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君のための異世界放浪記〜奴隷猫耳少女は旅人に連れられ旅路を歩む〜  作者: みかん太郎
第1期 第5章 ティルシ王国編①
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第47話 戦争神経症

「どうぞあがってください」


 ベルクたちが冒険者を初めてあっという間に1週間が経った。

 今日は受付嬢に料理を教えるために彼女の家に来ていた。

 なぜ彼女がベルクに料理を教えて貰いたいのか。その理由をベルクたちは、すぐに知ることになる。


「おじゃまし......ます」


 ベルクたちは家に入るなり少し驚いた。家の壁にはそこら中に穴が空いており、家具がほとんど置かれていなかった。


「うぁぁぁぁぁ!」


 部屋の奥から急に響き出すけたたましい叫び声。驚き声も出ない2人を置いて、彼女は部屋の奥へ消えていく。


「な、なんかやばくないか?」


 動揺が隠せない震えた声のベルクに2人は頷く。しかし、黙って帰るわけにもいかないので、3人は大人しく待つ。

 長い長い沈黙は、外の明るい陽気を一切寄せ付けず、重い空気が漂う。


「すみません。夫の発作が......」


「えっと、料理ができそうな状態じゃないなら帰るけど......」


「いえ。大丈夫ですのであがってください」


 少々強引に家の中に入れられる3人。少し怯えた様子が受付嬢に伝わったらしく、彼女が口を開く。


「家、おかしいですよね......。でも、夫は昔は真面目で優しかったんです」


「失礼かもしれないが、料理を習っている場合じゃないと思う」


 夫のことを話し始めた彼女の話を遮り、ベルクがそう言った。


「最後まで聞いてください!」


「す、すまない......」


「あ、いえ、はぁ、すみません。その夫は元騎士だったんですが――」


 彼女は夫のこと、なぜ料理を習いたかったかを話してくれた。

 彼女の夫は騎士団に所属する騎士で、数年前戦争に駆り出されたらしい。それが原因で精神を病み、それから今までろくに食事を取らず、壁を壊したり、自殺未遂を繰り返していたらしい。

 そんな彼女の夫が最近、『故郷のあの料理が食べたい......』と、うわごとのように呟いているらしい。

 そこで、ベルクがその料理を知っているかもしれないと思い、ベルクをここに呼んだらしかった。


「それでその料理ってどんなものなんだ?」


「それが私も全然わかってなくて......スパイスをたくさん使った茶色のスープとしか聞いてなくて......」


「心当たりがある。ちょっと待っててくれ」


 ベルクは任せろと言わんばかりの表情で言った。そして、受付嬢の家を出て、泊まっている宿に向かう。

 宿に置かれた鞄の奥底には、後々使おうと思っていたスパイスたちが乱雑に置かれていた。ベルクはそれを持って、再び受付嬢の家へと向かう。


「キッチンを借りるぞ」


「お願いします!」


 受付嬢は鍵のかかったキャビネットを開け、包丁や鍋なんかを渡してくれる。

 

「あ、いい食材がある。使ってもいいか?」


「大丈夫ですよ」


 ベルクは見つけたニンジンとじゃがいもと鶏肉を手に取る。


「オーギは野菜を切って、レナは鶏肉を焼いてくれ」


 2人は言われた通りに慣れた手つきで作業を始める。その横でベルクは鍋を取り出し、火にかけた。


「油を敷いて、クミン、ターメリック、コリアンダーなんかを加えて炒めていく」


 ベルクはそう話しながら、7種類ほどのスパイスを香りが立つまで炒めていく。

 その後に鍋に水を加えた。


「オーギ、野菜をここに入れて」


 鍋に野菜を入れて煮込んでいく。その後に鶏肉も加えて。


「スープカレーの完成だ」


 ベルクは完成した料理を皿によそう。のぼり立つ刺激的な湯気が、食欲をそそる。


「夫に持って行きます。ありがとうございました」


 そう言って、急いで受付嬢は部屋の奥へと走っていった。

 残された3人は昼食をすます。


「な、なあベルク。これ食べられるのか?」


 茶色い液体はどうしても食欲をそそらないらしく、オーギはベルクにそう聞いた。


「騙されたと思って食べてみろよ」


「うーん。でも......」


 そう言い、オーギは隣に座るレナの様子を伺った。


「どうしたのオーギ君?」


 なにも気にせず食べていたレナがオーギを不思議そうに見つめた。


「食べないならレナに食べられるぞ」


「え!いいの!?」


「だ、だめ!食べるよ......」


 眉間のシワが消えないオーギは、震える手でスプーンを口に運んだ。


「うまー!」


 オーギの嬉しそうな顔を見て、ベルクも嬉しくなる。

 

「そうだ、パンも持ってきたんだ。一緒に食べるとうまいぞ」


***


 ベルクがスープカレーを食べ終わり、レシピを書き記していた時、受付嬢が3人を夫が寝ている寝室へと案内してくれた。

 寝室はベッド以外なにもなく、部屋の真ん中のベットの上には、痩せ細った男が座っていた。


「ありがとう。本当に......。こんなに落ち着いたのは初めてです」


 涙を流しながら感謝する男は感謝の言葉を何度も繰り返し、手を握って何度も頭を下げた。


「もうひとつ頼み事をしてもいいですか?」


 男は少し申し訳なさそうにそう言った。


「俺にできることなら」


 男の首についたアザを見ていると断る気には慣れなかった。


「本当にありがとう。僕はなにも返せないのに......」


 少し目を押さえた後、男は願い事を話し始めた。


「僕が騎士だった時、1人友達がいたんです。そいつも心を病んでしまっていて......なのに、他国で犯罪をしているなんて噂を、見舞いに来た同僚から聞いたんです。それで、もしその友達にあったらそいつの様子を伝えていただけませんか?」


「それくらいなら全然大丈夫だ。それで、その友達の名前と特徴は?」


「名前はラウロで、金の髪、独特な方言を使うのが特徴です。それと一度、大怪我をおっても数分後にピンピンしていました」


 ベルクは森であったボスと呼ばれていた男、フォルクを思い出した。


「心当たりがある」


***


 ベルクは危険を加味して、1人でフォルクとシアに教えてもらった住所へときていた。


「すまない、開けてくれ」


 扉を叩くとシアが出てきた。


「ベルクさん来てくれたんですね」


「今日はフォルクと少し話をしたい」


 中に案内しようとするシアにベルクはそう言った。


「ボスとですか?」


 少し悩んだ様子を見せながらも、シアはフォルクを連れてきた。


「俺と話したいって一体どうしたんや?」


「少し歩いて話さないか?」


 ベルクが今いる場所は人通りが少なく、少し危険だと判断したベルクは、人通りの多い場所にフォルクを連れていく。

 そして、少し世間話を挟んだ後に、本題を聞いた。


「フォルクはラウロって知ってるか?」

 

 フォルクは足がもつれて転んでしまう。


「いてて......。お、俺はそんなやつ知らへん!」


「ラウロの友達って言ってた元騎士の男に、安否確認を頼まれたんだ。本当に知らないか?」


「......」


 少し黙ったフォルクは寂しそうな顔をした後、ベルクの腕を掴んで酒場へと足を進めた。

 

 フォルスは酒を頼み席について口を開いた。


「俺は......。いや、やっぱり勇気が出えへん」


 フォルスは運ばれてきたジョッキの酒を飲み干し、顔を赤らめ再び話し始めた。


「今からわけわからんこと言うけど、聞き流してくれや。今日は話したい気分なんや」


 ぽつりぽつりと話し始めたフォルクに、ベルクは黙って耳を傾けた。


「俺は臆病者なんや。目の前の辛さから逃げるために、都合の良い話にのってさらに辛い絶望に足を突っ込んだんや。もう俺の中身は真っ黒で、人間のものとはとても呼べんもんや。今ベルクに真実を話せば助けてくれるかもしれへん。でもその勇気も俺は持ち合わせてあらへんのや」

 

 ベルクはその心の奥底から響く悲痛の叫びを聞き、勝手な妄想にふける。


 フォルクがラウロで間違いないのか?なんで、真実を話せないんだ?まさか監視が?


 ベルクは周りをキョロキョロと見渡すが、怪しい奴は見当たらない。


「今言ったことは気にしいひんといてや。それと、もう俺たちに近づかない方がいい」


黙って考えるベルクを見たフォルクがそう言った。


「そういうわけには......」


 まだ話している途中のベルクを無視してお金をテーブルに置き、フォルクは酒場を出ていった。


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