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7.平凡令嬢、レジスタンスの隠れ家へ赴く。

 朝食を食べ、お昼を過ぎた頃でした。


「案内したい場所があるので、ついてきて欲しい」


 リカルド様にそう言われて、私は二つ返事で付いて行く事にしました。

 のどかな街を、私はリカルド様は平民のような服装に着替えて歩いています。

 着替えた理由は、流石にドレス姿で歩いていては、奇異の目で見られるかもしれないからです。

 私達の居場所をカチュアお姉さま達に知られるのは、復讐するには都合が悪いですからね。


 リカルド様に連れられ、私はしがない一軒家にへとやって来ました。

 外から見る限りでは、何の変哲もない平民の民家です。

 家の中に入り、ズンズンと奥へ行きますが、家の中も外見と同じく変哲がありません。

 違和感があるとすれば、全体的に片付いているせいか、少々生活感を感じない位です。



 一番奥の部屋まで来て、リカルド様と暖炉の前まで来ました。


「ここです」


「ここ……ですか?」


「はい。実はこの奥に階段があるので、少々汚れてしまいますが、我慢してもらえると助かります」


 差し出されたリカルド様の手を握ると、私をエスコートするように、火の付いていない暖炉の中へ入っていきます。

 

「足元、段差があるのでお気を付けて」


「はい……。あっ!」


 気を付けてと、言われた矢先にやってしまいました。

 転びそうになった私を、リカルド様が受け止めてくれたおかげで、何とか難を免れることは出来ました。


「あの、ここは?」


 恥ずかしさを隠すように、尋ねました。実際ここがどこか分かりませんですし。

 人一人が歩ける位の、暗い地下道です。


「ここは秘密の地下通路の一つで、この先にあるレジスタンスの隠れ家へ向かっています」


「レジスタンス?」


「ええ。復讐しようにも私のような凡人ではとても兄には敵いません。なので仲間と共に活動をしているのです」


「他にも仲間が居るのですね」


「はい。外で大っぴらに話すわけにはいかなかったので、事後承諾のような形になってしまいましたが」


「いえ、大丈夫です。是非紹介して貰えますか?」


「はい。仲間もきっと貴女を歓迎してくれるはずです」

 

 道中いくつも分かれ道が有り、道に迷いはしないか不安でしたが、取り越し苦労だったようです。

 地下道を抜けた先には、木々に囲まれた森の中で、一か所だけ開けた場所があり、そこにポツンと一軒家が立っていました。

 どうやら、あそこがレジスタンスの隠れ家らしいです。


 ちなみにこの場所は、地上から向かうと獣道さえなく、同じような場所ばかりで、地上からここまで来るのはほぼ不可能らしいです。

 リカルド様は、その一軒家まで歩き、ドアを開けて中に入って行きました。


「ただいま戻りました」


「おかえりリカルド。どうだった?」


 ドタドタと足音を立て、リカルド様を迎えに少年が中から出てきました。年の頃は15歳前後といった所でしょうか? 見た目はどこにでもいる少年ですが、どこかで見た事があるような気が……。

 彼はまるで気の知れた友人に話しかけるように、馴れ馴れしくリカルド様に話しかけ、リカルド様も気を悪くすることなく、少年にくだけた感じで受け答えしています。


「それで皆に紹介したい人が居るんだ」


「へぇ、そこの女の人は……えっ?」


「彼女の名はパオラ。トーマス、君なら彼女の事は知っているだろう?」


 トーマスと呼ばれた少年は私を見つめ、リカルド様の声が耳に入っているのかどうか分からない様子でした。

 すると突然、その場で土下座をし始めました。


「パオラ様、いつぞやは魔王を討伐して頂き、誠にありがとうございました」


「あぁ、あの時の!」


 魔王を討伐に行った時の事ですが、たまたま魔王の居城の近くにある村が、魔王軍に襲われていたのを助けた記憶があります。

 その時に、お礼を言ってくれた村人たちの中に、トーマスと呼ばれた少年が居ました。ひょうきんな性格だったので、印象に残っていました。

 土下座されたまま話しをするわけにもいきませんので、立ち上がって貰うようお願いしました。


「魔王を討伐しましたので、もう大丈夫だと思いますが、あれから村の様子はどうですか?」


「村は……俺一人残して全滅しました……。国の軍隊の手によって……」


「そんな、まさか……何故?」


 トーマスさんが話してくれた内容は、とても酷い物でした。

 私が魔王を討伐した後に、カチュアお姉さまの功績にする為、私が魔王を倒したことを知る人が居る村や集落は全て軍隊の手によって惨殺されたそうです。

 もちろん事情を知らない人もいますが、生存者を残さないように関係なしに全て殺して回っていたのだとか。

 嗚咽交じりにトーマスさんの村で起きたことを話してくれる間、私は地に足が付いた感覚がありませんでした。


 私がただ平凡になりたいという願いは、人々を殺すための呪いにされました。カチュアお姉さまが手柄を横取りするためだけの為に。 

 

 一通り話を終えたトーマスさんは、目を腫らしながらも必死に笑顔を作り「リカルドが帰って来た事を皆に伝えてくる」と言って、部屋の奥まで走って行きました。


「パオラ。これが今のこの国の実情だ。トーマスの話は、その一部でしか無い」


 リカルド様から紳士的な言葉が消えていました。それだけ許せない事なのでしょう。

 それは私も同じです。どうやら私が思っている以上の事が、裏で起きていたようです。

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剣も魔術も使えぬ勇者
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