第11話 ヴァレリアの休日
コンコン、宿屋の一室を叩く音が聞こえる。ベルクが扉を開けると、ヴァレリアが立っていた。
「ヴァレリア、どうしたんだ、もしかして、人攫いの情報が掴めたのか?」
「いや、その......」
いつもと違い、控えめな態度で話すヴァレリアに尋ねる。
「なにかあったのか?」
「ず、図々しいのはわかっている、でもあのクッキーのおいしさが忘れられないんだ。頼む、レシピを教えてくれないか」
「なんだそんなことか、別に大丈夫だぞ」
「お金ならいくらでも......い、いいのか?あのクッキーひと稼ぎできそうなくらい美味しかったが」
「いいよ、素人がお店出したってそう簡単に稼げないし、第一に俺は、おいしさを共有したいタイプだからな。そうだ、よかったら一緒に作っていくか?」
そろそろレナのおやつの時間だったことを思い出し、そう提案した。
「ほんとうか、よろしく頼む」
さっそくクッキーの材料を用意しようとカバンを漁ると、べるくは頭を抱えた。
「小麦粉切れてた......」
「レナが買いにいってあげるよー」
「ありがとな、じゃあヴァレリア、レナと一緒に行ってきてもらってもいいか」
「ああ、問題ないぞ」
落とさないようにね、と念を押してレナにお金を渡し、2人を見送った。
***
20分ほど経っただろうか、少しウトウトし始めたベルクを、扉を開ける音が起こす。
「ただいまー、あのねあのね、レナおばあちゃん助けたの、そしたらねお礼貰えたの」
ヴァレリアのもつ袋が目につく。
袋を受け取り、中を見ると赤い粒が入っていた。一粒取り出し、匂いを嗅ぐ。
「赤色だし、この匂いは......小豆か」
おはぎ、団子、それに......。
小豆で何を作ろうかと考えていると、違和感に気づく。ヴァレリアとレナが、小豆の袋以外何も持っていないのだ。
「あの、小麦粉って......?」
「あ!忘れてた......」
あたふたし出すヴァレリア。
「す、すぐ買ってくるぞ」
急いで小麦粉を買いに行こうとする、ヴァレリアの肩を掴む。
「大丈夫、この小豆さえあれば、お菓子が作れるから」
今日のお昼の残りの米、砂糖に塩、小豆、そして白い粉。それらを抱えて宿屋の調理室を借りる。
「じゃあヴァレリアとレナは、湯煎しながら米とその白い粉を混ぜてくれ」
「これは、おやこどんの時の......ん?この白い粉はなんだ」
「それは宿屋のおばさんにもらったけど食べ切れなかったジャガイモを、粉にしたんだよ」
「え、ベルクあの草はえたジャガイモたべるの?」
レナが嫌そうな顔で尋ねてくる。
「別に、芽の生えたジャガイモをそのまま粉にしたわけじゃないし、俺の故郷じゃ片栗粉って言う立派な食材なんだよ」
へえー、と納得したレナとヴァレリアが、ご飯と片栗粉を混ぜ始める。
「よし、俺はあんこ作るか」
洗った小豆を茹で、水を差し、水を切ったり、複数の工程を経て茹で上がった小豆に、砂糖を2回に分け加える。
「甘くて美味しそうな匂いだな」
「ああ、すごくうまいぞ」
粘り気のでてきたところで、塩をひとつまみ。
あんこの完成だ。
「それじゃあ、米を丸めてあんこで包んでくれ」
2人は言われた通りに、米をあんこで包み始める。
「これ楽しいね」
「ふふ、そうだな、普段料理なんてしないから新鮮で楽しいよ」
ふっくらとした米に、優しい甘い匂いを纏わせるあんこ、おはぎの完成だ。
少し作りすぎたおはぎたちを皿に盛り、自室へ持って行った。席につき手を合わせる。
「もちもちでおいしいー」
「優しい甘さで、つぶつぶの食感がおいしいな」
「クッキーもよかったが、これもなかなか」
口に入れたおはぎは、粘りのある芳ばしいあんこに包まれ、米の粒が感じられるもちもちとした食感で、いくらでも食べられそうだ。
なんて数十分前に思っていたが、流石に作りすぎた。皿にはまだ6つのおはぎが並んでいる。
「少し多かったな」
お腹をさすりながらヴァレリアが言う。
「そうだ、みんなにお裾分けするか」
***
「いい休日になったよ、ありがとうベルク」
「こちらこそ、そうだ、これ」
ヴァレリアに紙を手渡す。
「これは?」
「クッキーも含めたお菓子のレシピだ」
「なにからなにまでありがとう」
ヴァレリアが部屋を出たあと、キッチンの片付けなんかをしていたら、あっという間に日が沈んだ。
外出の準備をし、レナを連れて部屋を出る。
***
「いらっしゃい、ベルクじゃないか」
アルフレッドが出迎えてくれる。
「晩ご飯食べるついでに、作りすぎたお菓子持って来たんだ。よかったら食べてくれ」
「アルフレッド、俺にもくれよ」
声のする方を見るとオスカルがいた。
「相変わらず料理がうまいな、俺も負けてられないなぁ」
レナを隣に座らせ、席につく。ご飯ができる間店内を見渡していると、後ろから声が聞こえて来た。
「お兄ちゃん、店の裏の掃除終わったよ」
「ああ、ありがとうロゼ」
「アルフレッドの妹か?」
「そうだぞ、つい最近、うちの店で働きたいってロアの町から抜け出してきたんだよ」
「結構歳が離れてるんだな」
貫禄のあるアルフレッドと違い、若々しい元気なオーラを放つロゼは、かなり若く見えた。15、6歳差くらいだろうか。
「まぁ6歳差だしな」
「え......アルフレッドって何歳だ?」
「25だぞ」
同じくらいだと思ってたのに、俺より7つ下じゃん。
「わかるぞベルク、そいつ老けて見えるよな。俺に弟子入りを懇願してきた時は、好青年って顔してたんだけどな」
「なんだそれ、詳しく聞かせてくれよ」
「俺がロアの町の周辺で魔物退治した時、こいつ弟子にしてくれって言ってきてな、それでしばらく一緒に冒険者やってたんだよ」
「へー」
「恥ずかしいからやめてくれ、オスカル」
「わぁ、お兄ちゃんこの子誰?」
「レナはレナだよ」
「可愛いね」
ロゼがレナの頭を撫でながら言う。
そう話しているうちに、ご飯が届く。
できたての温かいものを頬張り、お金を置いて店を出た。
「あれ、お兄ちゃんあの人、刀忘れてってるよ」
「まじか、ロゼ、届けに行ってくれないか?」
「わかったよ」
その頃、帰路についた2人の後ろをつける怪しい影があった。
「カルロス様に仇なす下民めが、逆らったこと後悔させてやる......」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
あと5話で第1章完結としたいと思います。9月から再び第2章の投稿を再開いたします。




