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ごっこ部(仮)  作者: カブキマン
9/23

歓迎会 前

 ポーン、ポーン、と鳴り響く柱時計の鐘の音が沈みかけていた意識を浮上させる。


「……もう五時か」


 ソファの上で半ば寝こけていた悠太は、跳ねるように起き上がりグッと伸びをした。

 茜色に染まる室内。差し込む夕陽に目を細め、悠太は笑う。

 悠太は日曜日の夕方という時間が大好きだった。

 普通は休日ももう終わり……と切なくなるものだが、どうしてか好ましく思うのだ。


「先輩らが来るのは五時半だし、もうちょっと寝てても良かったかなあ」


 昨日、言った通り今日は歓迎会を行うことになっている。

 と言っても悠太自身は主賓なのであまりやることはない。

 精々、人数分おしぼりと割り箸、紙皿と紙コップを用意するぐらいだ。

 そしてそれはうたた寝をする前にはもう終えている。

 微妙に空いた時間をどうするかと思案していると、インターホンが鳴った。

 まだ早いけど先輩の誰かかな? なんて考えつつ玄関に向かい扉を開けると、


《ピー……ガガー……ギギギ》


 四角い頭。四角い胴体。四角い手足。楕円形の目、鼻、口。

 端的に言おう――ロボがそこに居た。

 メカニカルな効果音を鳴り響かせながら直立するそれに悠太はこれでもかと目を見開く。


「え、何これ」


 まるで昔のブリキで出来たロボットの玩具のようなちゃちな外見なのに、だ。存在感が違う。

 これは本物のロボットだと否が応にも理解出来てしまう。

 戸惑う悠太。と、そこでロボットに反応が。


《オレ、オマエ、コロス。ハカセ、ヨロコブ》

「!?」


 無機質な機械音声で放たれた抹殺宣言。

 咄嗟に逃げ出そうとするが、


「――――いやビビり過ぎだろ。冗談、冗談だから」


 ロボが有機的な質感に変わり、うねうねと蠢動したかと思うと小春に姿を変えた。


「ちょ、あん……風花先輩! 何やってんですか!?」


 我に返り、キョロキョロと周囲を見渡す。

 幸運なことにどうやら人の目はないらしい。

 ホッと胸を撫で下ろす悠太を小春がケラケラと笑う。


「大丈夫だよ。光学迷彩纏ってたからな。お前以外にゃ見えてねえ」

「いやそれはそれで問題ですけどね?」


 いきなり誰も居ない玄関先でキョドり始めるとか不審極まりない。


「とりあえず、入って良いか?」

「あ、はい。どうぞ」


 小春を伴って家の中に戻る。

 昨日言っていたように男の家に来るのが初めてだからだろう。小春はどことなく落ち着きがないように見えた。


「……男の二人暮らしだって聞いてたけど普通に綺麗だな」

「まあ、休日以外はお手伝いさんが来てくれてますから」

「お手伝いさん!? 広い家だとは思ってたけどやっぱ金持ちなんだなあ」

「金持ちかどうかは分かりませんけど……父の意向でして」


 家事が出来ないわけではないのだ。

 最低限よりちょっと上程度の家事スキルはある。

 ただ、この年頃の子供が家事に時間を取られ過ぎるのはよろしくない。

 遊んで学んで、子供らしい時間を過ごして欲しいというのが父の考えだった。

 悠太がそう説明すると小春は感心した顔でうんうんと頷く。


「悠太んとこのパパさんも、すっごく良いパパさんなんだな」

「……ど、どうも」

「あ、そうだ。飲み物買って来たから冷蔵庫に入れたいんだけど」

「ああはいはい。こっちです」


 キッチンに向かい、ジュース類を冷蔵庫に仕舞う。

 その後、小春の希望で自室に場所を移したのだが……。


「へえ! へえ! へえ! 男子の部屋ってこんな感じなんだなあ」


 別に見られて困る物はない(PCの中身を除けば)。

 ないのだが、こんな風にまじまじと観察されるのはどうにも恥ずかしい。


(そういや……)


 自室に女の子を招き入れるのは初めての経験だ。

 そう考えると、少しドキドキしてしまう。

 アレなところがあるとはいえ小春も立派な美少女。


(うぅ……何か落ち着かないな)


 当然と言えば当然だが、今日の小春は私服だ。

 そこにもまたドギマギしてしまう。


「エロ本、エロ本……」

「ベッドの下に頭突っ込むな!!!」


 ドキドキゲージが急降下。


「えー」

「えー……じゃないですよ! つか、ベッドの下とかベタ過ぎるでしょ。漫画じゃないんだから」

「じゃあどこにあるんだよ」

「ありませんよ」

「ホントに?」

「ホントに」


 そもそも、未成年がエロ本を入手するというのは割りとハードルが高いのだ。

 年齢制限があるのでよっぽどの老け顔でないと正規の手段で購入するのは難しい。

 となると拾うぐらいしか手はないのだが、これも難しい。


(衛生面がなあ)


 気にしない人は気にしないのだろうが悠太はそういうのが気になってしまうタイプだった。


「じゃあどうやってオ●ニーしてんだよ?」

「先輩、恥って言葉をご存知?」

「拘束具だろ? 捨てたら楽になれる」

「防具ですよ。社会で身を守るためのね」


 何だこの会話……。

 これ相手にドキドキする方が間違っていると悠太はすっかり萎えてしまった。


「ところで悠太、ちょっと聞きたいんだけど」

「何です? アホな質問だったら無視しますけど」

「おいおい、高IQでならしてるあたしがそんな質問をするとでも?」

「さっきの質問のどこに高IQ要素があったと言うのか。で、何をお聞きになりたいので?」

「あれって何なのかなって」


 ぴっ、と小春が指差した先は勉強机――の上に置いてある黒い金属製の小箱だった。

 ああ、あれかと悠太は納得し口を開く。


「夕凪家に伝わる家宝――……じゃないな。代々長子が受け継ぐ……物品? です」

「ん? それだったら悠太のパパさんが持ってるべきなんじゃ……」

「ああはい。まあそうなんですけど」


 悠太から見て父は善良な人間だし、良い父親だ。

 しかし、欠点がないわけではない。

 片付けが下手だったり、物をよく失くしたり。

 ようは、物を預けるのに適した人間ではないのだ。


「五年ぐらい前ですかねえ。田舎から爺ちゃんが遊びに来たんですよ。

その時、父さんに例の箱はしっかり保管してるのかって聞いて……」


「ああ、してなかったわけだ」

「ええ。家中引っ繰り返してようやっとって感じです」


 当時を思い出し悠太は苦い顔をする。


「それでまあ、父さんには任せておけないってことでちょっと早いけど僕に譲渡されたんです」

「悠太はそういうのキッチリしてるっぽいしな」

「キッチリしてるかどうかは分かりませんが、父さんほど酷くはないですね」

「それで、その箱を代々受け継いでるって言うけど何か由来のある代物なのか?」

「まあ一応は」


 と言っても大したことではない。

 怪談などでよくある、悪い物が封じられているとかそういうアレだ。


「つっても、中身は空なんですけどね」

「え、開けたの? 悠太って意外とロックだな」

「いやいや僕じゃないですよ。父さんです父さん。父さんが小さい頃、爺ちゃんに黙ってコッソリと」

「…………怪談だとそれから何か良くないことが起こったりするもんだが」

「いやー、特にそういうのはなかったみたいですよ」


 強いて言うなら母が死んだことぐらいか。

 それにしても、元から身体の弱い人だったと聞くし何より時間が経ち過ぎている。

 関連性は低いだろう。


「ぶっちゃけただの箱ですよアレ」

「ふぅん。でも、何の不思議もないってわけじゃなさそうだけどな」

「え」

「だってあの箱。未知の物質で出来てるっぽいし。少なくともあたしのデータベースには該当するもんはねえな」

「!?」


 ギョっとする悠太に小春は不安がることはないと笑い飛ばす。


「結界、すり抜けた時点でお前は普通の人間だ。

普通ってのはその背景も含めてってことだから特に何かあったりはしねえよ」


 その言葉に悠太は胸を撫で下ろした。

 “特別”に憧れがないわけではないが、やはりそういうのは夢想で留めておくのが一番だ。

 現実になっても良いことがないのは、青司を見れば明白である。


「第一、未知の物質なんてそこまで特異なもんでもないしな」

「そう、なんですか?」

「ああ。あたしが造られた当時の物質も今の時代から見れば未知の物が多いだろうしな」

「はあ……でも、風花先輩のデータベースにもないのは……」


 少し不安だと言う悠太に小春はそうでもないと答える。


「あたしを造った文明が地球における始まりの文明とは限らねえだろ?

それ以前にもあった可能性はあるし、それ以後にも今に至るまでに幾つか存在してた可能性はある。

んでそういう代物が時たま発掘されたりもしてるしな。あたしだってそうやってパパとママに発見されたわけだし」


 やはりと言うべきか小春の両親は実の親ではないようだ。


「それに宇宙や異世界から飛来したりって線もある。

実際、あたしらも宇宙から降って来たのを見つけたことがある……まあ結局、それは邪神のウンコだったわけだが」


「ウンコ!?」

「うん。判明した細かい経緯は省くが金属だと思ってたら排泄物だった」


 あの小箱もそうだったらどうしよう……ウンコを子孫に託さなきゃいけないの?

 そんな不安が脳裏をよぎった。


「あれ、触っても良いか?」

「ど、どうぞ」

「ん」


 小春が手を翳すと小箱は宙を舞い、その手に収まった。


「ふむふむ……うん。やっぱり特に何も感じないな。

一応、霊的にも科学的にも分析してみたが特に問題はなさそうだ。

完全に未知のものだとしても何かあるなら引っ掛かりはするだろうし」


「そう、ですか」


 再度、胸を撫で下ろす。


「ま、何かあったらあたしらがどうにかしてやるから安心しろよ」


 ニカッ、と笑う小春。

 その笑顔はビックリするほど魅力的で、不意打ちを喰らった悠太の顔が赤くなる。


「ぁ……ありがとうございます」

「良いって良いって。折角出来た可愛い後輩なんだ。骨ぐらい幾らでも折ってやるさ」


 うりうりと甘いヘッドロックをかけてくる小春のせいで更に悠太の顔に赤みが増す。

 とても兵器とは思えないほどに柔らかく、そして豊かに実った果実は青少年にとってはあまりにも刺激が強過ぎた。


「不安なら小型のバリア発生装置でも作ろうか?」

「いえ、そこまでは……ってか、気になってたんですけど風花先輩は人型兵器なんですよね?」

「ああ。それがどうしたよ」

「いや、兵器ってより兵器生産工場みたいだなーって」

「みたいってか、それも兼ねてるからな」


 曰く、戦争に必要なものを全て賄うというのが小春のコンセプトなのだと言う。


「まあ、本格稼動前に文明は滅んだんだけどな」

「それはまた何と言いますか……」

「気にすんな。ぶっちゃけ、あたしを造った文明に対する愛着なんて皆無だから」

「それはそれでどうなんです?」

「そう言われてもな。データだけで実感ないんだもん。パパとママの生きる今の世界のがよっぽど大切だわ」


 ドライだと思ったが、その正体が兵器であることを考えればむしろ情は深いのかもしれない。


「あ、もう一つ良いですかね?」

「ん。言ってみ」

「真の姿とかそういうのあったりするんですか?」


 人型古代兵器というぐらいだから人間に近しい姿はしているのだろう。

 だが兵器だ。まさか今のどこからどう見てもただの美少女な外見が本当の姿ではないはず。

 もっとこう、カッコいい姿があるのだろうという期待を込めての質問だったが……。


「いんや? 特にないよ」

「え」

「スリープ状態の機能を解放したりすれば装甲やら何やらが追加されたりするけどベースはこの姿だし」

「な、何で……?」


 兵器を人間と遜色ない姿にする必要はあるのか?

 悠太の疑問に小春はあっさりとこう答える。


「開発者の趣味」

「……」

「兵器で美少女とか最高やん! だってさ」

「……」

「ま、あれだな。どんだけ文明が発達しようとも男の下半身は変わらねえってこった」


 何か浪漫を感じるよな! と笑う小春だが全然だ。浪漫なんか微塵も感じない。

 何なら古代文明というワードに対する浪漫が薄れたような気さえする。


「ちなみにあたしは衣服なんかも作れるんだけどな。

初期登録されてるのはナース、メイド、食い込みや露出の激しいピッチリボディスーツに……」


「もう良いです。これ以上、僕の古代文明というワードに対する夢を壊さないで」

「お、おう……何かごめんね?」


 ぽんぽんと慰めるように背中を叩く小春だが、逆にそれがキツかった。


「よし、あれだ。何か悠太の好きそうなロボットのデータとか見せてやるから元気出せよ」


 小春の両目から光が放たれ壁に映像が映し出される。

 ビジュアル的にかなりアレだがそれはそれとして、


「うっわ……カッコ良い……」

「ちなみに昨日、悠太が操縦したジェネキンな。あれも過去、実際に存在したものなんだぜ」

「マジでか」

「マジマジ。どっかの大学のロボットサークルが作ったもんだったかな?」

「サークル活動で巨大ロボつくんの!? 何それすっごい羨ましい!!」

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