第30話 優勝決定戦
「団長!聞いてください!」
「どうしたホト。珍しく焦って」
「ベルクがコロシアムの殺し合いに参加しているようなんです!おそらく冤罪だと思います」
「な、なんだと!?」
アルスは地が揺れるほどの足音で、騎士の兵舎に歩いて行く。
「すまないみんな!力を貸してくれないか!私の友達が不正に逮捕されたかもしれない!ベルクと言う男をここ数日で逮捕した者を探したい!」
ほとんどの騎士たちはすぐに動き出し、街へ歩いていく。
***
「ほんとうか!すぐに行く!」
アルスは走ってノーム騎士団の事務所へと向かう。
「え!ア、アルス様!?きょ、今日はどういった御用で......?」
ノーム騎士団の騎士は急に現れたアルスに驚きながらも対応する。
「ノーム騎士団が不正に市民を罰した可能性がある!調べさせてもらえないか?」
「だ、団長に話してきます!」
***
「ついにやってきたァァァァァ!最終決戦だぁぁ!この勝負の勝者が自由を掴むための挑戦を受けられるゥゥゥ!さあ!張り切っていくぞぉぉ!」
相手は余裕の表情で笑っている。だが、目が笑っていない。その深く暗い目には、殺意が湧き立っていた。
「レディィィィファイッッ!」
無言の男は素早く動き、間合いを詰めてくる。
武器はまだ抜かないようだった。
そして男が魔法を唱えた。
「【時間操作魔法 独りぼっちの右手】」
「この右手なにか危ない!【火精霊魔法 火竜の行進】」
右手と自分の体の間にサラマンダーを召喚する。
男は火傷に構わずサラマンダーに右手で触れた。すると、サラマンダーが触れられた部位から徐々に硬直して、完全に動かなくなった。しかも、空中で。
「な、なんだこの魔法」
未だ笑うばかりで一言も話さない男は右手を振り回す。隙のないその動きに、ベルクは逃げるばかりで、観客のブーイングが飛んでくる。
「な、まずい!」
指先がすこし男の右手にかする。
そこで、サラマンダーの硬直の仕方を思い出した。
触られた部位から広がるように徐々に硬直していた。ま、まさか!?
なにを思ったのかベルクは刀で触れられた右手の指をぶった斬る。
「うぐぁぁぁぁ」
「ふむ、君やるな。初めてだよ。僕に触れられて生き残ったのは」
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!
ベルクは反撃方法を考える。だが、無慈悲にもそんな都合よく思いつくことはない。
ジリジリと追い詰められ、少しずつ体力がなくなっていく。
「待て!そこまでだ!」
観客席から1人叫ぶアルス。
アルスは観客席から飛び上がり、ベルクと男の間へ入る。
「この試合、一旦中止だ!このベルクは誤認逮捕されたんだ、解放してやってくれ!」
そう言われた途端、コロシアムの職員たちがベルクを出口へ誘導する。
「あなた、なに?邪魔」
「なんだ?私に喧嘩売るってのか?」
「うん、そうだね。そういうことになるかな」
そう言い男は飛びかかる。
「【水精霊魔法 水精霊の涙】」
直径50メートルほどだろうか。
考えられないほど大きな水が、男を包み込んだ。
「ウンディーネ騎士団を舐めるなよ」
***
コロシアムから出ると、御者がレナとオーギを連れて待ってくれていた。
「ベルクぅ、寂しかったよぅ」
半泣きのレナが抱きついてくる。
「その、俺のせいで......ごめんなさい」
珍しく素直なオーギ。
「オーギのせいじゃないよ」
「また、会えたようでよかったな」
御者が笑顔でそう言ってくれる。
「御者さんもありがとう」
そんなふうに話をしていると、獣人の大男が歩いてきた。茶色い毛並みのその男は、尻尾と頭を下げてこう言った。
「ほ、ほんとうに申し訳ない!私の騎士団の騎士が、君を不当に逮捕してしまった。ほんとうにほんとうにすまない!」
「あなたは?」
「ノーム騎士団団長ボイドだ」
「そうか。流石に今回のことは許せない。俺以外にも被害者がいると思う。その人たちがあまりにも可哀想だ」
「すぐに調査して、その人たちも解放する!ほんとうにすまない」
「治療費を払ってくれればもういいよ」
「ありがとう、すまなかった」
治療代をもらい、ずっと謝り続けるボイドに別れを告げた。
***
治療院に行ったあと、3人で飲食店へと入る。
「スパゲッティでも食べようかな」
すぐに注文し、フォークをつかむ。
失った薬指と小指は、食事にかなり貢献していたようで、上手く食べることができない。
「ベルク大丈夫?レナが食べさせてあげるよ」
レナがベルクにスパゲッティを食べさせる光景をオーギは悲しそうな目で見つめる。
「おじさん、ごめん......」
「オーギは悪くないって言ってるだろ?こんなことになるなんて誰も予想つかないし、悪いのはあの騎士たちだよ」
「そっか、そうなのかな......」
「ほら、元気出せよ。俺は元気なオーギが好きだぞ」
「うん」
少し静かなオーギは元気を取り戻すまでにそこまで時間は掛からなかった。
3人は翌日から王都を楽しみ始めた。
【魔法解説】
独りぼっちの右手
右手で触れたものの時間を停止させる魔法。
右手で触れた部位に接している部分に徐々に魔法が広がっていく。
魔法を解除するまで一生時間が止まり続ける。
水精霊の涙
直径50メートルの水の球を出現させる魔法。
目視できる範囲ならどこにでも出せる。
出現した水は形を崩すことなくその場にとどまり続ける。




