第48話 騙し続けた過去に終止符を
ベルクは眠れない夜を過ごした。クマがくっきりとついた酷い顔で2人に朝の挨拶をする。
「ベルクもうお昼過ぎだよ。どうしたの?疲れた顔して......」
「なんでもないよレナ。俺ちょっと行ってくる」
「どこにいくの?」
「その、まあ、ちょっとな」
そうとだけ言い残して、ベルクは出ていってしまった。
「ねえオーギ君。なんだかベルク怪しくない?」
「ほんとだな。よし、後をつけるか」
***
「今日こそは仕事の話をしにきた」
ベルクはフォルクの言葉を無視して、またあの建物の扉を叩いていた。
「ベルクさん。入ってください」
ベルクは建物の中に入った瞬間、案内してくれたシアの首に刀身を当てる。
「勘違いだったらすまない。何か悪いことしようとしていないか?」
「はぁ、あなた面倒なタイプですね。ボス!早くやっちゃってください!」
呼ばれて出てきたフォルクは明らかに動揺していた。
「ベルク......な、なんでおるんや......」
「ベルクさん......あなた、私の人形に何か吹き込みましたね?まあ良いですけど......」
シアはそんなことを言って、フォルクを睨んだ。すると、フォルクが右足を押さえてうめく。
「ううぅ......」
うずくまっていたかと思うと急に起き上がり、懐から銃を抜く。
「おいおいおっちゃん、シアを離せや。このボンクラがぁぁぁ!」
叫ぶフォルクが放った銃弾を防ぐためにベルクはシアを離して刀を振るった。
「フォルクどうしたんだ!」
「うるさいなぁ、頭ん中にどでかい穴開けて黙らせたるわ」
フォルクの魔法拳銃は、数発の玉を放つ。ベルクはそれをなんとか凌ぎ、フォルクの右足を切る。
ズボンの右足部分が破れ、足にへばりついた虫のような物体が現れた。
「やっぱり右足に何かあったか。これが原因だな」
「あーあ、まあいっか多少壊しても」
レイは変なことを呟く。そんなレイを無視してフォルクの右足についた何かを叩き斬った。
「か、体が自由に......」
「もう良いですよ。どちらにせよフォルクは処理するつもりでしたし」
レイの後ろには地下室への階段があった。そして、そこから足音が聞こえだす。
「フォルク!早くこっちに来い!」
焦るベルクはフォルクを後ろに庇い、魔法を唱える。
「【火精霊魔法 火竜の行進】」
サラマンダーたちの吹く火が、レイと2人を隔てる壁となる。
フォルクとベルクは、その場からすぐに逃げ出した。
「クソクソクソクソクソクソ!死にやがれゴミどもがァァァァァァ......ふぅ、皆さん早くベルクさんを探してきてください」
***
「はぁはぁ、うぐっ」
フォルクはベルクに肩を貸し、ゆっくりとベルクの泊まる宿へと向かっていた。
ベルクの引きずる左足からは血が滴っており、フォルクの打った玉がまだめり込んでいた。
「本当にすまない。俺は無関係なベルクを巻き込んでもうた」
そう呟くフォルクの声はベルクに届いてはいなかった。
「まずい。血が出過ぎてもうてる」
***
「オーギ君あれ見て!ベルクだよ!」
レナはオーギを揺さぶり、そう言った。
「なんかあれおかしくないか?」
ベルクの様子が何かおかしかった。
「血がでてる。早く助けに行かないと!」
2人はベルクとフォルクに近づく。
「どうしたのベルク!?」
返事のないベルクを見て、フォルクが口を開いた。
「俺が......やったんや」
レナはすぐにベルクを抱き抱え、オーギは剣をフォルクに向けた。
「離れやがれ!」
「や、やめろ......オーギ」
「でもこいつは!」
「いいんだ......フォルクは利用されていただけなんだ......」
「ベルクがそう言うなら......」
4人は怪我を負ったベルクを抱えて、宿へと急いだ。
***
「まずはベルクを治癒院に運ばないと!」
「だ、だめや。あいつらがそこらをうろちょろしてる」
レナの提案をフォルクが否定する。
「あいつらって?」
「レイの魔法で操られている奴らや」
オーギが聞くとフォルクは少し震えた声で言った。
「な......なあ、なんでそもそも......あいつの言うことを......聞いていたんだ?」
掠れた声のベルクがフォルクにそう言った。
「俺は......俺の名前は、ベルクの言っていた通りラウロや。元々戦争のせいで精神を病んでしまっとったんや」
フォルクもといラウロは、シアとの出会いから今に至った理由を話してくれた。
ラウロは元々騎士であり、受付嬢の夫とは友人であった。
2人は数年前、戦争に参加したそうだ。そこで2人は病み、床に伏してしまった。片方は妻の支えがあり、なんとか生きていたが、ラウロの方は縋るものがなかった。家族は故郷に置いてきたからだ。だが、ラウロに運命の転機が訪れる。
ラウロの家に1人の少女が訪ねてきた。その大人びた白髪の少女は、ラウロの戦争での活躍を聞いたと語り、私ならその心の病気を治せると言ってきた。
悪魔は天使の姿を借りて現れる。
何度も家を訪れてくれる少女は、ラウロの心の支えとなり、病気を少しずつ治してくれた。だが、ラウロは彼女に依存していることには気づかなかった。彼女の巧みな話術により、ラウロは彼女の言うことをなんでも聞くようになった。
シアの言うことを聞けば全てうまくいくんや。
そんな考えを持ち、それを一切疑おうとしなかった。
ある日、彼女はラウロの足に何かを植え付けた。それは、彼女の魔法で生み出した魔道具であり、ラウロを地獄に引きずりこむ悪魔との契りに違いなかった。
ラウロはフォルクと名乗り、帝都ハイルへと移り、夜な夜な小悪党を襲うようになった。自分の意思とは関係なく体が動くのだ。そして、その捉えられた悪党は......。
悪党たちは、シアにより心なき兵隊へと変えられた。
兵隊が100に到達した頃、シアはその兵隊を元に犯罪組織を作った。それは順調に大きくなっていき、イカれた悪魔崇拝者のスポンサーがついた。
辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。
ラウロは勝手に人を殺す自分の体に、そして、勝手に動いてしまうんだから仕方ない。これは全てシアのせいだ。そう思って罪悪感をあまり感じない自分にもうんざりしていた。
日に日に悩む時間が増えていった。
「そんで、いろいろあって今に至るわけや」
「シアの魔法はわかる?」
「全ては知らないんやが、4つわかる」
シアの魔法は魔道具生成魔法。
一つ目は寄生する思想
これはラウロの足についていたもので、体が勝手に動いてしまうらしい。
2つ目は魔女の毒林檎
これは頭に刺す針の魔道具で、刺された瞬間小悪党が気を失ってしまったらしい。その後、呼吸はするが、目を開けることはなかったとラウロは言っていた。
3つ目は霊柩が開く
これは棺の魔道具で、魔女の毒林檎で気を失わせた小悪党をここに入れると、意識が戻ったらしい。でも、話すことはなく、涎を垂れ流し、簡単な命令しか理解できなくなったらしい。
最後はお話好きの器
これは陶器の魔道具という以外わからないらしい。
「注意すべきなのは、その兵隊たちと寄生する思想だな」
オーギはそう言って、武器を鞄に詰め込み始めた。
「ま、まさか戦う気なんか?やめとけ!勝てるわけないやろ!」
「このままじゃベルクが死んじゃうかもしれない。無理にでも治癒院に連れていく!」
レナがそう言って、ベルクを背負った。
オーギとレナの2人はベルクを連れて、ラウルを残して行ってしまった。
俺は変わるんや......。
ラウルは走って2人の後を追った。




