数個出現する。
「どう言うことだ、いくら人の心を操る珍しい属性だからと言って、全く関係のない水魔法を使えるわけが......」
「驚きましたか?私のこの魔法、愚者の戯言で操ったことのある相手の魔法を奪えるんですよ。素晴らしいでしょう?」
エドワードは俺のことを舐めているのか、余裕の表情で魔法の説明をした。
「舐めやがって、すぐに倒してやるよ」
そう息巻いてみたはいいものの、俺の魔法は火の精霊の力を借りるものだ。相性はかなり悪い。下手に魔法を打って魔力がなくなれば負けるだろう。だから、相手の魔力切れまで耐えるのが1番いいだろう。
飛んでくる水の玉を斬り伏せ避けながら、魔力切れを待つ。
「逃げてばかりですね。もしかして魔力切れを狙っているのですか?ふーむ、では避けられないようにしてしまいましょう」
俺の背後から土の壁があらわれる。もう後ろには逃げられない......。
エドワードは空中に浮く水の玉を何個も、自分の横に広げ逃げ道をなくす。
流石にこの量は避けきれない。
しょうがない......やるしかない。
「【火精霊魔法 精霊憑依】」
ベルクの背後からでてきた、ツノの生えた燃える人型の精霊イフリートが、ベルクと重なる。その瞬間、ベルクの姿がイフリートに酷似したものに変化する。そして拳を握り締め、前に飛び出す。
「そんな魔法を隠していたとは......まぁこの量の魔法を避けられなければ意味がありませんが」
そう言い水の玉をベルクにむかって一斉に飛ばす。
数発当たったもののそれでは止まらず進み続ける。
「貴様!なぜこれほどの魔法を受けて怯まないのですか!」
そう叫ぶエドワードを無視して、その腹に拳をめり込ませる。
綺麗に吹き飛んでいったエドワードは失神していた。
魔法が解けた瞬間崩れ落ちるベルク。
「くそ、傷を負いすぎた......」
腹の切り傷に加え、エドワードの魔法による複数箇所の骨折。
だがそんなことを気にしてる暇はない。奴らの仲間が近くにいるかもしれない。ひとまず路地裏から出ないと。
「レナ......帰るぞ......」
レナを背負い、路地裏から表通りに出た。そこで限界を迎えたベルクは倒れ込む。
「朝飯、食い損ねたな......」
気が遠くなるのを感じながら、そんなくだらないことを呟いた。
【魔法解説】
愚者の戯言
自分の魔力量の半分以下しか魔力量を持たない者を操る魔法。
ちなみにエドワードの魔力量は110で、人間の魔力量の平均は70ほど。
無知な王
愚者の戯言で操った者の魔法を借りる魔法。
この魔法を使っている間、魔法を貸した者は魔法を使用できない。また、一度に3つまでの魔法を使うことができる。
精霊憑依
自らの体に幽体のイフリートを宿らせる魔法。
ツノが生え、体に亀裂が入りその間から炎が噴き出すなど、人間離れした見た目と力を手に入れることができる。




