第13話 闇討ちを食う
「おい、大丈夫か」
ベルクに軽く揺さぶられ、ユーリが目を覚ます。
「う、うう......悪魔は、どうなりました?」
「俺たちが倒したよ」
「申し訳ありません、守ると息巻いていたのに......」
「気にするなそんなこと、治癒院に行かないと」
「ありがとうございます」
申し訳なさそうなユーリと共に、治安維持員を起こす。
「すみませんベルクさん、説明しなければいけないことがあるので、後ほどギルドへ来て欲しいんですが......」
「わかった、ロゼを送り届けたらギルドへ行くよ」
ユーリたちに別れを告げ、ロゼを送り届ける。
「ロゼ、お前どこで道草食ってたんだ、心配したんだぞ」
アルフレッドが少し不機嫌な様子でロゼに話す。
「アルフレッド違うんだ」
今あったことをひと通りアルフレッドに話す。
「ベルク、ロゼを守ってくれてありがとう」
「そんな、頭を上げてくれ、ロゼがいなきゃ俺も死んでたよ」
ロゼに感謝の旨を伝えて、店を出た。そして、その足でギルドへと向かう。その道中、落ち込んだ様子のレナが口を開く。
「ごめんね、レナのせいで......」
「レナは何も悪くないよ、全部俺が解決してやる」
腕をパシパシと叩き、任せとけという意思を伝える。
「ありがと......」
レナがベルクの手を先ほどよりも強く握る。少しこぼれた涙を拭い、前を向いて歩き出した。
ギルドへ着くなり応接間へ通された。そこには、治療を終えたユーリが座っていた。
「ベルクさん座ってください」
「話って......人攫いたちのことがわかったのか?」
「ええ、エドワードが言っていたカルロスと言う人物はおそらく、この国の3大指名手配犯の1人なんです」
「3大指名手配犯?」
「この国で最も恐れられる3人の犯罪者です。一応3人の手配書を渡すので後程目を通しておいてください」
「わかった」
「それで、このカルロスという男ですが、公爵家の末っ子であり、5年ほど前、家の財産の5分の1ほどを持ち去り、犯罪組織を作り上げました。彼の財力と強力な魔法により、みるみる勢力を伸ばし今に至るわけです」
「そんなにやばいやつに狙われているのか......」
「はい、ですからギルドから強力な護衛をあなたたちにつけます」
ユーリが応接間の扉の前の職員に合図を出し、扉を開けさせる。
「よおベルク、さっきぶりだな」
「知り合いだったんですか、彼が今日からあなたたちの護衛につきますので安心してください」
まぁ、オスカルが護衛なら安心だろう。そう思い、ほっと胸を撫で下ろす。
「今日はもう帰ってもらっても大丈夫です。くれぐれも気をつけてくださいね」
今日は疲れたな。
眠い目を擦りながら宿屋への帰り道を歩く。
歩く以外特にやることもないので、手に持っていた手配書を眺める。
レッドキラー、170センチほどの白のローブを纏った殺し屋、その他の詳細は不明、懸賞金は金貨100枚......。どんな大金だよ。
アーシュ•ザーク、没落貴族出身で5つの盗賊団をまとめた盗賊。180センチほどの男で、懸賞金は金貨120枚。アーシュ?どこかで聞いた気がする。
「お、そいつお前が捕まえた女盗賊の兄だぞ」
「え......」
眠気が冷め背筋が凍る。俺は今、手配書の3人のうち2人に狙われてる可能性があるってことか......。
「そんな大事なこと先に言ってくれよ」
「悪い悪い、知ってると思ってたわ」
そんな話をしていると宿屋が見えてきた。
「オスカルは別の部屋をとるのか?」
「いや、2人と同じ部屋にとまるわ」
「ベット1つしかないぞ」
「俺は寝ねぇよ、俺が寝ちまったら誰が守るんだ」
「でも、これからしばらく護衛につくんだろ?いつまでも寝ないってわけにも......」
「いんや、徹夜すんのは今日だけだ、もうすぐギルドマスターが......これ言っちゃいねぇやつだった、まぁ気にすんな」
「そうか、オスカルがいいならいいんだが」
ベルクは部屋に入った途端ベットに顔を埋める。
「ベルク大丈夫?」
「ああ、少し疲れただけだ。悪いけど先に寝るよ、レナも早く寝ろよな」
「うん」
今日あったことを思い浮かべて、これから狙われ続けることを想像し、悩んでるうちに眠ってしまった。
***
草木も眠る丑三つ時、オスカルの煙草の火種が、宿屋の一室をうっすらと照らしていた。
窓から漏れる月明かりが陰る。床に映る人影は、窓を開け部屋へと入ってくる。
レナに手を伸ばそうとするその女に、オスカルが声をかける。
「おいおい姉ちゃん、それ以上はやめときな」
「あら色男さん、ナンパなら後にしてくれないかしら、今仕事中なの」
月光に照らされ映える長髪を靡かせ、女は余裕の表情でそう返す。
「それが答えかい?後悔するぞ」
オスカルは、手に持つ煙草を女に向け弾き飛ばした。
「まあ、ずいぶん可愛らしい攻撃ね、そんなのじゃ――」
女の言葉が途中で切れる。部屋に広がる闇が意志を持ったように動き、女を窓から外へ弾き飛ばした。
「あーん、痛いじゃない、レディに手を出すなんて、あなたモテないでしょー」
「3階から落とされても無事な女に、モテたかねぇよ」
オスカルも女に続いて、窓から中庭へ飛び降りる。
「減らず口を叩けるのも今のうちよ、すぐに屈服させてあげる。はぁ、あなたが私に泣いて謝るのを想像するとゾクゾクしちゃうわ」
女は暗がりでもわかるほど顔を歪め、笑みを浮かべた。そして、両手を交差させ前に出す。
「【糸魔法 一筋のひかり】」
「その光、俺が呑み込んでやるよ 【影操作魔法 神の影遊び】」
オスカルの足元の影が盛り上がったかと思うと、黒く大きな蜘蛛が姿を現す。
「虫で攻撃するのかしら、可愛いらしいわね」
舐めた態度の女に蜘蛛が突進するが、5歩ほど進んだところで何かに斬られたようにバラバラになって、消滅した。
「糸魔法......まさか」
オスカルはマッチを擦り、辺りを照らす。辺りには、照らされキラキラ光る細いものが張り巡らされていた。
糸だ、それも目を凝らさないと見えないほど細く、ピアノ線のように丈夫な。
「私の魔法に気づいたかしら?あなたはもう一歩も動けない。つまり、私はゆっくり仕事ができるわけ。あ、でも泣き喚いて土下座すればやめてあげようかしら」
「す、すまなかった、頼むそれだけはやめてくれ」
「潔いのは好きだわ」
「それなら......」
「でもごめんなさいね、私仕事と恋は分けて考えてるの、それじゃあね色男さん......あれ?足が、沈んでる?」
「【影操作魔法 誘惑の沼地】」
「なにこれ......沼みたいに、もがけばもがくほど沈んでく」
闇から黒い手が伸び、女を掴む。
「私が悪かったわ、ごめんなさ......い、いない?」
オスカルが跡形もなく消えていた。すると、黒い手に混じり、人間の手が女の足を掴む。
「こんにちは〜形勢逆転だねぇ」
「な、あなたどうなってここに」
「俺はこの影の沼を使って自由に影の中を動けるのさ」
「は、離しなさい!」
「闇の中は意外と心地がいいんだぜ?まぁ嫌なら出してやるよ」
地面の影から伸びる黒い手たちが、女を勢いよく投げ飛ばす。
「ま、まずいわ、この先は私の糸が!」
女は急いで魔法を解除したが間に合わない。
耳や指が弾き飛び、ところどころから血が噴き出る。
「あああぁぁぁぁ」
「朝まで拘束させてもらうぜ」
「う、うわぁぁぁぁ、」
だがいつまで経っても、女に変化はない。
「な、なんで?」
「間に合ったようだな」
オスカルが煙草に火をつけ、煙をふかしながらそう言う。
「あなた!カルロス様になにをしたの!」
「教えようかなーどうしようかなー、そうだ、泣き喚いて土下座すれば考えてあげないこともないかな」
「すみまぇぇぇん、許しでぐださぁぁぁいぃぃ」
「ごめんな姉ちゃん、俺は仕事に私情をはさまねぇタイプなんだわ」
女が泣き叫ぶ声が響く中、オスカルがふかした煙が、夜空へと立ち上り消えてなくなった。
【魔法解説】
一筋のひかり
自分から半径10メートルの球内に固く細い糸を張り巡らせる魔法。
どのように糸を張り巡らせるかは自分で操れる。




