第56話 千切れそうな手綱
「おいガキ、今なんつった?」
「僕の方が君より強いって言ったのさ。ラバドル君」
「2人とも少し落ち着いてや。俺たち一応仲間なんやで」
揉めるラバドルとギルをラウルはなだめる。
誰も出歩いていない真夜中に、罪人4人とベルク、それにディレクは、悪魔崇拝者たちのアジトに向かっていた。
「なんでこうも揉めるのですか」
「罪人を集めてチームを作ってもまとまるわけがないだろ」
ため息をつくディレクにベルクが言った。
「指揮官があんたみたいな奴だからじゃないの?」
嫌味を言うメリーをディレクは無視して、少し足を早めた。
「無視?それとも照れてるのかしら」
後ろで煽るメリー。ディレクはいきなり振り向いた。
「なに?また首を締めるのかしら」
「つきましたよ。ここが目的地です」
「そりゃよかったわね」
舌打ちをするメリーを無視してディレクが話し始める。
「この時間帯。この家で悪魔崇拝者が集まっています。それに、複数の司祭と彼らのトップの司教もこの国に入国したと、今朝聞いています。十分に注意を――」
「中には2人しかいないよ」
ゼルがそう言う。
「それは確かですか?」
「こんなものを付けられているのに僕が嘘をつくとでも?」
ゼルは呆れ顔で首輪を指先でトントンと触り、そう言う。
「ここに2人しかいないとは......。勘づかれましたかね。仕方ない、その2人をさっさと殺してしまいましょう」
「本当にこんなやつ信じていいのかよ!」
ラバドルは少しイラつきを見せる。
「君はもしかして、家の中にいる人間の人数すらわからないのか?これで確信に変わったよ。君はすごく弱い」
「殺すぞクソガキ」
「もうやめてください。早く行きますよ」
6人は家の中に歩みを進めた。鍵のかけられていない扉はすんなりと開き、中の黒ローブの女たちが驚く。
「あなたたち一体――」
1人の女が話している途中で、ゴトリとその女の首が落ちた。
「お姉様!な、なんで......」
もう1人も首から血を吹き出させて倒れる。
「おいクソガキ。俺が弱いっていったっけ?」
ラバドルは赤黒く染まったナイフを舐める。
「あー!情報を聞き出してから殺したかったのに!」
頭を抱えるディレクの肩をラウルがポンと叩く。
「どんまいや。まあ次があるさ」
「だいたい死刑囚なんで分かり合える訳がないのに、そいつらと協力しろだなんて無理に決まってるのに......」
ディレクがボソボソと何かを呟く。
ベルクも価値観の違いに疲れ、ため息をつく。
そんな2人の背後で、ガチャガチャと鎧が揺れる音と、騒がしい足音が響いた。
「ディルクさん!今遺跡に敵が!」
走ってきた騎士は、少し荒い息でそう告げる。
「あなたたち、早く行きますよ!」
***
ベルクが一度行った悪魔崇拝者の遺跡。その最奥の闘技場で、4人の司祭と司教がいた。
司祭の女が司教に何かを訴える。
「司教様!今日は祈りを捧げなくてもよろしかったのですか?教会に信徒2人をおいて出てきてしまいましたが......。それにここは既に知られた遺跡です!危険かと思われますが」
「別に良いのです。私たちはもう祈りを捧げる必要がなくなるのですから」
「どういうことですか?」
「今日ここで、闘技祭を行います」
「生贄は?それに、悪魔を召喚できても、私たちの使命は達成されません!」
「生贄はこちらに向かってきております。それに、あなたたち司祭は、儀式について何も知り得ていません」
「儀式については少なからず知っているつもりです」
「いえ、あなたたちはほとんど知らない。そもそも闘技祭は、悪魔召喚の儀式ではありません。悪魔召喚儀式は本来、召喚魔法陣に逆五芒星を加えたものの周りに、神の使いの象徴の猫人族の心臓を捧げるという方法、ただ1つだけ」
「じゃあ闘技祭とはなんなのですか!」
「あれは空間を歪ませ、地獄とここをつなげる地獄門を開通させる儀式です」
「それはまさに我らの目的......。ですが、過去の儀式でそのようなことが起こったことはありません」
「生贄の質が違うのです。おそらく別の世界から来た極上の負のエネルギーを持つ男、人を平然と殺すクズども、それと、司教、司祭の名を冠するほど悪魔に尽くした者たち。これで、私たちは新しき世界を。理想の世界を作ることができるのです」
司教の高らかな笑いが、遺跡中に響いていた。
***
「早く入ってください!」
「あー、こんなカビ臭えとこ嫌だよ。それに俺はもう2人殺したじゃねえか」
「僕も今回はパスかな。視界が悪すぎるよ。実力も人数もわからない敵に、こんなところで狙われたら確実に死ぬよ」
「俺も今回ばかりは、こいつらに賛成や。不確定要素が多すぎるんやわ。完全に自殺行為や」
「じゃあ私もやめるー」
完全にやる気をなくした4人は、遺跡を入ってすぐのところで座り込んでしまう。
ベルクも同意見だった。悪魔崇拝者たちの恐ろしさを身をもって経験しているからである。
「もういいです。私行きますから。それと、私が死ねばあなたたちも死にますからね」
「......今なんて言った?」
ベルクが驚き、動けなくなっている間に......。
「な、なんですか!やめてください!」
「ツカマエタ、ツカマエタ」
ディレクは呆気なく、目の前で捕まってしまう。
「みんな!ディレクが捕まった!」
ベルクの叫びは虚しく、あっという間にディレクは連れ去られてしまった。
「私これだから弱い男が嫌いなのよ!目を離したらいなくなるなんて、赤ん坊か何かなの?」
「今そんなこと言うてる場合やない。早く追いかけるんや!」
呆れた様子の4人の罪人たちは、ベルクと共に急いで遺跡の奥に向かった。
***
遺跡の奥の闘技場。そこに、ディレクが囚われていた。
「離せよ!気持ち悪りぃ!」
「キョウソサマ、ダメ、イッタ」
話の通じない身体中イボだらけの大男。彼は同じ言葉をひたすらに繰り返していた。
ディレクが恐怖と混乱を抱えている時。
「ディレクは返してもらう。大人しく渡してくれ。傷つけたくはないんだ」
4人の罪人とベルクが追いかけてきていた。
ベルクがみんな無事に済むよう優しく司祭たちと司教に声をかける。
「テメェらあんま舐めてることしてたら、首飛ばしちまうぞ」
「僕は今日少々イラついているんだ。早くその役立たずを返してもらおうか」
「おいおいおい、ベルクが相手を逆上させないために優しく離してるんや。お前らも落ち着いて話せや」
5人が来たことに気づいた闘技場の観客席に佇む複数人の黒いローブの人のうちの1人が、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
身構える5人を恐れず、1歩1歩着実に足を進めていく。
「こんにちは、私はパスト。彼らを統べる者です。早速ですが、あなたたちには私どもと戦っていただきます」
ベルクは予想外の言葉に少し困惑する。
「つまりテメェをぶっ殺せばいいんだろ!」
ラバドルが素早い動きでパストの首にナイフを突き立てるが、パストの未来を読んだような動きでナイフを掴む。
「落ち着いてください。ちょうどそちらも5人のようなので、1対1の形式で戦いましょうか」
そう言った後、パストはラバドルのナイフを離した。
クシャ。ラバドルのナイフを持つ手から、何か音がした。
「なんだよこれ......なんで俺たちの名前を知ってる」
そこにはベルクたち5人の名前と、おそらく悪魔崇拝者たちの名前が書かれており、誰が誰と戦うのか書き記されていた。
【対戦表】
ラバドル ー 第4司祭シャイ
メリー ー 第1司祭フリップ
ラウル ー 第2司祭フール
ギル ー 第3司祭グラン
ベルク ー 司教パスト
「早速第1試合を始めましょうか。もちろんあなたたちに拒否権はありません」




