第12話 逆恨み
日が沈み、すっかり暗くなった帰り道、たちこめる闇に隠れていたいくつもの人影が、ベルクとレナの前に姿を現す。
「殺す、殺してやる、殺して......」
息を荒げ、そう呟く人たちに、既視感と危機感を同時に覚えた。
「貴方のような下民が、私に勝ったという事実は、この世から貴方ごと消し去らなければなりません!大人しく死んで、そのカルロス様の奴隷を渡しなさい!」
いきりたつ5人の人の奥に、エドワードが立っていた。
「お前は人攫いの......」
一度落ち着け。相手は6人、レナを守りながらこれだけの人数を捌けるだろうか。とりあえず、ギルドの治安維持員のユーリから貰った魔道具を使おう。
エドワードたちから見えないように、ベルクは魔道具を起動させた。
よし、これでギルドの人たちが駆けつけてくれるだろう。それまで耐えないと。とりあえず刀を......あれ、刀がない......。くそ、とりあえずレナを守らないと。
「【火精霊魔法 火竜の行進】」
ベルクたちと、エドワードたちの間の地面に亀裂が入り、火と共に炎に覆われたトカゲ、サラマンダーが3匹這い出てくる。
「なんですか!この汚らわしいトカゲは!貴方たち、早く殺しなさい! 【心身操作魔法 愚者の戯言】」
人攫いたちが、炎を恐れずサラマンダーに飛びかかる。皮膚が爛れてもなお、サラマンダーに剣を突き立てる様子は、狂気そのものだった。
まずいこのままじゃすぐにサラマンダーたちが......。
その時、背後から声が聞こえる。
「ベルクさん、刀をお店に忘れてました......な、なにしてるんですか!」
「刀ありがとう、それと早く逃げてくれ、こいつらはレナを狙う人攫いたちなんだ。君に何かあってはアルフレッドに合わせる顔がない」
「レナちゃんがいくら可愛いからって......私、この人たち許せません!私も戦います!」
「戦うって......武器もないのに大丈夫なのか」
「任せてください!【加護拝受魔法 不完全な天啓】」
ロゼの前の地面から、透き通るような白い手が現れる。その手は、顔ほどのサイコロを握っており、それを地面へと落とした。
サイコロは3の目を上にし止まる。すると、サイコロがドロドロと溶け出し、それを手が掴み、ドロドロだったものが、みるみる何かを形作っていく。
サイコロだったものはあっという間に大鎌へと姿を変え、ロゼは手からそれを受けとる。
「天啓は承りました。さあ、レナちゃんは渡しません!かかって来なさい!」
「貴方も邪魔しに来たんですか?愚図な亜人が、くたばってしまえ!」
サラマンダーを刺し殺した人攫いたちが、ジリジリとこちらへ詰め寄ってくる。
「そこまでです!その人たちから離れなさい!」
エドワードたちを囲むように、ギルドの治安維持員が現れる。
「大丈夫ですか?ベルクさん」
「ありがとう、ユーリ」
「ああああ、どうして皆私たちの邪魔をするのですか!はぁはぁ、また失敗してしまった......」
「みなさん、その人たちを捕らえてください!」
ユーリたちが、人攫いたちを拘束しようとする。その時、エドワードの様子が一変した。
「カルロスさまぁぁ、申し訳ございませぇぇん、許してぐださぃぃぃ」
「な、カルロスだと?」
ユーリがカルロスという名を聞いて顔を青ざめる。
エドワードは、虚空に向かってカルロスへの謝罪を泣きながら続けていた。
「まずい、みなさんその人たちを、エドワードから離してください!早く!」
ユーリがそう声をかけたが遅かった。
人攫いたちが血を吐き始め、その血一滴一滴が意思を持ったように、エドワードの周りに円を描く。そして、その円の中に複雑な模様を作り出した。
「この5人を贄として捧げます......」
エドワードが円の中心で、白目をむいてそう呟くと、人攫いたちの血がエドワードをつつむ。
「ゴポポ、ニエ、タリナイ」
エドワードの中に全て吸収された血を、少し口から吐きながら、そうエドワードだったものが話す。
「ひ、ひぃぃぃ」
それを見たギルドの治安維持員の数人が、怯えだす。
「あなたたちは、魔力量に恵まれているようですね」
ユーリがベルク、レナ、ロゼの3人に言う。
「どういうことだ?」
「あれはカルロスの召喚魔法なんです。カルロスは、悪魔に実体を持たせ現世に召喚する魔法を使うんですよ。その魔法で召喚された悪魔を見た魔力量の少ない人は、ものすごい恐怖感を与えられるんです」
「悪魔って......倒せるのか?」
「体内に赤い水晶があります。それを壊せば、姿を保てなくなって死ぬと思います」
「わかった、赤い水晶だな」
倒し方を頭に入れ、刀を抜く。
「悪魔の影響を受けてない人は、この3人を守ってください、僕があの悪魔を倒します」
「1人で大丈夫なのか?」
「ピンチになったら手を貸してもらいますが、なるべくあなたたちの手は汚させないようにしますよ。あなたたちを怪我させては、治安維持員を名乗れませんから」
ユーリは腰のレイピアを抜き、悪魔へとその刃を突き立てる。刺さった剣先は、剣の柄から離れた。
「【雷魔法 迅雷の雷火】」
ユーリの手から放たれた電気は、悪魔に刺さったレイピアの刃先に集まり、悪魔の体が痙攣し始める。すると、火がつき始めて悪魔の体が火に覆われた。
尚も痙攣し続ける悪魔の体からは、血が吹き出し、それと共に赤い水晶が出てくる。
「出てきましたね」
ユーリは水晶を拾うため近づいて行く。
その時、吹き出す血の量が増えて、ユーリの体を包み込む。血でできた巨大なスライムのような見た目となった悪魔は、こちらに這いずり始めた。
「ユーリさん!」
戦いの様子を見守っていた治安維持員の2人が、悪魔に向かい走り出す。
2人が振るう剣ごと、悪魔は飲み込んでいく。
ユーリは吐き出されたが、残りの2人は鎧ごと溶かされてしまった。
「な、なんだよあれ......」
3人は恐怖に襲われ、息が荒くなる。
「ベルクさん、どうしますか」
「適当に刃を刺して、水晶に当てるくらいしか方法はないだろうな。魔力さえあれば......」
「でもそれをやるしかないですね」
2人は悪魔に向かって駆け出し、武器を振るう。
血でできたその体は、手応えがなく、振るわれた武器がすり抜けてしまう。
「くそ、埒が開かない」
「ベルクさん!これ」
ロゼが青色の液体の入った小瓶を手渡してくる。
「これ多分魔力回復剤です、さっき飲み込まれた人たちが落としたものだと思います。これでなんとかできたりしませんか?」
「数秒動きを止めてくれれば、なんとかなるかもしれない」
「わかりました、任せてください! 【加護拝受魔法 剛腕の秘薬】」
ロゼの前の地面から、手をお椀の形にした手が現れる。その手の中には、透き通った液体が入っており、ロゼがそれを口にふくむ。
ふー、と息を吐き飛び上がって、悪魔の近くの地面に拳を叩きつける。
地面が凹み、できた溝に悪魔がはまる。
「這い上がってくる前に、ベルクさんお願いします!」
「【火精霊魔法 炎の精霊の一撃】」
ベルクの背後から、5メートルほどのイフリートが現れ、悪魔に向けて火を放つ。
柱のように、まっすぐ放たれた火が、悪魔を吹き飛ばす。
飛び散りもう動かなくなった血溜まりを見て、一息つく。
「レナ怪我はないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「レナちゃんよかったよー」
ロゼがレナを抱きしめる。
なんとかなってよかった。そう思い、2人の微笑ましい姿をベルクは眺めていた。
【魔法解説】
火竜の行進
サラマンダーを8体まで召喚できる。
このサラマンダーには『守れ』『攻撃しろ』などの簡単な命令を下すことができる。
不完全な天啓
ランダムな武器を生成する魔法。
一度武器を生成するとそれが24時間消えず、不完全な天啓は生成した武器が消えるまで使うことができない。
迅雷の雷火
雷を放つ魔法。
これを食らった相手は、感電し焼け死ぬ。
剛腕の秘薬
飲むと身体能力を3倍にする液体を生成する魔法。
ただし、ロゼ以外が飲んでも効果はない。




