第38話 狩りに行こう
「レナー、私はどうすればいいと思う?」
アルスがレナを持ち上げそう聞いた。
「レナ働いたことないからわかんない」
アルスは今、仕事を探していた。騎士団をクビにされ、無職になったからだ。
「団長やってたんだから、貯金が沢山あるんじゃないのか?」
「あるぞ。失態で払わされた罰金を払っても一生暮らせるほど。でもな、働かないとさ、人間ダメになってしまうって思わないか?」
うっ、俺働いてないんだが......。
「でも、戦い以外何もできないってなるとな」
アルスはこの1週間、3つの職を経験している。だが、どれも失敗続きで居づらくなり、やめてしまったらしい。
「ほら、できたぞ」
飾り切りされたフルーツたちが皿に盛られている。
「すごい。ベルクは手先が器用でいいな」
「そうか?こういう切り方は覚えれば誰でもできるよ」
「味はふつーだな」
雑に果物をフォークで刺すオーギはそう言う。
「こういうのは見た目だよ。見た目が良い方が良くないか?」
「たしかに......」
すんなり納得したオーギは、丁寧に果物を食べ始めた。
「悩んでても仕事は見つかんないし、そろそろ仕事探してくるよ」
そう告げアルスは帰っていった。
「俺もそろそろ晩ご飯の買い出しに行かないとな」
***
ベルクは野菜を見ていた。
「あ、このとうもろこしいいかも」
そう呟いてとうもろこしに手を伸ばすと。
「あ、すいません」
同じとうもろこしを取ろうとした人と手が当たってしまった。
申し訳なさそうにその人の方を向くと見知った顔がそこにあった。
「アーシュ!?」
「ベルク!」
髪が長くなり後ろで結び、雰囲気が変わったアーシュが驚きの表情を見せる。
「髪長くなったな」
「最近忙しいからね。店の準備が大変なんだよ」
「そうか、飲食店を開くのか」
数ヶ月、帝都ハイルでアーシュはシーフ王国で店を開くと言っていたのだ。
「そうだ!手伝って欲しいことがあるんだった」
アーシュに連れられ飲食店の並ぶ通りを歩く。すると、アーシュの足が一際新しい綺麗な店の前で止まる。周りの建物に比べると小さいものの、おしゃれなデザインだった。
「す、すご......」
「いい店だろ?安く借りれたんだよ」
「あ、そういえば手伝って欲しいことって?」
「魔物の料理を安く食べられるお店にしようと思ってるんだ」
当たり前のことだが、魔物の肉は基本、普通の豚や牛なんかより高い。だが、貴族たちの中で魔物を積極的に食べる者もいる。普通の食材よりも美味しいからだ。肉に残存する魔力が味覚に影響を及ぼすなんて言われたりする。それを安価で提供できれば、当然売れるだろう。
「かなり難しいな」
そう。そんな店はかなり実現しづらいものだ。確かに魔物狩りを生業とし、肉を売ってくれる者もいるが、その大半が貴族に買い占められる。しかも魔物の肉は傷むのが早い。
「そうなんだよ。」
「じゃあどうするんだ?」
「私が狩る!」
確かにアーシュほどの強さなら魔物を狩れそうだ。
「なるほど。じゃあ俺は何を手伝えば?」
「メニューの提案と狩りの手伝いだ。もちろん給料は払う!」
「でも料理の単価を下げるならかなりの量を販売しないと稼げなさそうだが......厨房にラニア1人で大丈夫?」
「私が狩りの後に手伝う」
「過労死するぞ」
「でも、ベルク1人に任せるわけには......」
ここでベルクはふと思い出す。
「狩りのできる人間が1人いるぞ。しかも俺より強い」
「まじか!紹介してくれ!」
***
ベルクは店を後にした後、少し大きめの立派な家の前に来ていた。そして、その家の扉を叩く。
「ベルクじゃないか、どうしたんだ?」
アルスが扉を開けて出てきた。
「腕っぷしだけでできる仕事を見つけてきたぞ」
「やる!やるぞ!」
アルスを連れて店へと戻る。店の前にはアーシュとラニアが待ってくれていた。
「ベルクさんお久しぶりです!えっとその方ですか?」
「ああ、魔物狩りをやりたいらしい」
「私はアルスだよろしくな」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
アーシュとラニアの2人はアルスと握手する。
「いつから働けばいいんだ?」
アルスが当たり前の疑問を聞く。
「ベルクさんとメニューを考えたいので、10日後でお願いします」
「わかった」
4人はメニューを考えたり、店の掃除をしたりして1日を終えた。そんな日々を繰り返してあっという間に10日がたった。
「レナ、オーギ、ベルク、行くぞ!」
まだ少し涼しい時間帯。暁光の差すエビニカの森に4人は来ていた。
「2人とも俺たちの言うこと絶対聞くんだぞ」
「はーい」
「わかってるー」
実は2人に仕事のことを話すと、2人が一緒に行ってみたいと駄々を捏ねたのだ。それを見かねたアルスが2人を連れて行くのを許可したのだ。まあ、アルスがいれば問題ないと思うが......。
「それじゃあ始めるか」
「ああ、じゃあオーギは俺についてきて」
「レナは?」
「レナはアルスといてくれ」
「わかったよー」
ベルクとオーギの2人は森の中を進む。魔物の足音が聞こえるまで進む。
「オーギ。魔物が近いぞ」
ベルクとオーギは息を殺す。
ミシ、ミシ、ミシ。
赤い肌、潰れた鼻、それにくるんとした尻尾。肌の色以外は、豚の特徴に聞こえるかもしれない。だが圧倒的な違いがある。全長3メートルほどあるのだ。つまりこいつは人喰い豚。
「【火精霊魔法 火竜の行進】」
火を纏うサラマンダーが人喰い豚を驚かせる。人喰い豚は火を恐れて、サラマンダーと反対方向へ逃げていく。しばらく走ると、目の前に人が......。
「来たな!いくぞ!【水精霊魔法 春陽の霞】」
一帯が霧で満たされて、何も見えなくなる。
キョロキョロと辺りを見渡し、混乱する人喰い豚の顔が凹む。
「喰らえ!」
「プギィィィィ!」
大きな音をたてて巨体の人喰い豚が吹っ飛ぶ。
弱点の鼻を潰された人喰い豚は気絶した。
「アルス大丈夫か?」
「腕は少し鈍ったが、これくらいなら余裕だな」
「す、すっげぇぇ!」
「ふふふ、そうだろうそうだろう」
得意げになるアルスをオーギは憧れの目で見つめる。
「うわぁぁぁぁ!」
一難さってまた一難。老人の叫び声が後方から聞こえてきた。
4人は急いで声のする方へと走る。
しばらくすると、10数匹ほどの群がるゴブリンたちが見えてきた。
「いくぞベルク!」
「ああ!」
「【水精霊魔法 霊水の大太刀】」
「【火精霊魔法 夜明けの光芒】」
アルスは1メートル越えの水の大太刀を振り回し、ベルクは炎で頭を貫く。
あっという間に倒されたゴブリンをまたぎ、お爺さんに近づく。
「すみません。ありがとうございます」
「お怪我はありませんか?」
「おかげさまで」
「そりゃ良かったよ。あんたこんなとこうろついてちゃ危ない。私が街まで送るよ」
「私はこの森に住んでるんです」
「この森に!?」
「ええ」
落ち着いた表情でお爺さんは答える。
「よかったら見ていきます?お礼もしたいですし」
そのお誘いは嬉しいものの、今は魔物の肉を届けないといけない。
「この後用事があって......」
「そうですか......。この先に家があるんです。よかったら暇な時にでも訪ねていただければと思います」
4人はお爺さんに別れを告げ、狩りを再開した。
【魔法解説】
春陽の霞
霧を発生させる魔法。
相手の視界を奪い、不意打ちができる。
霊水の大太刀
精霊の力が宿る水でできた大太刀。




