第2音
魔物使いの目撃事件から1ヶ月が経った。その後の魔物使いの目撃情報はなかったが、どうやら森の魔物が多く、騎士団は毎日魔物の退治に追われているようだった。
「元々魔物はたくさんいたのですよ。ちょうどエリーが来た頃から凶暴な魔物の出現数が少なくなって、騎士団の退治に向かう人数も少なくて済んでいたのです」
レイが説明してくれたとおり、私がこの世界に来てから初めて魔物の鳴き声や騎士団の戦う音が聞こえるようになった。一方私はというと、今までのシスターの仕事に魔物退治で負傷した騎士団の手当ても加わり忙しく過ごしていた。
「それにしても魔物って多いんですね。こんな大人数で戦ってるのに減らないなんて」
「魔物も凶暴にならなければ退治する必要もないんですよ。上手く共存できたらいいんですけどね」
手当てをしながら騎士団の人と話してわかったのは、本来この国では農業が発達しているため魔物の素材も必要なく、防衛目的以外の魔物の狩猟も禁止されているそうだ。
こんな状況がしばらく続き、ようやく体が激務に慣れてきたころ、私は歌う場所を探すことにした。もちろん森の中は危険なので行くことはできないし、夜に出歩くことなんてもってのほかだ。唯一、仕事が終わった夜に一人で行ける場所がある。
-ガチャ
教会の仕事が終わって私が向かった先は礼拝堂だった。この教会ではお祈りは1人でするのが普通らしく、それぞれが思い思いの時間に礼拝堂に行くため誰かに遭遇することも少なく、夜1人で行っても怪しまれない場所なのだ。
礼拝堂の真ん中へと進み、深く深呼吸をする。歌うのは久しぶりなので、少しチューニングをするように口から音を出してみる。今までこんなに長い間歌わないことがなかったからか、喉が慣れるまで少し時間がかかったが歌う準備は整った。
さて、どんな歌を歌おうか。私は礼拝堂をぐるっと見渡すとある曲を思い出した。
前世でワールドツアーをしていたころ、ボランティアで行った教会で讃美歌を教えてもらったことがある。教えてくれたシスターは讃美歌とは神を讃える歌で、生きていることへの感謝を込めて歌うのだと言っていた。
今、ここで歌うのはこの曲が一番良いだろう。そう思い私はあの時教えてもらった讃美歌を歌った。今この世界で生きていることへの感謝と、この国の全ての人の安全を願って。
久しぶりに歌ったので思っていたようには歌えない部分もあったが、またここで練習すればいいか、と今日はこれで切り上げることにした。そう思い礼拝堂を後にした。
-ガタッ
「今のは何だったんだ…?」