何それめっちゃ楽しそう
放課後、ごっこ部一同は再度ZUDAYAを訪れていた。
目的は部活動のためにレンタルしていたものを返却するためだ。
「さて、返すものも返したし早速買い物行くか」
「……待って青司。その前にガイドブック買って行こう」
来週末の温泉旅行に向けて必要な物を買いに行こうと提案する青司に小夜が待ったをかけた。
「スマホでよろしいのではなくて?」
「こういうのも旅の――ってより旅の前の醍醐味でしょう」
「あたしは分かるぞ。ガイドブック片手にキャッキャしながら妄想膨らませるのは楽しいよな」
「そんじゃ先にガイドブック買うか」
常に楽しそうな先輩四人だが、それでも旅行は特別なのだろう。
何時もの三割増しぐらい顔が輝いている気がする。
だが、きっとそれは自分も同じなのだろうと悠太は頬を綻ばせる。
「むぅ……しかし、こういうガイドブックってどれ買えば良いんだ?」
「というか何でこんなに出てますの?」
「……白浜ってそこまで語るべきところが多いところなの?」
「時雨先輩、何気にそれは失礼です」
やいのやいの言いながら数冊のガイドブックを購入した一行はその足で駅近くのショッピングモールに向かった。
近辺では一番物が揃う場所なので、今日も今日とて凄い賑わいだ。
休日よりかはマシだが、それでも人混みが好きではない悠太は入って数分もしない内にもう帰りたくなっていた。
「さて、まずはどこから行きましょうか」
「服だろ服。折角の旅行なんだからお洒落に決めなきゃな」
「……賛成」
「女子はそれで良いだろうが……なあ?」
「ええ。僕らは服とかは買うつもりないんで」
悠太の目的はキャリーバッグと歯ブラシなどの細々とした日用品である。
小学校中学校と修学旅行では父のものを借りていたのでこれを機に自分のを持とうと思ったのだ。
青司も似たようなもので男二人が購入するものは女性陣より圧倒的に少ない。
「でしたら一旦ここで解散して、二時間後ぐらいにどこかで落ち合います?」
「じゃ、そこのファミレスにしようぜ。それなら俺と悠太も時間を潰せるだろうし」
「……了解。それじゃ、また後で」
意気揚々と去って行く女子三人を見送り、悠太たちも歩き出す。
「ふと思ったんだけどキャリーバッグとかってどこに買いに行けば良いの?」
「え……あ、言われてみれば……」
「デパートとか百貨店行けば売ってるだろうけど専門店とかあんのかな?」
「鞄だし鞄屋行けばあるんじゃないですか?」
「鞄屋とかあんのかな?」
「さあ? でも二時間もあるんですし、とりあえず色々回ってみましょうよ」
「だな」
駄弁りつつそれっぽい店を覗くこと数件。
丁度予算内に収まり、尚且つ頑丈そうなキャリーバッグを雑貨屋で発見する。
「僕はこれにしますけど藍川先輩はどうします?」
「んー……俺はそっちよりこっちの方が良いかな」
と青司が指差したのは革製のトランクケースだった。
キャスターついてるキャリーバッグの方が楽なのでは?
と一瞬思うが狂ったフィジカルをしているので問題はないかと思い直す。
だが、
「……高くないですか?」
悠太が選んだのが一万円ちょっとなのに対し、青司のそれは三万円近い値段だ。
「いやでもクラシカルな見た目がお洒落だし、これ持って旅行行くの楽しそうじゃね?」
「確かにカッコ良いですけど学生的には三万円は身構える値段ですよ」
「長く使うことを考えたら元は取れるだろ。よし、俺はこれにする!!」
「じゃあ会計済ませて後は日用品を……って思ったけどこれよく考えたら現地のコンビニでも買えますよね?」
「買えるな。女子の旅行に行くんだから準備しないと! みたいなノリに押し切られたけど……」
わざわざショッピングモールに足を運ぶほどではない。
今選んだキャリーバッグにしても別にネットで良かったのだから。
一瞬、無言になる二人だが直ぐにまあ良いかとブツを持ってレジに向かった。
問題なく購入を済ませ店を出て時計を見るが、別れてからまだ三十分も経っていない。
「どうする? もうファミレス行く?」
「いやぁ……二時間近く男二人で居座るのはちょっと……」
「だよな。それならもうちょいブラつくか」
「ですね。藍川先輩、何か欲しいものとかないんですか?」
「欲しいものねえ……世界?」
「あんたは世界欲しがるような奴を倒す側でしょうが」
「お前を倒してこの地上も頂く……!」
中身も何もない馬鹿な会話をしていると、首筋に視線を感じた。
一体誰だと周囲を見渡し――悠太は盛大に顔を引き攣らせた。
(あ、あの人……)
自分と同じ制服を纏った男子生徒がじっと自分を見ている。
それは二日前、エリザベスと話していた例の彼だ。
尾行されていた、というわけではないだろう。それならば四人の誰かが気付いていたはずだ。
偶然、ここで出会っただけなのだろうが……気まずい。とても気まずい。
「ん? 誰アイツ? 悠太の知り合い?」
「いえ……」
首を傾げる青司に何をと思ったが思い出す。
そうだよコイツ記憶消してんじゃん。
「あの……ファミレス行きましょうファミレス」
「え? いや今さっきブラつくかって言ったばっかじゃんか」
「良いから行きましょう」
視線を振りきるように歩き出すと青司も渋々着いて来てくれた。
例の彼も着いて来て――はいない。悠太はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、俺ここのポイントカード持ってんだけど会計の時に使って良いかな?」
「ええまあ、御自由に」
「サンキュ。注文何にする? 流石にドリンクバーだけで居座るのはアレだと思うんだが」
「じゃあ数人で摘まめる大盛りポテトでも頼みます?」
夕食をここで済ませるのなら三人と合流してからの方が良いだろう。
その間は軽いポテトあたりでお茶を濁せばどうだと提案するとじゃあそうするかと青司は店員を呼んで注文を告げた。
「悠太ってポテトには何かけるタイプ?」
「普通に塩ですね。シンプル且つ一番美味しいと思います。まあ、ケチャップやらかける人も居るみたいですけど」
「ああそれはエリーだな。アイツはケチャップ派なんだ」
「へえ……いや合わないってことはないですけど僕はあんまピンと来ませんね。ちなみに藍川先輩は?」
「俺? 俺はBBQソースよ」
「でもポテトにBBQソースってついてきませんよね?」
「うん。だからファストフードとかで頼む時はナゲットも一緒に頼んだりする」
「あー……ナゲットにはついてきますからねえ」
「まあでも今回は卓に備え付けのがあるから頼まんけどな」
そうして始まったポテト議論は存外、白熱した。
ポテトは皮あり派か皮なし派か。大学芋もアレ、フライドポテトじゃねえの?
など芋だけで話が広がる広がる。一段落した時にはファミレスに入ってから三十分も経っていた。
無駄な時間を過ごしてんなーと二人は笑い合う。
「ところで旅行までの間に一回ぐらいごっこ遊び出来そうですけど、どうします?」
「ん? んー、多分やる。やるが先ずは題材決めだな」
「藍川先輩、何かやりたいのありますか?」
「とりあえず任侠ものをやりたいなって」
「……めっちゃ影響されてるじゃないですか」
「そういう目的で借りたんだし良いだろ別に。そういう悠太はどうなんだよ?」
「ありますよ」
「お、即答か。良いねえ、お前さんもハマって来てんじゃん」
「まあ否定はしませんよ」
まだ一回しかやっていないが、その魅力は十分伝わった。
自分の好きなジャンルのみならず他のもやってみたいと思う気持ちは強い。
「で、そんな悠太くんのプランはどんなのよ?」
「……日常系なんですけど」
「日常系? いやいや、悪いけどそれ楽しいか?」
「非現実的な要素は何一つありませんけど結構自信あるんですよね」
「おいおい。そんなハードルあげられると俺の目も厳しくなるぜ? だがその意気や良し。言ってみ」
「僕が提案するプランはずばり――――“なつやすみ”です」
「夏休みぃ?」
まあこれだけではピンと来ないのは当然だ。
「まだ暑くなる前の朝六時ぐらいに起きて寝ぼけ眼を擦りながら朝顔に水をやる。
それが終わったら迎えに来た友達と一緒にラジオ体操に向かってカードに判子を押してもらう。
急いで家に戻り朝食を済ませたら、さあいよいよ遊びの時間。今日は何をしようか?
海で泳ごうか。川で泳ごうか。いやいや、山で秘密基地作りも良い。
待って、虫取りも楽しいんじゃないか? 水筒とお菓子を持って街を探検するのも悪くない」
青司がハッとした顔をする。気付いたらしい。
だが、まだ話は終わっていない。悠太はニヤリと笑って続きを語る。
「お昼まで全力で遊んで一旦、家に戻ってお昼ごはん。
今日も素麺かよなんてぶーたれ、扇風機の風を浴びつつ素麺をすする。
はぁ、おなかいっぱいだ。これでエネルギーは補給された、午後も頑張れるぞ。
でもまだ時間があるし、少し縁側でお昼寝するのも悪くないかな?」
縁側でお腹を出して眠っていると友達が迎えに来る。
午後も全力で遊んで夕方。
「クタクタになって家に帰ると、今日は冷しゃぶ!」
「れ、冷しゃぶ……!!」
「やった肉だ! と何杯もご飯をおかわりして……もうお腹いっぱい」
幸せ気分で寝転がっていると母親が言うのだ。
宿題をしなさいと。
気分を害されつつもやらねばおっかないことになってしまう。
渋々、宿題をやって一段落ついたところでお風呂――――
「とはならない。友達が花火をしようとやって来た!!」
「あ、あ、あ」
「夜になっても楽しい時間は終わらない。サイダー片手に花火をして皆で大はしゃぎ」
それが終わったらお風呂。
熱い熱いお風呂の中で今日一日の疲れを癒し部屋に戻る。
「電気を豆球にして蚊帳の中にある布団に潜り込み、今日一日を振り返る。
ああ、楽しかったな。そうして浸りながら気付けば眠ってて、そしてまた朝がやって来る」
そこで一息入れて、〆に入る。
「藍川先輩。今僕が語ったような夏休みの経験はおありで?」
「な、ない……ないです……」
「ですよね。僕もそうです」
現代っ子でそのような経験がある方が少数派だろう。
「なのに感じるノスタルジー。不思議ですよね? 気になりますよね? ならやってみましょうよ。
“なつやすみ”という概念に対する幻想を皆で実際に味わってみませんか?」
「みるー!!」
即答だった。
やはりと言うべきか、青司のような人種にはドストライクだったらしい。
ごっこ遊びなんてものに本気を出せるのだから、これに乗らないわけがない。
「あー、やばい。やばいやばい。妄想だけで俺もう何か泣きそうになってる。
ちょ、悠太どしたん? マジでどしたん? 何なんこの覚醒? 主人公?」
「いやぁ……昨日、夜中に延々と長閑な田舎の風景が流れる動画見てたらふと思いつきまして」
「お前さんが何でそんな動画見てたのかすげー気になる。大丈夫? 心に闇抱えてない?」
「抱えてませんよ、失敬な」
何となく癒しが欲しい気分だったから癒し 動画で検索しただけである。
そして見事に癒された。何でもない田園風景を見て涙を流したのは初めての経験だった。
「だが悠太よ」
「ええ、言いたいことは分かります。期間でしょ?」
旅行までの間の数日でやるには物足りなさ過ぎる。
そういう指摘が来ることは織り込み済みだ。
「あくまでテストプレイみたいな感じで本番は……」
「! そうか、実際に夏休みにやってみようってんだな!?」
「その通りです。準備期間は約三ヵ月。それだけあれば最高の夏休みを用意出来ると思いませんか?」
とは言えそれにかかりきりというのでは面白くない。
勿論、並行して別のごっこ遊びもする。
並行して別の遊びをしつつも、ゆっくりじっくり準備を進めていく。
「さしあたって小学生用の計算ドリルとか漢字ドリルとかをリサーチしたいですよね」
「ああ! 宿題なんて糞つまらねえが、その糞つまらなさも夏休みを引き立てるスパイスになるからな!!」
「まあ自由研究とか工作は普通に楽しめそうですけど」
「あー……自由研究! 自作の昆虫図鑑とか作りてぇ……!!」
青司の頭はもうすっかり夏色に染まってしまったようだ。
「しかし、俺らだけがやりたいってんじゃ意味がない。悠太、アイツらが来るまでにもうちょいプレゼンを煮詰めようぜ」
「了解です」
ポテトを摘まみつつ議論を交わすこと一時間半。
白熱した議論が一旦の落ち着きを見たところで、ようやっと女性陣が合流する。
青司は三人が席に着くや、早速話を切り出す。
ずばり、次のごっこ遊びは何が良いかと。
「異種族――具体的には吸血鬼と人間のラブストーリーは如何でしょう?」
「はぁー? ジャパニーズヤクザの抗争ごっこに決まってんだろ」
「……サイバーパンク」
小夜以外は全員、映画に影響されていた。
「やれやれ……エリーと小春はまんま映画の影響受けてやがる。ミーハーな奴らだ」
おめーもだろと思ったが悠太は空気を読んで何も言わなかった。
「言ってくれますわね。でしたら青司は、わたくしたちの熱を超えるプランを提示出来ますの?」
「俺には無理かもしれねえ。だがエリー、うちには期待のホープが居ることを忘れるなよ」
女性陣の視線が悠太に注がれる。
青司はフッと笑い、こう告げた。
「俺も別の案を考えてたんだが……一発でやられちまったよ。正に新境地ってやつさ」
「おいおいおい。そんなハードル上げられるとあたしらの目も厳しくなっちまうぞ?」
「……可愛い後輩だけどそれはそれ、これはこれ。甘くはないよ」
「ですわね。辛口評価になってしまうでしょうが、そこは承知していてくださいな」
青司と似たようなこと言ってる……何かもう、この会話自体がフラグだと思った。
「悠太、言ってやんな」
「了解です。僕が提示するプランは日常系。より具体的に言うなら」
最初にした説明に先ほどの議論で煮詰めた部分も加えてプレゼンを行う。
最初は何だよそれという顔をしていた三人はドンドン顔色を変えていき、
「「「何それめっちゃ楽しそう!!」」」
こうして次の活動は決定した。




