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ごっこ部(仮)  作者: カブキマン
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ジェネラルキングZ 第十話「さらば友よ、黄昏に消ゆ」 前

 西暦20XX年。的殺の彼方より飛来したゲドゥーラ帝國の侵攻により人類は滅亡の危機に瀕していた。

 絶望の雲が空を覆い、悪意の雨が降り注ぐ。

 多くの者が悲嘆に暮れる中、それでもと叫び戦い続ける者たちが居た。

 その名は、


 “朝比奈”青司。

 昼神善。

 夕凪悠太。


 人が造りし機神を駆る――――


(待って。いや待って。何? 何なのこの声!?)

(『ナレーションに御座います』)

(ナレーションとな!?)


 デデデデデ! デデーデデ、デデーデーデン!(クッソ熱いイントロ)。


(今度は何!?)

(『テーマソングに御座います』)

(テーマソング!? って言うかこれ答えてくれてるの……まさか脳内S●ri!? ホントに脳内S●riじゃん!!)


 脳内から聞こえる謎の機械音声に慄く悠太であった。


(あ……OP終わった……)


 つん、と鼻を突く薬品の匂い。白い壁白い天井。

 過剰なまでに清潔さが保たれた室内を見ればここが病室であるのは明白。

 とりあえず、シナリオに書かれてあったスタート地点からは脱していないらしい。


「う……ぐぅ……ッッ」


 誰も居ないのに顔を顰め、痛がる演技をしつつ身を起こす。

 設定上、今、夕凪悠太というキャラクターは重傷を負っているからだ。

 別に痛くも苦しくもないが素肌に全身包帯であちこち血が滲んでいるし、見た目はかなり痛々しくなっている。

 そんな見た目でありながら平気の平左で動くのはよろしくないだろう。

 場が白けるなどというレベルではない。

 半ば押し切られるように決まった体験入部とは言え、本気で遊んでいる彼らに水を差したくない。

 悠太は割りとお人好しな人間だった。


「た、戦いは……僕らは、どうなったんだ……?」


 胸を押さえ、ぜーはーと息を荒げながら独り言を漏らす。

 ところで自動的に汗が噴き出すのはロールの補助機能か何か?

 と考えたところで脳内の妖精(S●ri)さんから肯定が返って来た。

 怖いなーと思いつつ、悠太はヨロヨロと部屋を出る。


 今現在の状況を説明しよう。アニメで言うと十話。

 前話で悠太は三位一体の機神“ジェネラルキングZ(空・陸・海に対応した形態持ち)”――将軍なのか王なのかどっちだよ。

 ジェネラルキングを駆り、敵幹部を何とか退けるも機体・パイロット共にボロボロ。

 勝ちというよりはギリギリで負けなかっただけ。

 次、敵の侵攻があれば最早――……そんな状態で話が始まったのである。


(しかし……凄いな……ホント、まんまロボットアニメに出て来る未来的な研究所そのものじゃん……)


 司令室に向かう廊下をよたよたと歩きながらしみじみ思う。

 ふわっとした未来感に浸っていたが、目的の場所に到着したので気を引き締め直す。


「は、博士……状況は……?」

「! 悠太、目が覚めたのか!? いやそんなことより、何をやっとるんじゃ! お前は……」


 小汚い白衣を纏ったビール腹の老人が悠太に駆け寄る。

 彼の名は石川博士。石川研究所の所長にしてジェネラルキングの開発者である。

 一見すれば色々とだらしなさそうな爺に見えるが、これで結構危険な人物だったりする。


(設定的に僕含むパイロット全員拉致されてるんだよな……僕の場合は確か……下校中にいきなり拉致られたんだっけ)


 空戦特化モードのZ1のパイロットである青司がいきなりやって来て即腹パン&拉致。

 他二人と違って設定上、マジでただの一般人である悠太には成す術もなかった。

 そして意識が戻るや否やゲドゥーラの襲撃を受け、博士の指示により無理矢理ジェネラルキングに乗せられた。

 戦闘後、博士にこれからもジェネラルキングに乗り続けるかここで死ぬか。

 あまりにもふざけた二択を強制させられて――と言った流れで石川研究所の一員になったのだ。

 そんな経緯もあってか、どうしてこんな目にとウジウジすることも多く仲間との関係も最悪

 だが、共に死線を潜るうちに逞しくなり仲間とも心を通わせ今では立派な護国の戦士――という設定だ。


「フフフ……鬼か悪魔か石川か。そんな博士から身体を気遣われるとは思いませんでしたよ」


 石川が気を遣うほどに状況は悪い。

 それを察した悠太は、敢えてキャラから少し外れたジョークを飛ばす。

 そうでもしなければ心が折れてしまいそうだからだ。


「茶化すな! 良いか? 三人の中で君が一番マシではあるがそれでも……!」

「僕だって寝てられるならそうしたいですよ。でも、違うでしょう?」


 改めて問います。状況は?

 悠太の言葉に石川は顔を顰めながら口を開く。


「……ジェネラルキングは最低限の修理しか済んでおらぬし、お前たちもそのザマじゃ」

「次に襲撃されたら今度こそ終わり、か」


 チーム:ジェネラルはこれまでゲドゥーラ帝國の尖兵たる怨絞獣の侵略を悉く退け続けて来た。

 人類にとっては良いことだが、ゲドゥーラからすれば堪ったものではない。

 一向に進まぬ侵略に痺れを切らした地球侵略の指揮を執る二人の将軍の片割れであるビッチーノ(小春)は自ら討って出ることを決断。

 ちなみにもう一人の将軍の名前はファッキーナ(小夜)である。


 それはさておきビッチーノは大量の怨絞獣と共に日本の首都たる東京に侵攻。

 チーム:ジェネラルはそれを迎え撃つも質と量を兼ね備えた敵の前に苦戦を強いられる。

 それでも何とか雑魚を蹴散らし、ビッチーノと直接対峙。

 激闘の末、ビッチーノが駆る専用怨絞獣の片腕を奪ったところで突如、ビッチーノは撤退。

 残されたのは大破したジェネラルキングとボロボロのパイロットたち――というのが前話のあらすじである。


(しっかし改めて最低のネーミングだな……しかもこれ、何が酷いって女子三人が考えたんだよね……)


 正直、引いた。


「しかし博士、ビッチーノは何故あそこで撤退したんでしょうか?

言っちゃ何ですが、僕らはあの段で既に満身創痍。やろうと思えばあそこで……」


「その疑問の答えはこれじゃ」


 石川がコンソールを弄ると画面いっぱいに月の画像が映し出された。


「あの裂け目は……?」


 月の表面に刻まれた大きな縦の裂け目とその裂け目の中心部あたり見える丸っぽい何か。

 悠太は死ねば良いのにと思ったがロールプレイに則り石川にパスを投げた。


「拡大しよう」


 丸を中心に画像がズームされるとそこには、


「城……? いや要塞? あれは一体……」

「ビッチーノが撤退する少し前に、いきなり出現したそうじゃ」

「まさか……!?」

「……各種検証の結果、本隊である可能性が高い」

「なるほど。だから僕らは見逃されたわけか」

「じゃが、それも束の間よ」

「でしょうね。もう僕らの底は見せてしまった。直にトドメを刺しに来るでしょう」


 言葉にして、本当に心が折れそうになった。

 が、その時である。

 所員の一人が壁に拳を打ちつけ叫んだ。


「糞! あと一日……あと一日あれば……!!」

「? 一日でどうするってんです」


 一日あればジェネラルキングを完全にオーバーホール出来るかもしれないが、それが何だと言うのか。

 既に量産型の怨絞獣にさえ生半なことでは勝てなくなっている。

 仮にパイロットが全員、全快したとしても結果は瞭然。

 敗北以外の未来はあり得ない。


「……元々、ジェネラルキングZは間に合わせの機体であった」

「え」

「装甲や各種武装などもそうじゃが、それ以上に心臓。つまりは炉心に問題があった」


 宇宙から降り注ぐ放射線――DT線を動力に利用しジェネラルキングは動いている。

 だが現在ジェネラルキングに搭載されている炉心は不完全。

 ハッキリ言ってしまうと試作型なのだと言う。


「ゲドゥーラの侵攻が予想よりも早く、プロトタイプ炉心を実戦投入せざるを得なかったんじゃ」


 が、石川とて遊んでいたわけではない。

 実戦データを取りつつ完全な炉心とそれを搭載する機体の開発を進めていた。

 それがこれじゃ、と石川はモニターを切り替える。


「その名もジェネラルキングG。未完成ではあるが、あと一日あれば最低限の体裁は整えられる」


 ジェネラルキングは三人揃って真の力を発揮するが一人でも性能は極端に低下するが動かせないことはない。

 それはジェネラルキングGも同じらしい。

 だが、


「ジェネラルキングGは一人で動かしても三人揃ったジェネラルキングZよりも十倍は強い」

「じゅ……!?」

「一人でそれじゃ。三人揃えばどうなると思う?」


 単純に三十倍――とはならない。

 その可能性は無限大だ。

 が、所詮それは取らぬ狸たぬきの皮算用でしかない。

 一日あればと言うがゲドゥーラはそれよりも早く攻めて来るだろうしパイロットの問題もある。

 悠太は意識こそあるが満身創痍。残る二人に至っては明日をも知れぬ身だ。


「! 所研究所周辺に時空歪曲反応……数は十……百……二百……まだ増えるのか!?」


 皆の顔が絶望に染まる。

 博士は堪えるように目を瞑り、


「…………無念じゃ」


 ほろりと涙が頬を伝い冷たい床を叩いた。


(……つくづくリアルだな。これ、どうなってんだろ)


 彼らは人間ではない。NPCだ。

 しかしどうだ、この生々しい反応は。最新のAIですら足元にも及ばない。

 どういう原理かとても気になるが、今はロールプレイ優先だと頭を切り替え悠太は口を開く。


「ふ、フフフ……つくづく、らしくありませんね博士」


 本音を言ってしまえば、もうここで足を止めてしまいたい。

 だが、それは出来ない。

 だって自分には抱え切れないほどに大切なものがあるから。

 ならば、無理矢理にでも勇気を振り絞ろう。


「悠太?」

「まずは賭けなきゃ、博打は始まらないでしょうに」


 言って悠太はギプスで固められた右腕を思いっきり壁に叩き付けギプスを砕く。

 晒された右腕は設定上、骨折しているのでかなり痛々しい見た目だが当然、痛みはない。

 しかし、痛みに耐えるように顔を歪めながらも悠太は不敵に笑った。


「終わるにしても足掻くだけ足掻いてみましょうよ」

「まさか……!?」


 拳を二度、三度開閉させギュっと握り締め駆け出す。


「待て! 待つんじゃ悠太ァ!!」


 一直線で格納庫に向かい、ジェネラルキングに乗り込む。

 合体状態で居たのは幸いだった。

 オート操作で合体も出来るが、その分隙が生まれてしまう。

 だが最初から合体したままなら少し設定を弄るだけで良い。


『悠太! 今直ぐ降り――――』

「……ずっと疑問でした。何故、僕なんだろうって」


 右手でレバーを握ろうとするが手が震えて上手く握れない。

 怪我のせいか、あるいは恐怖のせいか。いや、両方か。

 ならばと悠太は腕の包帯を外し、それで無理矢理レバーに右手を縛り付けた。


「僕は特別じゃない。どこにでも居るただの高校生だ。そんな僕が何故、DT線に選ばれたのか。

僕以上に強い人間も賢い人間も居たはずなのに何でだろうって……ようやく、分かりました」


『こんな時に何を……ええい! 無理矢理で構わん! 悠太を操縦席から引き摺りだせ!!』


 ボタンを押してハッチを閉じる。


「僕が選ばれたのは――――今日、この日のためだったんだ」


 行くぞジェネラルキング。行くぞ相棒。

 僕一人だけじゃ不満だろうけど、最後の最後まで付き合ってもらうぞ。

 そう心の中で語り掛けると、


「これは……はは、そうか。そう言ってくれるか。ありがとう」


 急激に上昇した出力。

 意思持つエネルギーであるDT線が悠太の意気に応えてくれたのだ。


『悠太……』


「命の火が消えるその瞬間まで、僕は暴れ続けます。

その間に博士たちがGを完成させられるか。その間に青司と善が目を覚ますか」


 賭け金は己の命。

 負ければ自分の命だけでなく何もかもを失ってしまう。

 だが、賭けに勝てば未来を手に入れられる――十分だと悠太は笑う。


「だって、僕は皆を信じているから」


 これまで何度も何度も助けられた。

 その度に自分とは違うという劣等感と、やっぱり凄いという憧れを抱いてきた。

 そんな仲間たちならばきっと大丈夫。分の悪い賭けなんかじゃない。


『ッ……すまん!! じゃが、誓おう! 必ず……儂らは必ずやり遂げてみせる!!!!』

「ええ、信じています。心から」


 真紅の鎧武者の瞳に光が灯る。


「行くぞジェネラルキングZ1――――発進だ!!!!」


 カタパルトを滑り蒼天に躍り出たジェネラルキングZ。

 悠太は研究所に迫る怨絞獣を睨み付けながら腰の大太刀を引き抜く。

 雲霞の如き軍勢。恐怖がないと言えば嘘になる。

 だが、恐怖を超えるほどにその心は燃えていた。


「フン、嬲り殺しがお望みってわけか」


 怨絞獣の敵意が全て自分に注がれたことを肌で感じ取った。

 ビッチーノもファッキーナの姿も見えないのが気にかかるが……好都合だ。

 先だって自分たちを追い詰めた量産型の群れ。

 侮ることは出来ないが今しばらく将軍二人の怨絞獣を考えなくて良いのは僥倖以外の何ものでもない。


「だが、ただで殺されてやるつもりは……ないッッ!!!!」


 四方から仕掛けて来た怨絞獣をギリギリまで引き付け回避。

 味方同士で正面衝突した隙を狙って刃を振るい両断。

 爆発四散する前に怨絞獣の残骸を別の敵に蹴り飛ばす。


「これは……かつてないほどに力が溢れてる……!!」


 ともすれば、三人で乗っている時よりも。

 しかし悠太は気付いていた。

 このパワーアップが決して都合の良いものではなく地獄への片道切符であると。

 だが、それでも良い。

 我が身を燃やし尽くすほどの覚悟もなくて奇跡を起こせるものかよ


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 夕凪悠太、最後の時間が始まる……。

うんうん、それもまたゲ●ターだね。

まあそれはともかく、ごっこ部(仮)はこんな感じのノリで遊んでます。


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