第43話 ドラゴンの串焼き
「ここら辺だな」
アーシュ、ラニア、ベルク、レナ、オーギの5人はエビニカの森を抜けた先、聳え立つ山々の麓にきていた。アルスは今日予定があり来れなかったらしい。
「そんな簡単に現れるものなのか?」
そうベルクが言うと、大きな鞄を背負ったアーシュが答える。
「ドラゴンの好物を使って誘き出すんだよ」
そう言ってアーシュは何かの液体を地面に撒き始めた。
「う、なにこれ臭い!」
レナが鼻を抑えながら言った。
「これは人間の血だよ。治癒院から買ってきて、少し腐らせたやつ。私たちの狩るレッドドラゴンは腐肉を食うらしくて、この方法が1番誘き出しやすいんだってよ」
血を撒き終わった後、みんなで近くの茂みに隠れる。
暖かな陽気で少しウトウトしてきた頃、思ったよりも小さい5メートルほどの赤いドラゴンが血を舐めていた。それを見たベルクが茂みから飛び出そうとするが、アーシュがそれを止める。
「どうしたんだ?早くいかないと」
「いや、見ててくれ」
小声でそう返すアーシュ。
言われた通りにしばらく見ていると、ドラゴンが眠ってしまった。そのドラゴンをアーシュが切り裂く。
「え、終わり?」
ベルクとレナとオーギは少し困惑した。
「あ、言ってなかったっけ。あの血に睡眠薬混ぜたんだよ」
なんだかあまり達成感のないまま、ドラゴンを解体する。
「じゃあその大きい鞄には何入れてるんだ?」
解体しながらベルクが聞く。
「少しだけここで食べるために色々持ってきたんだ」
そう言って鞄から野菜や調味料なんかを取り出す。
「ねえねえ、どんな料理にするの?」
「肉と野菜を串で焼くんだよ。きっとレナちゃんも気にいると思う」
5人は捌いた肉を野菜と一緒に串に刺し、火を起こしてそれを焼く。いい匂いの串焼きは、油が溢れ出て火に当たり、ジュージューと音を立てていた。
いい感じに焦げ目がついたところで串焼きを一本ずつ取る。
「おいしい!」
鱗に覆われた硬いドラゴンの皮膚とは裏腹に柔らかい肉。そして、塩だけのシンプルな味付けが肉の味を引き立てる。それに肉汁の量がすごい。
「レナちゃんおいしい?」
「これレナ好き!」
「ははは、苦労した甲斐があったってもんだな」
ワイワイとみんなが騒ぐところに、3人の男が近づいてきた。
「やはりやはりやはり、司祭様の言う通り。あの男がおそらくあの方から力を得た男」
「そして、私たちの生贄になる」
「我らがあの方に会える時も近いかもですね」
***
「ちょっと飲み過ぎた......うう」
ベルクはアーシュが持ってきた酒を調子に乗って飲み過ぎていた。
「ベルク大丈夫?もう飲んじゃだめだよ」
ベルクの背中をさするレナ。
「おいおい、男のくせに情けないぞー!」
顔を赤くするアーシュの足元にも、酒の空瓶が転がっていた。
「アーシュちゃんもお酒はもうだめ」
ラニアがアーシュにそう言い聞かせる。
「2人ともだらしないなー」
オーギはまだ昼なのにフラフラな2人を笑っていた。
そんな5人の前に3人の男が現れた。1人は小柄で黒い布を顔で覆っていた。1人は大柄で同じように黒い布で顔を覆っている。残りの1人は黒い山羊の被り物をかぶっていた。
「こんにちはこんにちはこんにちは。早速ですが、そこで寝ている男を私たちに渡して頂きたい」
大柄な男が、いつのまにか寝息をたてているベルクを指差してそう話す。
「なんだお前ら!」
オーギが剣を抜き、男たちに刃を向ける。
「贄を渡せ。それは地獄の皇帝ルシファー様に会うための糧」
山羊の被り物をの男が言う。
「抵抗するなら殺すかもしれないです。きっとそうかもしれないです」
明らかに異常な3人に、ラニアとオーギとレナが恐怖し、危機感を覚える。
「2人とも早く起きて!」
ラニアがベルクとアーシュを揺さぶる。
「ベルクは渡さない!レナが守る!」
背中の戦鎚を構えるレナ。
「仕方ない仕方ない仕方ない」
男たちは似たような黒いロングソードを鞘から抜いた。
「覚悟しろ!【生命創造魔法妄想癖の独創的創造】」
オーギは投げナイフを男たちに向かい投げる。
「遅い遅い遅い」
「当たらない」
「下手くそかもです」
男たちは素早い動きでナイフを避ける。
「お前ら被り物してるからよく見えてないんじゃないかー?」
「負け惜しみ負け惜しみ負けっ、グフっ」
大柄な男の背中に3本のナイフが刺さっていた。
「なにしてる、役立たずが」
山羊の被り物の男が、大柄の男の背中のナイフを思い切り引き抜いた。流れる血をもろともせず、首をコキコキと鳴らして再び剣を構える。
「な、なんだよこいつら」
「オーギくん落ち着いて」
レナがオーギの背中を叩き横に並ぶ。
「邪魔する必要あるか?」
そんな言葉を無視して、レナとオーギが男たちを攻撃する。華麗にそれをかわす男たちは反撃を試みるが、レナとオーギには隙がなく斬撃は当たらない。
「オーギ君普通の攻撃じゃ当たらないよ。だからアレするよ」
「わかったアレだな!」
レナは戦鎚を大きく振りかぶる。
「それは当たらないかもです」
明らかに射程外で振りかぶるレナに小柄な男がそう言った。それも気にせず振り下ろした戦鎚にオーギが乗り、男たちに向かって飛び出す。
「喰らえ!」
高速で飛び出したオーギは刀身の平たい部分で、大柄の男の腹を叩く。メリメリという音をたて、男は倒れる。
「はは!俺の勝ちだぜー!」
「このガキめ」
山羊の被り物の男がオーギの剣を弾いた。
「やば......」
「オーギ君!」
すぐにオーギを助けようと走るレナは、倒れていた大柄の男に捕まえられた。
「逃がさない逃がさない逃がさない」
「は、離して!」
その時ベルクとアーシュがラニアに起こされて立ち上がった。
「おい、2人になにしてんだお前ら......」
「私らに喧嘩売ってんのか?」
怒るベルクとアーシュに、3人の男たちはめんどくさそうな表情を見せた。
「あーめんどくさいな」
「だるいだるいだるい」
「大変かもしれないです」




