第58話 第2試合
「次は私の番ね。張り切っちゃおうかしら」
「うっほー、可愛い姉ちゃんじゃねえか。殺すのがもったいねえな」
第二試合 メリー対第1司祭フリップ。
2人は表面的に見れば、戦おうとしているような雰囲気ではない。だが、闘技場を満たすほどの殺気が彼らからは漏れていた。
「私に殺される準備はできたかしら?」
先端に3本の針のついた球のついた鎖が繋がれたモーニングスターの柄を下から上へとゆっくりと舐めた。
フリップはロングソードを抜いた。
メリーは走り出し、モーニングスターを振り回す。
「いいねえ、やっぱり女は刺激的じゃねえと。【防御魔法 5分間の拷問】」
振り下ろしたフリップの剣は、メリーの頭上に向かう。その剣をメリーは鎖で絡めた。
「太くて大きい......いい剣ね。でも、持ち主がそんなのじゃ宝の持ち腐れだわ」
思い切りモーニングスターの柄を引っ張り、剣を取り上げる。剣がなくなったフリップは、素早く後ろに下がる。
「まあいいさ。俺には立派な銃があるからな」
「へぇ、あなたの銃小そうだけど」
フリップのことを笑うメリーのクスクスという笑い声。それは銃声によってかき消され、やがて悲鳴に変わる。
フリップが一瞬で懐から取り出した魔法銃は煙を吹いていた。
「な、なんで......まともに照準も合わせてないのに」
「俺は7メートル先まで正確に早撃ちできるのさ」
ポタポタと垂れる血がメリーの足元を濡らす。
腹の銃傷は致命傷ではなかったものの、気を失うには十分だったらしい。倒れてしまったメリーにフリップが近づく。
「俺が愛するのはルシファー様だけ。下品な女に靡くわけないわな」
メリーの髪を掴み、顔を持ち上げて、虚ろな目をするメリーにそう話した。
「あ......ぁぁ、許して......」
メリーはそう呟き、フリップの頬を手で撫でる。フリップはその手を払おうと手を伸ばすと、その手をガシッと掴まれる。
「なっ!」
メリーは力強くフリップの顔を自分の方に寄せ、口づけをする。
「こんな傷で意識が朦朧とする訳ないでしょ。女の嘘も見抜けない童貞さんは、私の魔法で死んじゃいなさい【精神操作魔法 調教師の口付け】」
フリップの目からフッと光が消え、地面に倒れ込んだ。
「流石に痛いわね。はぁはぁ」
メリーは上着をちぎり、傷口を止血する。縛った上着に滲む血は、どんどん量を増す。
メリーには趣味があった。
「あなたは今から死んじゃうのよ。フフフ、可愛い顔ね」
メリーは、いやらしい手つきでフリップの体を触る。
今から殺す男の私物を持ち帰るのが彼女の趣味だった。
しばらく探っていると、コツっと手に何か固いものが当たった。咄嗟に上着を脱がせると、8丁もの銃がフリップの体中にあるホルダーに収められていた。
「こんな重いもの抱えて戦ってたの!?」
メリーはとりあえず魔法拳銃を全てホルダーから外す。
メリーは次にズボンのポケットに手を突っ込んだ。
ポケットの中には、異質な懐中時計が入っていた。
「何これ?何のための物?」
確かに時を刻んでいるその時計のメモリは1から5までしかなく、普通の時計でないことは一目瞭然だった。その時計の針は、4と5のメモリの間をチクタクと動いていた。
この時計のメモリが5のところにいったら一体どうなるのか。
メリーの背中に寒気が走る。すぐに時計をポケットにしまう。それから十数秒後......。
ジリリリリリリリリ!
耳を塞ぎたくなるほど大きな音が闘技場に鳴り響く。
「何この音......」
時計の音が鳴り終わると、フリップが何事もなかったかのように起き上がる。
「私の魔法が効かないの!?」
「もう5分たっちまったから、もう俺には効かねえ」
「いいわよ。困難が多い方が、恋は熱くなるもの」
メリーはモーニングスターを振り回し、フリップの顔を殴打しようとする。フリップは、後方にバク転をして、懐に手を入れる。
「銃を抜きやがったな」
「ごめんなさい、私へのプレゼントかと思ったの」
フリップは一歩前に出て、大きく足を蹴り上げた。メリーの手首をへし折る勢いで蹴られた手は、モーニングスターを手放してしまう。メリーの武器は、フリップの手に渡ってしまった。
「それじゃあこれはお返しかな?ありがとよ」
モーニングスターを振り回すフリップに、メリーはさっき奪った銃を向ける。
「その構え方。素人だろ」
下手くそな構え方のメリーにフリップは言った。
「別に動かない相手なら当たるかもしれないわよ」
「なに言ってる、俺は動き続けて......まさか!」
メリーの銃口は観客席へと向いていた。そして引き金が引かれる。
思わず後ろを見るフリップは気づく。
この距離を素人がそう簡単に照準を合わせられるのか?
観客席に座る仲間たちとメリーの間には距離があり、後ろを確認しても誰も怪我をしていない。咄嗟にメリーの方に向き直すと、すぐ目の前にメリーがいた。しかも、フリップの頭に銃を突きつけて。
「じゃあねー」
パン!
響いた銃声の次に、ドサっとフリップが倒れる音がした。
「いい男かと思ったけど、私の勘違いだったみたいね」
メリーはハンカチで血の顔を拭い、口紅を塗り直した。
【魔法解説】
5分間の拷問
魔法を無効化する魔法。
無効化したい魔法を受けてから5分後に効果を発現する。
魔法発動時に手に現れる懐中時計が5分を知らせてくれる。
調教師の口付け
生物の自我を奪う魔法。
自分の体液を操りたい相手に摂取させることで、魔法が発動する。




