第23話 前頭葉 運動性言語中枢
「私はおかしいので爺やったでした」
夕方にベルクを訪ねてきたアーシュだが、どこか話し方がおかしい。
だが、アーシュの表情は必死でとてもふざけてる様には見えなかった。
「アーシュお姉ちゃん大丈夫?」
「一体何があったんだ?」
アーシュは一生懸命話してくれた。何度も問答を繰り返し、1時間かけて事件の全貌がなんとなくわかってきた。
1時間ほど前。
「どこも雇ってくんねぇ......」
アーシュはため息をつく。
「そこの人や。もしかして仕事を探しているのかい?」
メガネをかけたタレ目の老人が、優しそうに話しかけてくる。
「そうなんだよ爺さん。でもなかなか雇って貰えなくて」
「わしがあんたを雇ってやろう」
「ほんとうか!?」
「ほんとうだとも。しかも、わしのマッサージの感想を言うだけの簡単な仕事さ」
怪しさしかないその誘いに、仕事の知識がほとんどないアーシュはついて行ってしまった。
町の中心からはずれた場所に、彼の店はあった。
爺さんはアーシュを中に招き入れ、椅子に座らせる。
「まず頭のマッサージをするからね。電気を使うから少しピリッとするかもねぇ」
この時アーシュは本能的に何かを感じ取った。
その正体が悪意だと気づいた時にはもう遅かった。
「【電気魔法 ある狂人の伝奇】」
素早く身を翻すも、頭に電撃を喰らってしまう。
「どうしたんだいお嬢ちゃん。そんなに暴れちゃ給料は出せないよ」
「なにやりた、お前」
自分の口から出た言葉に驚愕し咄嗟に口を押さえる。
「あーあ嬢ちゃん。あんたもう実験材料として使えないね。それじゃあしょうがない、しょうがないしょうがないしょうがない」
細く鋭い目は、しっかりとアーシュを捉えていた。
そこからアーシュは死に物狂いで逃げた。
その店を走り去るときにアーシュは爺さんの声を聞いたらしい
「逃げられちまったねぇ。でも匂いは覚えた」
と言う声を。
「どうしよう。今外に出るのは危ないし、かと言って力量の測れない相手に戦えるのが2人だけってのも......」
「おーい、ベルクいるかー?飯食いに行こうぜ」
ベルクはこういう時の運はいい。
「オスカル、ちょうど良かった助けてくれ!」
オスカルにアーシュの身に起きたことを事細かに話した。
「そりゃ気の毒に。それより、お前誰とでも仲良くなるよな。ギルドマスターから盗賊まで」
「なんでだろうな」
「まあいい、助けてやるよ。ベルクとレナの身も危ないしな」
「でも、相手はいつ襲ってくるかわからない。どうすればいいと思う?」
「いつまでも相手を待ってちゃ疲弊するばかりだ。幸いアーシュは戦える。だから囮にしてその爺さんを誘き出せばすぐに済む」
***
その日の夜。
レナをアルフレッドの妹のロゼに預けて、町に出る。
アーシュに前を歩かせ、ベルクとオスカルの2人は後ろの物陰から彼女を見守る。
草木も眠る丑三つ時。自分の息遣いと鼓動だけが聞こえるなか、しわがれた声が耳に入る。
「囮にしては分かりやすすぎる。まあ引っかかってあげるがねぇ」
後ろを振り返るが誰もいない。気のせいかと思い、アーシュの方を向き直すと、こんな時間に老人が1人アーシュの前に立っていた。
「オスカル!」
「わかってる!【影操作魔法 誘惑の沼地】」
老人の足元の影から黒い手が伸び、老人を影の中へ飲み込む。
「ベルク、甘い空想に騙されるなよぉ」
老人は沈む瞬間そんなことを呟いていった。
「アーシュ大丈夫か?」
「大丈夫だ。あ、話せる!話せるぞ!」
「一件落着だな、な、な、な、な、な、な」
「オスカルどうした?」
「ねぇベルク?これが現実だとでも?」
「アーシュまで......」
「おかしいのは俺たちじゃない。お前だよ、ベルクぅぅぅぅ」
なんだ?何が起こっているんだ!?
ベルクは混乱し、2人をおいて走り出す。
「そうだ、レナは無事なのか?」
懸命に走り、ベルクは狼の大皿についた。
「アルフレッド!ロゼ!レナ!」
呼びかけるが誰もいない。
ガタガタ。
ベルクの横で物音が鳴る。
赤髪に猫耳、レナだ!
すぐにレナを抱き抱えるが、顔がおかしい。
しわがれていてまるで、さっきの老人のよう......。
「わしは暗殺者だ。こんな陳腐な策で捕らえられるとでも?」
ケヒャヒャヒャと笑いながらそう話すレナ。
右手にはナイフが握られており、それが手の甲に突き立てられた。
「うぐぁぁぁ」
目の前の景色が変わる。
薄汚い壁に、血汚れた床。
手元を見ると、ロープで椅子に括り付けられており、うまく身動きが取れない。
魔法を使えば。
「くっ、がはっ」
声がでない?
隣を見ると、アーシュとオスカルも同様に椅子に縛り付けられていた。
2人とも首から血が出ており、自分の首にも痛みを感じることから、声帯がやられたんだろうとベルクは思った。
「あんたら間抜けだねぇ。わしは仮にも指名手配犯レッドキラー。あんな見え見えな囮引っかかるわけないからねぇ」
老人は細く長い針の入った袋をじゃらじゃらと鳴らし、こちらに近づいてきた。
「さあて、今日の実験は、ふむ、B3とE5に針を刺して電流を......」
老人は古そうな紙を見つめそう呟く。
「お嬢さんからだねぇ」
そう言ってニヤニヤしながらアーシュへと近づく。
やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!
老人がアーシュの頭に針を突き立てようとしたその時。
ベルクの中でこれ以上ない怒りが込み上げたと共に、心の中で魔法が浮かぶ。
【禁忌魔法 暴食の業火】
ベルクの前に熱く巨大な炎が現れる。
「な、なぜだ。わしは確かに声帯を傷つけて、声を出せなくしたはず......。」
その巨大な炎はアーシュごと老人を包み込むが、身をよじり苦しむのは老人だけ。
「うぐぁぁぁぁ、あ、熱ぃぃぃぃぃ!」
老人は床を転がり火を消そうとするが、火は消えず燃え続ける。
その後老人の服だけがそこには残っていた。
よかった......。
でも、魔力が根こそぎ持ってかれた......。
***
その後どうにかして3人で協力して縄を抜け出し、オスカルはギルドへ報告へ、ベルクはレナを引き取りに行き、アーシュは盗賊団のアジトへと帰った。
あの魔法はなんだったのだろう。
通常、魔法は発現時、魔法の能力と名前が自然と頭に浮かぶ。なのにあの禁忌魔法とやらは名前しか知ることができなかった。
それに魔法は普通、魔法の名前を声に出さなきゃ使うことはできない。でもあの魔法は心の中で唱えるだけで使えた。
でも、今回の騒動で大体の能力は掴めた。
あの魔法は敵意を向けた相手に炎を飛ばすもので、その火は対象の着用している服やら、敵意を向けてない人物を燃やすことはない。
ベル、お前は俺に何をしたんだ......?
【魔法解説】
ある狂人の伝奇
脳に作用する微弱な電気を任意の場所から発生させる魔法。
老人もといレッドキラーはこれを人の脳に流し、どのように作用するか実験している。
暴食の業火
おそらく敵意を向けた相手に炎を放つ魔法。
その炎は敵意を向けた相手しか触れられず、他のものには影響がない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
昨日ついに総合評価が10ptに達しました!
なんだたかが10ptかよ。なんて思う方もいるかもしれませんが、私にとってはとても嬉しい10ptです。
読んでくださってる皆様本当にありがとうございます。これからも、この作品を応援していただけると幸いです。




