第14話 空想的薔薇
カルロスの部下、エドワードにベルクたちが襲われた後、悪魔の召喚に使われた男たちが、治癒院へと運ばれていた。
「生存者はこの男だけか......」
ベットに寝ている男を見て、ヴァレリアが言う。
「すみません、取り調べなどは、1週間は待ってもらわないと、厳しいと思います。」
この前ベルクを治療してくれた治癒師のエドガーがヴァレリアにそう話した。
「すまないな、そんなに待てないんだ」
「お言葉ですが、彼は口を利けるほどの体力は......」
「そこは心配しなくていい、意識がなくても話してくれるからな。ローネ、入ってきてくれ」
病院に小柄な女が入ってくる。
「ヴァレリア様、この男ですか?」
「ああ、頼む」
女はその小さな手で、裁縫針ほどの細さの針を、両手両足に一本ずつ丁寧に刺していく。
「【操り人形魔法 奴隷人形遊び】」
刺された針に見えない糸が通っていて、それが引っ張られているようなぎこちない動きをし始める。
「もう質問してもいいのか?」
「はい、私の魔法で奴隷が主人に嘘をつけないように、真実しか話せなくなりました」
「君は、カルロスの居場所を知っているか?」
***
「ヴァレリア様から連絡が入りました!カルロスの居場所がわかったようです!」
「ヴァレリア様がギルドに戻り次第、奴らの本拠地へと乗り込むぞ!」
騒がしいギルドで、1人余裕の表情を浮かべ、椅子に腰掛ける者がいた。
「ふむ、予定通りだな」
***
帝都の端の方、比較的貧困な層が住まうこの場所に、ヴァレリアを含めた15人の人たちが、周りの建物よりも一際大きい屋敷を、建物の影から見つめていた。
「作戦を確認する。敵の人数は4から6人で、カルロスの周りには必ず幹部が2人常駐している。だがそれ以外は脅威とはなり得ない。だから、9人が建物の中に入り、残りの6人は建物の周りに待機だ」
皆頷き、アイコンタクトをとって、ヴァレリアを含めた8人が建物の中へ入る。
予想外にもすんなりと侵入できたことに違和感を覚える。
「ヴァレリア様、ここは作戦を変更して、ヴァレリア様以外を探索にまわして、ヴァレリア様はここで敵を見張るのがいいかと僕は思います」
沈黙を破るようにユーリがヴァレリアにそう提案する。
「作戦変更だ、まずは2人1組になって屋敷内の一階の部屋を探索だ。私はここに残る、敵を見つけた場合無理に戦おうとせずここに戻ってこい」
それぞれ2人1組となり、それぞれ別の部屋に入っていった。
だが、数分経っても誰1人として部屋から出てくることはない。
「みんなどうした!部屋の探索にどれだけかかっているんだ!」
「フッフッフッ、ようこそヴァレリア様、まさかこんなに簡単に罠に引っかかってくれるとは」
男は、体中に装飾品を飾り付け、プックリと膨れた腹を突きだしながら歩いてくる。金持ちを体現したようなその男は、エントランスに取り付けられた階段から降りてくる。
「ど、どう言うことだ!それに、みんなはどこへやった!」
珍しく声を荒げるヴァレリアの気迫に、一切怖気ないカルロスは、余裕の表情で答える。
「皆さんは少し閉じ込めさせていただけました、あなたはおかしいと思わないのですか?今まで証拠の一つも掴めなかった指名手配犯が、証拠を残したことを、あのような弱い末端の男が私の居場所を知っていることを」
「だが貴様1人なら私だけで十分だ 【植物生成魔法 空想的薔薇】」
赤い絨毯のように咲いた薔薇が、辺り一面を覆う。
「あなたのように美しい魔法ですねぇ、しかし、綺麗なものほど汚したくなるんです 【召喚魔法 悪魔の左手】」
カルロスがおもむろに懐から、赤い液体が滴るこぶし大程度の布袋を取り出し、思い切り左手で握りつぶした。
すると、みるみるカルロスの左手が黒く染まり、爪が伸び、鋭くなる。
カルロスはその体に反した素早い動きで、ヴァレリアに攻撃の隙を与えず、鎧ごと切り裂いた。
「カルロス、いえカルロス様あなたの強さには感服しました、私を奴隷にしてください」
斬撃をくらったヴァレリアが、カルロスの足元へと擦り寄りそう言った。
「ハハハハ、敵の私に擦り寄るなど愚の骨頂!はぁはぁ、美しい花を汚すこの快感、何ものにも代え難いですねぇ」
白目を剥き、薔薇の花畑に仰向けに倒れているカルロスが、恍惚とした表情でぶつぶつとそう呟く。
「ギルドマスターである私を貴様は舐めすぎた。私の魔法で作られた都合の良い幻想に囚われ続けていろ」
尚も幻覚を見続けるカルロスを無視して、仲間を探そうとすると、背後から声をかけられる。
「ヴァレリア様大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫だ、それよりユーリ、一体何があったんだ?」
「僕が部屋に入った途端、結界が部屋にはられて出られなくなってたんです」
「ならユーリ、お前はどうやって......?」
「あれは"人間"を閉じ込める結界でしたからね」
ユーリの拳がヴァレリアの腹にめり込む。
「うぐ、コヒュコヒュ」
まともに息ができず、その場にうずくまる。
「はぁ、まじで疲れたわ、この姿でいるのまじでだるいんだよなー」
そう言ったユーリの身長が見る見るうちに2.5メートルほどに伸び、牙が生え、ツノが露出し、翼が現れる。その姿はまさに悪魔だった。
「さっさと仕事済ませちまうか」
先ほどと違いガサツな口調となった悪魔が、どこからともなく真っ黒な短剣を取り出し、ヴァレリアの手へと突き立てる。
「うぐぁぁぁぁぁぁ」
ヴァレリアの全身に激痛が走り、何かが吸い取られるような感覚が襲ってくる。
あまりの痛さにそのまま気を失ってしまった。
***
鼻についた血生臭さが、ヴァレリアを起こす。
「おはようございます、ヴァレリア様、特等席の座り心地はどうですか?」
頭蓋骨を片手に持って、不気味な笑みを浮かべるカルロスは言った。
ヴァレリアは椅子に手足を結びつけられ、身動きが取れずにいた。
「私に何をするつもりだ!」
「私はあなたの心を汚したいのです。拭っても拭っても拭っても拭っても、とれることのない深い絶望を与えたいのです」
「貴様!」
「フフフ、まあ、あなたを虐めるのも重要なのですが、本当の目的はこれです」
カルロスが自分の足元を指差す。そこには、魔法陣が描かれており、周りには6つの供物皿に置かれた、赤く濡れる布袋が置かれていた。
「やはり貴様は爪が甘いな、このように拘束したところで魔法を使えば......使えない?」
「申し訳ありません、少々魔力を借りてしまいました。それに、ここで魔法を使ってしまっては大事なユーリさんが傷ついてしまいますよ」
「な、ユーリはどこにいる!」
「こちらですよ」
膝にカルロスが抱えていた頭蓋骨が置かれた。
それは陶器のようで、膝にずっしりとした重さが感じられた。
「カルロス様は性格が悪いなぁ、ハハハハ」
「ふざけているのか?」
「私は断じてふざけてなどいません。その陶器、私の友の魔法『お話好きの器』で作られたものなのです。ほら、ユーリ自己紹介してみなさい」
「ハイ、カルロスサマ、ワタシハユーリデス」
その陶器は懸命に顎を動かし話し始めた。中に何か入っているのか顎を動かす度にチャポチャポと音を立てる。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
ヴァレリアは体を捻り、頭蓋骨の形をした陶器を床へと落とした。
大きな音を立てて床に落ちた陶器は少し欠け、その隙間から赤い液体が流れ出す。
「あーあ、カルロス様はほんとのこと言ってんのに、よく考えてみろ、俺がギルドに侵入するために必要な情報を、こいつが拷問なんかで吐くと思ってんのか?」
悪魔が陶器を拾い上げ、そう話す。
その言葉と、周りに漂う血の匂いに、ヴァレリアは吐き気を覚えた。
「なんですかその顔、可哀想ですねぇ。フフフ、私すごく楽しめました。それじゃあ儀式に移りましょうか。世界が壊れる瞬間を共に見届けましょう」
カルロスの高笑いが、屋敷中に響いていた。
【魔法解説】
奴隷人形遊び
細い針を4本生成する魔法。
この針を手足に1本ずつ刺すと、ローネとローネが仲間と認識している人物の命令に逆らえなくなる。
空想的薔薇
自分の周りの地面に薔薇を生やす魔法。
この薔薇の上に立った者は、自分の都合のいい妄想の世界に囚われる。
悪魔の左手
生き物の心臓を1つ捧げ、悪魔を左手に宿す魔法。
人間離れした力を発揮できる。
お話好きの器
頭蓋骨型の陶器を生成する魔法。
支配したい人物の脳を器に入れると、どんな命令も聞いてくれるようになる。
ただし、死後1時間以上経った脳は入れても魔法は発動しない。




