第51話 三つ首の怪物
「少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「仕事だし、もう少し頑張るよ」
コルは目を擦り、再び石碑に目を落とす。コルはお昼をとってからずっと休んでいなかった。
「なんかあんまり何にもないんだね」
4人は今まで何個も小部屋を見つけたが、古臭いボロボロの装飾品があるくらいで、興味をそそるものは見当たらなかった。それに、魔物の数も少なく、みんな少し退屈していた。
「そろそろ晩ご飯にするか」
ベルクは鍋に濁った水を入れ始めた。
「なにそれー?」
レナがそのいい香りの水を見てそう聞いた。
「今日のお昼、皆んなで鳥手羽食べただろ?その骨を煮込んだんだ」
「それってうまいのか?」
オーギが少し嫌な顔で聞いてくる。
「おいしいぞ。水で洗ってあるから汚くもないし」
ベルクはそれと他に水を沸かし、鞄から遺跡に行く前に作っておいた麺を取り出した。そして、それを茹でていく。
温めた鶏がらスープを器によそい、そこに麺を入れて、昼についでに作っておいたチャーシューを少し炙ってのせれば。
「塩ラーメンの完成だ」
麺を無心に啜る3人を見ると、よほど美味しかったように見えて、ベルクは嬉しくなった。
啜るたびに口の中に広がる鳥の出汁はいい匂いで......。なにかがツンと鼻をつく。それと同時にレナが言った。
「みんな静かに!」
「何かあったか?」
「魔物かも......。先に何かいる」
ベルクはレナとオーギにコルを守るように告げて、先に進んでいった。
50メートルほど進んだくらいでベルクが小走りで戻ってくる。
「今すぐここから出るぞ」
そう言ったベルクの表情は焦りに満ちていた。
「何かあったのか?」
心配そうに尋ねるオーギ。
「灯りが見えた。ここの調査は俺たちが初めてって聞いてる。変な輩が宝目当てに侵入してきたのかもしれない」
荷物を片付けるベルクは、先に3人に逃げるよう促す。
3人は後ろを気にしながら前に進むと何かにぶつかった。
「何してる?何してる?何してる?ここは我らの地」
見覚えのある黒い布を被った大男がそこには立っていた。
「贄の仲間かもしれません。きっとそうです」
「ちょうどいい。連れ去るぞ」
大男の背後から小柄な黒い布を被った男と黒い山羊の被り物の男がひょこっとでてくる。
「なんでここに!?」
「確かに我らは贄を追ってここにきた。だが、ここは我らの地だ。汚す気か?クズが」
黒い山羊の被り物を被った男は魔法を唱えた。
「お前ら、やるぞ。【変化魔法 狂信者の抱擁】」
3人の怪しい男たちが抱き合い、溶けて、絡み合い、ひとつの生き物を形作る。
これほどまでに醜い生命の誕生は4人に恐怖感を与えた。
「な、なんだよこいつら!?」
オーギが驚くのも無理はなかった。
3人の男は一体の三つ首の4メートルほどの大男の怪物となっていた。その怪物は足は2本だが、腕が6本生えており、真ん中の顔には目しかないうえに、目が6つついていた。そして、左右の顔にはクチしかついていなかった。
「クソッ、戦うしかないのか......」
「べ、ベルク、び、ビビってんのかよ」
ベルクはオーギの震える声に少し励まされる。
「いいや、みんなにかっこいいところ見せたくてウズウズしてるよ。フー。よし、行くぞ!【火精霊魔法 精霊憑依】」
ベルクはイフリートの力を借り、その拳を握りしめて、怪物の顔めがけて思い切りぶん殴る。
「手応えありだな」
怪物の真ん中の首はおかしな方向にひん曲がり、ぶらぶらと垂れ下がっていた。
「今だ!【水魔法 銀の水飛沫】」
レナは怪物が怯んだ隙をつき、空中に飛び上がって、戦鎚を振り上げた。
それを見て怪物は、素早くロングソードを3本抜き、応戦しようとする。が、その剣を持つ腕はいっこうに動かない。
「【生命創造魔法 自由なる逃避行】レナ!やっちまえ!」
オーギの魔法が怪物の腕を押さえつける。
「ありがとうオーギ君!」
レナはそのまま水を纏わせた戦鎚を振り下ろし、右腕を2本、肩ごと抉った。
「うぐぉぉぉぉ!」
怪物は残った一本の右腕で、レナを思い切り殴った。吹き飛んでいくレナをベルクが抱え、勢いを殺す。
ベルクはレナを地面に下ろして、刀を抜く。そして、ベルクは刀を怪物の左首めがけて投げた。
刀は左首を斬り裂き、後ろに飛んでいく。しかし、左首は斬り落としそこねられた。
「オーギ頼む!」
「まかせろ!【生命創造魔法 空を掴め!】」
刀に羽が生え、オーギに向かい一直線に飛んでいく。そして、刀とオーギの間にある左首を斬り落とし、刀はオーギの手に戻ってきた。
「オーギいくぞ!」
ベルクはオーギの鞘から剣を抜き、ベルクは剣、オーギは刀で怪物の足を斬った。
「うぐぅぉぉぉ」
跪いた怪物に、レナが戦鎚で腹に一撃を喰らわせた。
怪物はドロドロに溶け、変身が解ける。
3人の男たちは皆ボロボロで、倒れたまま起き上がれなさそうだった。
「みんな大丈夫なの!?」
コルが心配して、3人に駆け寄ってくる。
「なんとかな」
息を切らす3人はその場にへたり込む。
ザッザッザッ。
4人の元へ近づいてくる足音に、みんな身構える。
「大丈夫ですか?」
現れたのは騎士たちだった。
「なんでここが......?」
「あなたたち、動画撮ってらっしゃいますよね。それを見た人からの通報でここに来ました」
そういえば、撮影していたんだったな。
***
ベルクたちは、騎士団に保護された。
遺跡は奥まで探索されたが、闘技場のような少し広い空間があっただけで、人影は一切なかった。そして、ベルクを追う者はいなくなった。いや、正確には増えた。
ベルクたちは、先の動画でそこそこの人気を獲得し、街で声をかけられることがあるほどの知名度になったのだった。




