第18話 殺人鬼は意外と身近に......
「......」
帝都ハイルの東にあるリアスの森で、ベルクは息を潜めていた。
風が木を揺らし、葉が擦れ、小鳥の鳴き声、平和な音が鳴る森に、一際大きな足音が地を揺らす勢いでこちらに近づいてくる。
「プギィィィィ!」
その獣の咆哮が、ベルクの体をヒリつかせた。
***
数時間前。
ベルクは悩みを抱えていた。
お金が少ない。
ベルクは原因を考えるまでもなくわかっていた。
それは、食費だった。
毎日3食プラスおやつという感じで、食べる量が多いのも原因だが、1番の原因はベルクが高い食材を多用することだ。
安かったトマトを大量に買ったが、まだお金が足りない。
「1番報酬の高い依頼を頼む」
そう言われたギルドの受け付けは、テキパキと動いてクエストの概要が書かれた紙を渡してくれた。
「ウォーリアピッグ、体長4メートルほどで青いものを見ると暴れて追突する......か」
ひと通り目を通したベルクは、色々な店をまわった後森へと向かった。
「【火精霊魔法 火竜の行進】」
森の真ん中で、ベルクは魔法を唱えた。
「ウォーリアピッグを探して、ここまで連れてきてくれ」
サラマンダーにそう指示して、自分は木に買ってきた青い布を巻き付ける。その後に木の上に睡眠薬を仕込む。
これでサラマンダーが連れてきたウォーリアピッグが、木に突撃する。それで木が揺れて、睡眠薬が落ちる。
ベルクは刀を抜いて身を隠した。
そして今に至る。
近づく大きな足音に緊張感を覚えながらも、落ち着いて茂みの影から見守る。
サラマンダーを追ってきたウォーリアピッグは、思惑通りに木に向かって走り出した。だが、あまりにも勢いが強く、木が倒れてしまった。
睡眠薬を少し浴びたもののまだ興奮状態のウォーリアピッグは、辺りを走り回る。
失敗か......しょうがない、弱い魔物を数体狩って帰るか。
そう思いその場を離れようとしたその時。
「きゃぁぁぁぁ」
誰かの驚く声が後ろから聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、白髪の女が暴れるウォーリアピッグを見て驚いていた。
ま、まずい。このままじゃ......
ベルクは焦りすぐに茂みから飛び出した。そして、すぐさま刀で切りつける。
「硬っ!刃が通らないなら燃やしてやる。【火精霊魔法 炎纏いの刃】」
突進してくるウォーリアピッグを避けるどころか、ベルクはその巨体に向かって行った。
「危ない!」
女がそう叫ぶのと同時に、ベルクが急に体勢を低くして、ウォーリアピッグの股の下を潜り抜けた。その時に腹に刀を突き立てる。
燃えた刀はすんなりと硬い筋肉に突き刺さった。
大木が倒れたかのような音が森に鳴り響く。
「大丈夫か?」
そう言い腰を抜かした女の手を掴んで、起こしてあげる。
「あ、ありがとう」
「いけない、ここ怪我してる」
ベルクは擦りむいた足を見て、鞄から包帯を取り出し処置を始めた。
「ひゃっ」
「ごめん、痛かったか?」
「だ、大丈夫」
あっという間に包帯を巻き終わり、ウォーリアピッグを解体しようとした時に、女がベルクの腕を掴む。
「あの、名前を伺っても?」
「俺はベルクだ」
「僕はラニア、なにかお礼がしたくて、その......」
「それなら解体を手伝ってくれ」
ベルクはラニアに解体用のナイフを手渡す。
「あ、僕自分の持ってます」
ラニアは自前のナイフを持っているだけあって、解体がうまかった。
「ベルクさんお肉は持って帰っても買い取ってもらえませんよ」
肉を切り取るベルクを見て、ラニアが不思議そうに尋ねる。
「これは食べるんだよ。少し獣臭いけど、しっかり処理すれば美味しいんだ」
ひと通り解体し終わったベルクは、それらをカバンに詰めて帰る準備をする。
「ありがとう助かったよ。それじゃあまたどこかで」
「待って、僕も一緒に帰る」
「そうか」
2人は帝都ハイルへ向けて歩き出した。
いつのまにか真っ青な空の真上に、太陽が燦々と輝いている。
「ベルクさんはいつも魔物狩りしてるの?」
「いや、お金がなくなった時だけかな」
「そうなんだ。ベルクさんって強いですよね。僕なんか全然だめで......よかったらなんですけど、ベルクさんが魔物狩りをする時、僕もついて行かせてもらっても良いですか?」
「まあいいが、自分の身は自分で守ってくれよ」
「はい!」
思っていたよりもすんなりと提案を受け入れてくれたベルクに、嬉しさを体現したような返事を返す。
「そういえばウォーリアピッグはどうやって食べるんですか?」
「うーん、トマトがうちに大量に余ってるからそれを使おうかな」
どうやって調理しようかと考えるベルクの横から、グーっとお腹の音が鳴る。
「あ、ごめんなさい......こんな話してたらお腹空いてきちゃって」
「もう昼時だもんな。俺もお腹空いてきちゃったよ」
「ウォーリアピッグってどんな味がするんだろう」
「気になるなら昼食べて行くか?」
「いいんですか?」
やったー、と喜び子供のように飛び跳ねるラニア。
2人は少し足を早めて、ギルドへと向かって行った。
***
「ただいまレナ!」
ギルドでもらった金貨の袋を片手に、泊まっている部屋の扉を開く。
「おかえりベルク!あれ、隣の人は誰?」
「僕はラニアだよ。よろしくね」
「レナはレナだよ。よろしくね、ラニアお姉ちゃん」
挨拶がすんだところで、ラニアを部屋にあげてあげる。
「レナちゃんかわいいね。私レナちゃんみたいな妹欲しかったかも」
ベルクが料理の支度をしている横で、ラニアがレナを撫でながら言った。
「ラニアは姉妹とかいないのか?」
「いるよ。お、お兄ちゃんがちゃんがひとり......」
少し悲しげな表情で話すラニアを見て少し押し黙ってしまった。
少し気まづい空気を打ち破るかのように、ラニアが口を開く。
「なにか手伝えることはある?」
「あ、ああ、そうだな。じゃあ、トマトの種を抜いて1センチ四方くらいに切ってくれ」
ラニアはそう言われた通りに食材を切り始める。
その隣で、ベルクは素早くたまねぎとニンニクをみじん切りにする。そして、ワインにつけた後一口大に切った肉に小麦粉を軽く振って焼き始める。
「トマト切りました」
「それじゃあ弱火でトマトを潰しながら炒めて」
トマトの酸っぱい匂いとジュージューという音が心地いい。
しばらくするとトマトがほぼペースト状になったのを見て、ベルクはそれを肉と玉ねぎとニンニクと共に火にかける。
最後に塩コショウで味を整えて、チーズを削りかけ、パセリを乗せる。
「ウォーリアピッグのトマト煮の完成だ」
赤く輝くスープにはごろっとした肉と、パセリのほのかな香りなど、食欲をそそる要素がたくさん詰まっていた。
3人は椅子に座り料理を食べ始めた。
「おいしいねこれ」
「フレッシュなトマトとジューシーなお肉がすごく合いますね」
「美味しいならよかった」
「僕こんな料理食べたことないです。どこで魔物を使った料理を?」
「俺は世界中を周ってるからな」
「レシピ教えて欲しいです!」
「いいぞ。なんなら一緒に作るか?」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
***
ラニアは少し焦り気味で帰路を急ぐ。
しばらくしてついた自宅の扉をゆっくりと開ける。
「ラニア、僕待ってたんだよ?」
「お、お兄ちゃん......」
「ラニア、ラニア、ラニア、僕ずーっと待ってたの。お昼冷めちゃったじゃない」
「ご、ごめんなさい......わ、私――」
「私じゃなくて、僕でしょ!どうしてお兄ちゃんを怒らせることばかりするの!」
「ごめんなさい」
ラニアの目から大粒の涙が落ちる。
「ああ、ラニア。ごめんなさい。僕そんなつもりじゃ......。僕はラニアを愛しているの、それだけはわかって」
2人は抱き合う。
その奇妙で歪んだものは、愛と言えるのか不確かであった。
活動報告にも書きましたが、現在話のストックが20話分も溜まってしまっているため、本日から2週間程度、毎日12時に投稿します。(土曜と日曜は18時にも投稿します)




