第29話 犯罪者戦士ベルク
床が冷たい。
ベルクは石の床に寝転がり、自分の鼓動の音を聞いていた。
前を見ると鉄格子があり、閉鎖感でおかしくなりそうだった。
数時間前。
騎士達に拘束され、騎士団の事務所の大きな建物へと連れてこられた。
その後、わずかな中身のない問答を10分ほどして牢獄に連れてこられた。
それはとても騎士団のやることとは思えないほどずさんな仕事で、少しも反論する時間を与えてくれなかったのだった。
3年は牢獄から出られないらしい......。
ポトッポトッ。
天井の隙間から漏れる水が垂れる。数時間前のことを思い出しながら、その水滴の数を数えていると、1200粒目で誰かがやってきた。
「なぁあんた。冤罪だろ?」
ベルクは驚いた顔で声の方を見る。
そこには男が立っていた。
牢屋から俺が出ないように見張っているのだろう。
「ああ、なんでわかった」
「目を見ればわかるさ。どーせあのボンボン騎士の2人に連れてこられたんだろ?あいつらは貴族だからって好き放題やってんだ」
「なんで俺にそんなことを......?」
「本題を話すとだな、明後日コロシアムで大イベントが行われる。それは犯罪者同士の戦いだ。犯罪者は罪の帳消しを求めて必死に戦うんだ」
「それが?」
「その誘いに乗るなって話だ。相手はいかれた殺人鬼。仮に勝てたとしても、丸裸で王都の外に放り出される」
「そうか......ありがとう」
ベルクに彼の声は届いてはいなかった。
彼は決意していたのだ。絶対にコロシアムで勝ち進んで、レナに会うと。
次の日。
昨日と違う男がご飯を持ってきた。
冷たく硬い......。
「おい犯罪者。明日コロシアムで自由をかけた囚人達の戦いがある。お前は刑期が短いから出ないと思うが一応聞いておく」
「出るさ」
「は?まじかよ。とんだ大バカ野郎だな。ハハハハハ」
男はベルクのまさかの返答に笑いながら去って行った。
俺は絶対に生き残る。
翌日ベルクは、大勢の観客に囲まれ、刀を持っていた。
「さあ、今年も始まりました!犯罪者どもの殺し合い!今年は8人の犯罪者が参加してくれたぁぁ!」
会場の人たちは盛り上がりを見せる。
「記念すべき一試合目、紹介します。連続殺人犯クラスゥゥゥ!彼の武器が吸った血、なんと8人分!対する相手は......えー指輪泥棒ベルク......。まじかよ!勝負ついちまったよー!」
観客たちは笑い、呆れていた。
「ルールはいたって単純。勝つ方法は相手を戦闘不能にさせるか降参させるかだ!もちろん殺しもオッケーー!」
緊張が走る。
手が震えて呼吸が荒くなる。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
初めての殺し合い。震えるのも無理はなかった。
「それじゃあ行くぞ!レディィィィファイッッ!」
相手の武器は斧。
魔法がわからないうちは、距離を取らなければ。
「ねえー逃げないでよー。一緒に遊ぼ!【氷魔法 無尽蔵の無慈悲】」
つらら状の鋭い氷が、数え切れないほどクラスの周りに現れた。
「串刺しにして串焼きにしてあげる。ふふふ、なんだかお料理してるみたい!」
無尽蔵の氷が一気に飛んでくる。
「氷魔法なら相性がいい!【火精霊魔法 炎の精霊の一撃】」
ベルクは力を入れ、身体中から火を噴き出す。
燃えるベルクに氷は届かない。
全て溶かし切ったところでベルクは安心してしまった。
「まだまだだよー!」
飛んでくる氷の裏に、クラスが隠れていたらしい。
氷が溶けた瞬間、間合いへ飛び込んでくる。ベルクは、咄嗟の抵抗で力一杯斧をへし折った。
「いいね!こんなに遊べるおもちゃは初めてだから興奮しちゃうぅぅ!【氷魔法 冷徹な悪意】」
折れた斧の先が見る見るうちに凍って、前よりも巨大な斧となる。それと同時に、ベルクの魔力も切れてしまう。
「魔力が残り少ない......。魔法を撃ててもあと一発」
「かっこよかったのに変身解いちゃうの?ざーんねん」
振り下された斧を刀で受ける。
踏み込む力が強く、腕がかなり痺れる。
2人とも視線が上に集中する中ベルクが言う。
「上ばっか見てると足元すくわれるぜ。【火精霊魔法 火竜の行進】」
クラスの足の下にサラマンダーが召喚され、その熱さに思わず転んでしまう。
その隙をベルクは逃さなかった。
首に峰打ちを決め、観客が湧き上がる。
「なんとなんとなんと!誰が予想したでしょうか!ですが私たちは認めなければいけません。この勇敢な戦士が勝ったことを。勝者ぁぁぁベルクゥゥゥ!!」
その後のことは覚えていない。その場で死んだように眠ってしまったからだ。
2試合目まで2日間の猶予をくれるらしかった......。
戦いから1日が経ったころ、ベルクはコロシアムの地下の牢に入れられており、そこに1人の男がやってきた。
「なんでここにいんだよ!あんた俺の話聞いてなかったのかよ!」
その男はベルクにこの戦いに参加するなと忠告してくれた男だった。
「......」
黙るベルクに再び話しだす。
「あんたは金品を少し盗んだだけだ。確かにあの指輪は王の物で、多少罪は普通の窃盗よりも重いかもしれない。でも、数年大人しくしてれば自由になれたんだぞ!」
「外で......外で待っている人が2人いる。2人はまだ1人で生きられない。だから数年なんて待ってられないんだ」
「そうか......。わかった、もう少し生き延びてくれ。俺がなんとかできないかやってみる」
あっという間に2日がたった。
会場に立つが、何も聞こえない。声援も、実況の声も。
殺し合いは怖い。怖くて怖くてたまらない。でも、レナに会いたい。レナに会うためなら俺は......。
「ねえ、もう始まってますわよ」
「あ、ああ」
「あなた本当に勝ち上がってきたの?なんだか弱そうでがっかりだわ。さっさと終わらせちゃいましょうかしら。【精神操作魔法 虚像に狂い尽くせ】」
ベルクの周りをどこからか現れた血が囲む。すると、ベルクが辺りをキョロキョロと見渡し始める。
目の前の敵は見えていないようだ......。
「うふふ、何が見えているの?ベルクさーん」
「や、やめろ!レナを返せ!やめろおおおおお!」
「ウフフフフ。いつ見ても絶望に満ちた人の顔は面白いわねぇ。それじゃあ絶望の中で死んでもらおうかしら」
「お前は絶対に許さない!絶対に!」
ベルクの目の前に大きな炎が現れる。
「な、なによこれ!精神は私の魔法で作った精神世界に隔離してるはず!魔法なんて打てないはずなのに!こ、来ないで!うぐァァァァァァァァァァ!」
ベルクが正気に戻った時、目の前には灰にまみれた女性用の囚人服があった。
「勝者ベルクゥゥゥゥゥゥ!」
「俺は勝った......のか?」
それでもベルクの緊張は取れない。また3日経てば殺し合いをしなければならない。
俺はもう疲れたよ......レナに、会いたい。
【魔法解説】
無尽蔵の無慈悲
自分の周りに100から300個までのつらら状の氷を出現させる魔法。
これらを個別で操作することが可能。
冷徹な悪意
手から空気をも凍らせる冷気を放つ魔法。
この冷気は操作でき、好きな形の氷を生成できる。
虚像に狂い尽くせ
触れると精神を魔法で作った精神世界に閉じ込める血を生成する魔法。
この精神世界は、血を浴びた相手の大切なものが壊される幻覚が見える。また、精神が隔離されるため、魔法は使うことができない。
効果時間は10秒ほどしかない。だが、人を殺すには十分すぎる時間だ。




