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ごっこ部(仮)  作者: カブキマン
8/23

最終試験

「……という点を省みて最終的なリザルトは95点」


 午後一時を少し過ぎた頃、ようやく小夜の一人語りが終わった。

 慣れているのか、自分も好みのジャンルだとそうなるのか。

 小夜を除く三人はあっけらかんとしていたが悠太は割りと疲労困憊だった。


「まー……あれだ。聞くのが遅れちまったが悠太はどうだ? 感想を聞かせてくれよ」

「え? あぁ」


 言葉を探すように視線を彷徨わせ、悠太は嘘偽らざる感想を口にする。


「……怖かった、ですね」

「ほう」

「あ、いえ! 勿論、楽しかったですよ? ええ、実際にロボットを動かすとか普通じゃまずあり得ない経験ですし」

「そう言ってくれると嬉しいですわ。では、怖かったと言うのは? 安全だと分かっていても、ということでしょうか?」

「ああいや、それも……なくはないですけど」


 本当に怖かったのはそこではない。

 悠太が心底から恐怖を感じたのは、


「…………大きな力を使うのが、怖かったです」


 今回はロボットという形だったが、シチュエーションによっては魔法や超能力なども使用するだろう。

 それらは皆、夕凪悠太という人間の身の丈には合わない力だ。


「……なるほど。でも、自分の力じゃないんだしもっと気楽に構えて良いのでは?」

「いや、自分のじゃないから余計に怖いです」


 これが努力して培ったものならば良い。

 そこに至るまでのバックボーンがしっかりしているなら真っ直ぐ受け止められる。

 だが、そうではない。使うのは他人から貸し与えられた力だ。

 バックボーンも何もない。降って沸いた力。


「逆に、こう、力に溺れちゃいそうって言うか」


 理性を強く持ち、常に自覚し続けなければいつか取り返しのつかないことになってしまいそうで怖い。

 悠太の言葉に先輩四人はなるほどと頷き、


「――――“合格”だな」

「ええ、文句なしに合格ですわ」

「まあ大丈夫だろうとは思ってたけどな」

「……それな。付き合いは短いけど性格的にそうなるだろうとは思ってた」

「は? へ?」


 合格? どういうことだ?

 困惑する悠太にごっこ部の長たる青司が苦笑気味に答える。


「まー……何だ、誘っておいて勝手なのは分かってるがな。

実はこの体験入部。正式な入部資格を持つかどうかの最終試験も兼ねてたんだよ」


「はぁ……いや別に構いませんけど」


 半ば無理矢理連れて来ておいて何を、と普通なら思っていたかもしれない。

 だが貴重な経験をさせてもらったのだし、むしろお釣りが来るぐらいだろう。


「それで最終試験って言うのは?」


「さっきお前さんが言ったように身の丈に合わない借りものの力ってのは危険なんだ。

手前のものでもないのに増長しておかしな方向に転がるってのは、そう珍しくもない。

実際俺も、異世界でその手の奴らを“処理”したこともある」


 ……良い奴だったのにな。

 そう呟く青司だが、やめて欲しい。

 日常会話で妙な重さを醸し出すのは本当にやめて欲しい。


「ごっこ部でやっていく以上、その手の危険はどうしたって付き纏う」

「まあ、そうですね」


 先日、聞かされた条件を聞くに一般人であることが大前提だ。

 そして一般人である以上、力は四人から借りるしかない。


「だからそこらもしっかり見極めようって決めてたんだ」

「はあ……その、例の結界とやらじゃダメだったんですか?」


 詳しくは知らないが結構、細かく条件を設定出来るようだしそこで済ませても良かったのでは?

 悠太の疑問に青司はまあそうなんだがと苦笑しつつ、こう続けた。


「何だかんだって言って、最後は自分の目で見極めた方が安心出来るだろ?」

「そんなもんですかね」

「そんなもんだ。それに、実際一緒に遊んでみないと実感出来ないこともあるしな」

「なるほど。ちなみに不合格だった場合は?」

「記憶を消してお帰り願ってた。これをこっそり懐に忍ばせてな」


 青司が取り出したのは一万円分の図書券だった。

 記憶には残らなくても、時間を浪費させてしまったからそのお詫びということだろうか?


「でもまあ、お前さんは文句なしに合格だ」

「いやでも、今そう思うってだけで……」


 この先もそうとは限らない。


「道を外れそうになったら手を差し伸べ引き戻してやるのが先輩ってもんだろ?

俺らが見たかったのは根っこの部分がしっかりしてるかどうかだ。

芯がしっかりしてるなら道を外れそうになっても最終的には綺麗な形に落ち着くもんさ。

まあ、真っ先に怖いって感想が出て来るお前さんに関しちゃ心配は要らんだろうが」


 信頼が重い。

 悠太の人生的に、こうも評価されることは初の経験だった。


「……照れてる? 照れてる。良い、可愛い」

「はいそこ、茶々入れない。つーわけでだ……どうだい?」

「え?」

「正式に入部するかどうかだよ。まあ、まだ体験入部って形が良いならそうするけど」


 青司の問いを受け、悠太は少し俯きながら考え込む。

 どうするか。どうしたいのか。

 ちょっとアレなところはあるものの、先輩たちの人柄は決して悪くない。

 部の活動もそう。まだ一回だけだが、十分以上に楽しめた。


(あれ? これ、入っても良いと思う理由は幾つかあっても入りたくない理由はなくない?)


 他に部活をやっているわけでもなし。

 放課後、家に帰ってもだらだらしているだけ。

 先にも述べた借り物の力を扱うことに対する不安などはあるが、


(いざとなったらちゃんと叱り飛ばしてくれるだろうし……うん)


 意を決して顔を上げ、


「…………あ……あー……えっと、その……それじゃあ、お世話になっても、良いですかね?」


 少しどもりながらも入部の意思を伝える。

 すると先輩たちは一瞬間を置いてから弾けるように喜びを露にした。

 歓迎してくれるのは嬉しい。とても嬉しい。

 だが、言わねばならぬことがある。


「あの、それより一つ良いですかね?」

「何ですの?」

「こんなこと言うのは失礼かもしれないんですけど」


 いい加減、無視出来そうもない。


「――――女子の御三方は恥を知らないんですか?」

「あれ? これわたくしたち喧嘩売られてますの?」

「まだ、気持ちがこっちに戻ってないんじゃね?」

「……大丈夫。私たちはゲドゥーラじゃないよ」


 畳み掛けるようにズレたリアクションをされ、悠太は堪らず青司を見た。

 青司は、はて? と首を傾げている。


「…………何がショックって常識人だと思ってた藍川先輩が気付いていないのがショックです」

「おや? 何か知らんが流れ弾で俺の評価も下がった?」


 直接、言わずとも察して欲しい。

 そんな日本人的奥ゆかしさはどうやら通じないらしい。

 ならばもうしょうがない。悠太は腹を決める。


「その格好ですよ! 何ですかそれ!? 全方位万遍なく痴女じゃないですか!!!!」

「……あ、あー……そういうあれ」

「やけに目が合わねえなと思ったらあれか、あたしらに欲情してたのか」

「してねえよ!! いや嘘。ドキッとはしました。健全な青少年的に――じゃなくて!!!!」

「正直ですわね」


 ああもう! と髪を掻き毟る悠太に女三人がまあまあと。

 まるで癇癪を起こした子供を宥めるかのような対応を取るのだが逆効果である。


「もう! もう!!」

「……可愛い」

「ですわね。まあそれはさておき悠太さん? いやさユウユウさん?」

「だから僕をユウユウと呼ぶな。パンダみたいで嫌なんだよ!」

「お前の言いたいことも分かるけどよ。よーく考えてみろって」

「何を!?」

「分からないのか? しょうがねえなぁ」


 やれやれと肩を竦めながら小春は言う。


「――――悪の女幹部はエッチじゃなきゃダメだろ」


 続けて小夜が、


「……エロのない悪の女幹部なんてカツ丼からカツを抜くようなもの」


 そしてエリザベスが、


「見た目が下品なら名前も下品でありませんと。でなければ片手落ちですわ」


 ねー? と顔を合わせ笑う三人の瞳はえげつないほど澄み切っていた。


「まー、何だ。本気で遊びにのめり込んでたら格好なんて気にならんもんさ」

「……藍川先輩、それフォローになってないです」


 遊びだからと手を抜かないのは良い姿勢だと思う。

 それでもやはり、最低限のモラルは必要だろう。


「というか、先輩は何で平然としてられるんですか」


 遊んでいる最中ならば、まあ理解出来る。

 何度か素に戻りかけたが、何だかんだ自分も夢中だったし。

 が、遊びが終わって現実に回帰した後でこんなものを見せ付けられて何故平気で居られるのか。

 悠太の問いに青司はあっけらかんと答える。


「いやぁ……俺、向こうで死に掛けた時、とある力を手に入れるために子孫を残せなくなるって代価を払ったんだよ」

「ぇ」

「その影響で性欲も皆無でさ。女子がエロい格好しててもふーんとしか思わねえんだわ」

「……」

「まあ、あってもコイツらは好みじゃねえから反応してたか怪しいがな」


 ケラケラ笑っているが……笑えない。


「どうした? ああ、大丈夫大丈夫。気にしてねえから。

まあ親父やお袋に孫を抱かせてやれず俺の代で血が絶えるのは申し訳なく思うがな。

それでも、手前の命と仲間の命を救う代金としちゃあ破格だわ」


「あ、あの……止めてくれません? こんな馬鹿な話でさらりと重い背景をチラ見せしてくるの」


 悠太はすっかり消沈していた。


「……ごめんね。青司は、ちょっと空気読めないところあるから」

「いや、空気読めないのは御三方も大概だと思います……あの、とりあえず着替えません?」

「別に見られて恥ずかしい身体しちゃいないんだがな」

「ええ。何ならオカズにしてくれたって構いませんのよ?」

「良いから着替えろよもう!!」


 悠太の嘆願により、着替えタイムが挟まれる。

 と言っても青司が指パッチンするだけなのだが。


「さて! そんじゃ昼飯にするか! 悠太、弁当お前さんから選んで良いぞ」

「あ、どうも」


 はしゃいでいたせいで余計にお腹が減った。

 弁当も沢山あるようだし、三つぐらいは貰っても平気だろうと悠太は好みの弁当を取り出す。

 弁当は未だ温かいが……まあ、この程度は不思議でも何でもない。

 影の世界だのマジもんのロボットだのに比べれば常識の範疇だろう。


「全員、手ぇ合わせろ~」

「え、あ、はい」

「それじゃあ――いただきます」

「「「いただきます」」」

「い、いただきます!」


 かなりぶっ飛んだ連中だが、こういうところはしっかりしているらしい。


「ところで青司、悠太さんの歓迎会はどう致しますの?」

「あたし、ケーキでも買って来ようか?」

「待て待て。歓迎会はやるが、今日はダメ。ちゃんと準備したいし明日な明日」

「あ、いや。別に気を遣わなくても良いですよ」

「俺らがやりたいだけだから遠慮すんなって。ほれ、鶏天やるよ。鶏肉好きなんだろ?」


 青司が笑いながら鶏天を弁当箱の中に入れて来る。

 わ、やった! などとささやかな喜びが湧くが、


「……え? あれ? 何で俺が鶏肉好きなの分かったんです?」


 心を読まれたのか? と心臓がバクつく。

 それを察したのか青司は笑いながら答える。


「鶏がメインの弁当ばっか選んでたら気付くわ。

それに、鶏系のオカズ食べてる時だけ明らかに良い顔してるもん」


「あ、そうですか」


 羞恥を覚え俯く悠太に小さな笑いが巻き起こる。


「……好きなものは分かったけど、嫌いな食べ物は?」

「嫌いな食べ物は魚の煮付けと魚のフライ。でも焼き魚と干物はいけます」

「……なるほど。アレルギーなんかは大丈夫?」

「特にありませんね」

「和菓子と洋菓子ではどっちがお好きですの?」

「ん、んー……特にこだわりはないです」

「なるほど。ではどちらも用意すると致しましょうか」

「やたら爆発して画面は派手だけど不快なキャラが多い映画とクッソ陰鬱だけど話の出来は良い映画、どっちが良い?」

「何その二択?」


 皆で観るのなら無難なもので良いだろう。

 何故、歓迎会にゲテモノを投入しようとするのか。


「ところで場所はどうしますの? 明日は学校、完全に閉まってますけど」


 不法侵入して殺し合い(ごっこ)をする輩なのにそういうとこは気にするの?

 と思ったがここでツッコミ入れるのは野暮なので悠太はお口をミッフィーにした。


「小春ん家はどうだ?」

「あー、ダメ。明日はパパが家で研究の打ち上げするとかで使えない。青司んとこは?」

「無理無理。親父とお袋が喧嘩してて空気最悪なんだわ今」

「え、大丈夫なのかよそれ?」

「まあ、後三日ぐらいすりゃ元に戻るだろうよ。しかし小春ん家がダメならエリー……もあかんわな」

「あら、わたくしは別に構いませんわよ?」

「悠太が大丈夫じゃねえだろ」


 実に不安になる会話だった。

 この流れはよろしくないと思った悠太は小さく手を挙げ、言う。


「あの、僕の家でやりませんか? 持て成されるだけってのも居心地悪いし、うちは基本的に親居ませんので」


 明日は日曜日だが例によって父は仕事。

 今立て込んでいるらしく、あと一週間はホテル住まいだと言っていた。

 仮に帰って来たとしても空気を読んで席を外してくれるだろうし問題はない。


「あ、勿論皆さんが良ければですけど」

「良いに決まってるじゃん。それじゃ、頼むわ」

「あたし、男の家行くの初めてだわ。ちょっとドキドキする」

「エロ本探しましょうエロ本。わたくし、こういうシチュエーションに憧れてましたの」

「……コアな性癖か無難な性癖か。そこが問題」


 皆さんが良くても僕は良くなくなりました。

 そう言えるほど悠太は強い男の子ではなかった。

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