第16話 男盗賊頭アーシュ
賞の応募条件の字数を満たしていなかったので2、3話ほど投稿いたします。その後は9月から投稿を再開いたします。
帝都の端の一際大きな建物、その一室で1人の男が肘掛けに頬杖をついて、ナイフを磨いていた。
ナイフにうつる綺麗な赤髪と、細いながらもしっかりと筋肉のついた肉体は、青年とは思えない魅力を放っていた。
「ザーク様、レノラ様を連れてきました」
扉の向こうから声が聞こえてくる。
「入れ」
扉が開かれ、ロアの町を襲い捕まった女盗賊のアーシュが入ってくる。
「兄貴......その......」
見た目に反したおどおどした態度を気に留めず、ザークが叫ぶ。
「レノラ•アーシュ!お前はアーシュ盗賊団の看板に泥を塗るつもりか!あれほど一般市民を狙うなと言っているのに、お前ってやつは......」
「ご、ごめん兄貴......もうしないよ......」
「はぁ、俺も怒りすぎた、でもレノラのことを思って言っているんだ。いいか?狙うやつはクズだけだ、それ以外を狙っちまえば、俺たちを差別した野郎どもと大差ないんだ」
下を向きながら落ち込んだ様子で相槌を打つアーシュを見て、納得したような様子でこう続けた。
「わかったならいいんだ。もう行っていいぞ」
「あ、兄貴......ひとつ頼んでもいい?」
「なんだレノラ?」
「私が負けたベルクという男の居場所が知りたいんだ」
「なぜだ?復讐するつもりか?」
「いや、謝りたいんだ。私......酷いことをしたから」
「そうか、それなら調べるよ」
よかったと呟き部屋から出ていったアーシュを見届けたザークは、席を立ち上がって、隣の部屋へと向かった。
「おいお前ら、レノラを監視しろ」
「わかりましたザーグ様」
隣室でトランプをやっていた男たちは、ザークに声をかけられた瞬間、緊張した面持ちで大きな返事をした。
***
「今日なに食べよう」
「うーんどうしよー」
太陽がど真ん中を陣取っている快晴の下、ベルクとレナは美味しい昼ごはんを求め、帝都を彷徨っていた。
「ベルクーそろそろレナ疲れたー」
レナがおんぶを強請ってくる頃、通行人の会話が聞こえてきた。
「ねぇ、川沿いのお店行った?」
「流行りのサンドイッチの店でしょ?行ったよー」
「あそこのハムすごく絶品なのよね」
通り過ぎた通行人を見つめた後、2人は見つめ合う。
「今の聞いた?」
「うん、レナサンドイッチ食べたーい」
2人はサンドイッチのお店まで早足で歩いて行った。
「サンドイッチ2つください!」
レナが元気よくお店のカウンターに立つ男に言う。
「はいどうぞ、サンドイッチ2つだよ」
「よかったなレナ」
嬉しそうにサンドイッチを受け取るレナの頭を撫でる。そんなベルクに店員が声をかけてきた。
「すいません、よかったら古くなったパン買ったりしませんか?」
唐突な店員の発言に少し驚く。
そんなベルクを気にせず店員は続けて話す。
「最近売れ行きが良かったのでついついパンを買いすぎてしまって......。飼料として売ったりもしたんですが、少し古いパンが余ってしまって」
乾いた笑いを見せる店員を可哀想とは思うが、古くなったパンなんて使い道がないんだよな。
丁寧に店員の提案を断り、1番奥の席につく。
「これおいしそうだね」
ふんわりと香る小麦の匂いと、少しはみ出たハムとチーズがとてもおいしそうだ。
「本当だな」
そうレナに返して、サンドイッチにかぶりつく。
「ハムがジューシーで美味しいな。それにパンも歯応えがあっていい」
「おいしー」
笑顔のレナを見つめながらあることを思いついた。
ハムとチーズと古くなったパン......。
その後、なにを思ったのか、ベルクは店員に『チーズとハムを少し買わせてくれるならパンも買おう』と交換条件を出して、古いパンを買って帰った。
***
レナの小腹が空いてきた午後3時。
「ベルクー、今日のおやつはー?」
足にまとわりついてくる子猫のようにベルクの足にくっつくレナは、お腹が空いたことを訴えてくる。
「今日のおやつはこれだ!」
自信満々にレナの前に突き出されたそれは、古くなり、傷んで硬くなったパンだった。
「レナ怒るよ」
ほっぺを膨らませて、少し口を尖らせたレナが、ベルクの足に顔を埋める。
「まあ見とけって」
そう言ってパンを削って、炒める。
「そうだレナ、買っておいたチーズをハムではさんどいてくれ」
そう言われるがまま薄切りにされているハムとチーズを掴む。
その横でベルクは、皿の上に小麦を広げて卵を溶き、鍋に油を注ぐ。
「これで準備できたな」
チーズをハムで挟んだものに小麦粉、卵、古いパンで作ったパン粉につけて、熱した油で揚げる。
「ハムカツの完成だ」
「おいしそう!」
きつね色の丸いハムカツは、レナのお眼鏡にかなったようだ。
レナはハムカツの1つを手に取り、かぶりついた。
サクサクと音を立てながらチーズを伸ばす。
「さくさくー」
よほど美味しかったようで、せっせと手を動かして、あっという間に平らげてしまった。
俺の分はなかったか......
そんな気持ちもレナの笑顔を見れば忘れてしまう。
レナが満足してくれたならいいか。




