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ごっこ部(仮)  作者: カブキマン
2/23

ごっこ部

「うー……」


 放課後、悠太は倦怠感を隠すことなく机に突っ伏していた。


 寝起きでボーっとして角に足の小指をぶつけたから?

 毎朝飲んでいる牛乳が切れていたから?

 登校中、電柱にぶつかって額にタンコブが出来たから?

 課題を忘れてミセスマリンダにこれでもかと説教を喰らったから?


 否、どれも否。

 原因は昨夜のことだ。

 今朝から続いた小さな不幸の連鎖など昨夜の出来事に比べれば何でもない。


『『――――君、ごっこ部に入らない?』』


 本気で殺し合っていたはずの二人が。

 まるで友人のように仲良くそんな誘いをかけて来た。

 意味が分からない。完全にキャパオーバーだ。

 何を問えば良いかも分からずただただ困惑していた。


『うっお! 正にパンピーの反応。あたし的にかなりポイントたけーぞこれ』

『……同感。正しく逸材』

『それな』


 そんな自分を見て何故か機嫌を良くする二人。

 何度目か分からないが、そうとしか言いようがない――意味が分からない。


『……小春。彼には時間が必要だと思う』

『ん? ああ……そうだな。そうだよな。うん。じゃ、話の続きは明日でいっか』

『……うん。あ、どうする? 続ける?』

『今日はもうお開きでも良いだろ。空気的にな。とりあえず、アイツらにもメールしとこうぜ』


 また明日。

 二人は肩を叩いて和気藹々と去って行った。

 残されたのは訳も分からず佇み続けることしか出来ない悠太だけ。


(いつまでも鍵を返しに来ない僕を心配しておじさんが見に来てくれなきゃ一晩、あのままだったかも)


 そう考えると守衛のおじさんには感謝の言葉しかない。

 が、それは一先ず置いといて結局あれは何だったのか。

 冷静になって考えるとおかしいことばかりだ。

 あの二人は何者なのか。

 超人的な動きをしていたこともそうだが、戦闘によって生じた音が外に漏れていなかったことも気になる。


「うぅ」


 モヤモヤする。とてもモヤモヤする。

 関わるべきではないと思うが、それでも気になる。

 無視出来ないレベルの非日常の匂いに悠太は完全に囚われてしまっていた。


「よっ!!」


 パン! と肩を叩かれ苛立たしげに顔を上げると、笑顔の男子生徒が目に飛び込んで来た。

 彼は新堂。悠太が高校で出来た友達だ。


「元気出せよユウユウ! ミセスマリンダの説教がキツかったのは分かるけどさあ」

「おいヤメロ。僕をユウユウと呼ぶな」


 夕凪悠太でユウユウ。

 小さい頃からちょいちょい呼ばれて来たあだ名だが悠太はこのあだ名が嫌いだった。

 だって何かパンダの名前みたいだから。


「それと、別にミセスマリンダのお説教は気にしてないよ」


 正確には気にする余裕がないと言うべきか。

 脳のキャパシティは全て昨夜の一件に持っていかれてしまった。


「え? そうなん? じゃあ……ん?」


 突然、教室が静まり返った。

 放課後の弛緩した賑やかな空気が突如消え失せたことに戸惑う悠太。

 何だ何だと身体を起こしてみれば、


(うげ……)


 小夜だ。

 違う学年の教室に平然と踏み入り周囲の目などガン無視で視線を彷徨わせている。

 そして――目が合った。

 ヒクつく悠太とは対照的に小夜は少しだけ嬉しそうな顔になり、つかつかと歩み寄る。


「……見つけた」


 小夜は悠太の手を取り立ち上がらせた。

 驚くほど自然で、抗うという気持ちさえ沸かなかった事実に悠太は恐怖を覚える。

 そんな悠太の心情を悟ったのか、小夜が微笑む。


「……大丈夫。怖くないよ」


 行こう、そう言って小夜は悠太と手を繋ぎ歩き出す。

 瞬間、教室の視線が一斉に悠太へと突き刺さった。


(う、うぉぅ)


 好奇の視線や困惑の視線は良い。いや良くはないがスルー出来る。

 が、男子から注がれる妬み嫉みの目は精神衛生上、よろしくない。

 針のように刺さる視線から逃れるように顔を伏せる悠太だが、小夜はまるで気にしない。


「あ、あの……僕に何の用なんですか……?」


 口止め? いやさ口封じ?

 そんな考えが頭をよぎり順調に恐怖ゲージが蓄積していく。


「……違う。昨日言ったでしょ? また明日って」

「い、言ってましたけど」

「……詳しいことは部室で。行こ」


 渡り廊下を抜けて部室棟へ。

 抵抗は無意味と諦めた悠太は半ば現実逃避気味に思考する。

 ごっこ部。ごっこ部と言っていた。

 具体的にどんな部活かは分からないが下に行かず三階に居るところを見るに文化系?

 と、そこまで考えて気付く。


(…………ごっこ部なんて部活の名前、聞いたこともないし部室もなかったよな?)


 入学してから三日目のことだったか。

 オリエンテーションで行われた部活紹介の後、友人らと共に部活棟を練り歩いた。

 その際、隅から隅まで見て回ったがごっこ部などというプレートの部室はどこにもなかった。

 それに文化部が軒を連ねる三階はもう満杯だったはずだ。

 どういうことかと首を傾げていると、小夜が足を止めた。


(壁?)


 目の前にあるのは行き止まりの壁だ。

 が、小夜が壁に手を触れた瞬間――壁が裂け中へと続く入り口が現れた。

 小夜は大口を開けて驚く悠太を引っ張り中に入る。

 中は何の変哲もない普通の部室だったが、それが逆に怖い。


「おせーぞ小夜。どんだけかかってんだ」

「……私、掃除当番だったのよ」


 テーブルを囲む三人の生徒を見て悠太は更なる衝撃を受けた。

 昨夜遭遇した小春は良い。

 だが残る二人。


「おー、この子がそうか。いやうん。確かに良い面構えじゃんよ」


 一人は色素の薄い髪を後ろで撫で付けた男子生徒。

 名は藍川青司。小夜や小春と同様、彼も有名人だ。

 “神隠し”に遭い一年ダブってしまったが明朗快活な性格と、イケメンと言うよりは男前な容姿で女子の人気が非常に高い。


「ですわね。この、面白みの欠片もない普通のリアクションに良くはないけど悪くもないモブ顔……堪りませんわ!!」


 一人はウェーブのかかった金髪を腰まで伸ばした女生徒。

 さらりとド失礼をかました彼女の名はエリザベス・I・ヴァージン。

 イギリス出身で、二年連続ミスコン優勝者の肩書きを持つ言い方は古いが学園のマドンナ。

 知名度も顔面偏差値も、悠太とは比べ物にならないほど高いこの四人が何故、一所に集まっているのか。

 同じ部活だというのは分かるが、そうなった経緯がまるで想像出来ない。


「……ッッ……」

「ん? 大丈夫か? 安心しろ。俺らは別にお前さんを取って喰おうってわけじゃねえからよ」


 青司の気遣いが届くことはなく、悠太は堪らず叫んだ。


「あ、あんたらは一体何なんだよ!!?」


 その言葉に反応したのは女子三人だった。


「……疑問を的確に解決したいという意味でなら最適な問いではない」

「でも、切羽詰ってる感って意味じゃ良い味出てるわ」

「こういうので良いんですわこういうので」


 うんうんと頷く三人に青司は溜め息交じりに言う。


「お前らちょっと黙ってろ。俺が司会進行すっから」


 座れよと青司は促すが悠太は素直に頷けない。

 警戒心ばりばりの悠太に苦笑しつつも、青司は語り始める。


「そうだな。うん、まずはお前の質問に答えようか。俺らは一体何なのか。

藍川青司、三年生。ごっこ部の部長――……なんてことを聞きたいわけじゃねえよな。

ああ大丈夫。分かってる。信じられねえようなことが見え隠れしてる俺らは何者なんだって言いたいんだよな」


 そうではない。

 さっきのあれは単純に感情が昂ぶって漏れ出てしまった言葉だ。

 青司はそれを理解した上で、少しずつ悠太が事態を呑み込めるようこのような話の運び方をしてくれているのだろう。

 それに気付いた悠太も、少しだけ落ち着きを取り戻すが……。


「よし、じゃあ二年坊から順に行こうか」

「うぃー。風花小春――人型古代兵器だ」

「……時雨小夜――邪神の落とし子だよ」

「エリザベス・I・ヴァージン――いわゆるヴァンパイアクイーンですわ」

「で、俺こと藍川青司は異世界帰りの元勇者ってやつだ」


 よろしく! と異口同音に告げた先輩方に悠太は、


「僕を舐めてんのか?」


 混乱と恐怖はどこへやら。

 死んだ目で自分たちを睨み付ける悠太に青司は苦笑を返す。


「ま、いきなりそう言われても信じられんわな。百聞は何とやら。おい小春」

「あいよ」


 軽い調子で答えた小春が右手を上げる。

 何だと思わず目で追い、


「!?」


 ギョッとする。

 肘から先の皮膚が弾けるように有機と無機の中間に位置するような中身が表出。

 肉がうねうねとグロテスクに蠢きガトリングガンを形作ったのだ。


「ガトリングに古代兵器感はないけど、まあ分かり易さ優先ってことで」


 言って、小春は銃口をエリザベスに向け――弾丸をばら撒いた。

 瞬く間にエリザベスがエリザベス“だったもの”に変わる。

 あまりの光景に悲鳴を上げそうになる悠太だが、


「……大丈夫だよ」


 何時の間にか背後に回り込んでいた小夜に出端を挫かれる。

 大丈夫なわけあるか!

 そう叫びかける悠太だが、結果から言って本当に大丈夫だった。


「ひっ」


 飛散した血液や肉片が赤黒い靄となって寄り集まり、人の形を成していく。

 そして靄が弾け飛び中からは無傷のエリザベスが姿を現した。


「ふふ、言ったでしょう? ヴァンパイアだと」

「とまあ、肩書きはともかく普通じゃねえってことは理解してくれたよな」


 壊れたブリキの玩具のように頷くことしか出来なかった。


「あんがとよ。これで幾らか遭遇した異常についても納得出来たろ?

細かい理屈は分からんでも何か不思議な力で色々してたんだろうってさ。

じゃあ次はいよいよ、部活紹介。ごっこ部について説明させてもらうぜ」


 とそこで青司が苦笑を滲ませる。


「つっても読んで字の如くなんだがな」


 ヒーローになりきって遊ぶヒーローごっこ。

 お侍さんになりきって遊ぶチャンバラごっこ。

 お医者さんになりきって遊ぶお医者さんごっこ。

 それらの延長線上にあるもので、本質は変わらないと青司は言う。


「え、じゃあつまり何ですか? 昨夜のあれも……」

「そういうこった。自分らでキャッキャ言いながら煮詰めた設定通りの役を演じて遊んでたんだよ」


 では何か?

 自分はハイクオリティが過ぎる茶番劇を目撃しただけ?

 それに悩まされて一日中、モヤモヤしてたの?

 信じたくはない。信じたくはないが、納得せざるを得ない。

 何てことだ……眩暈を覚える悠太であった。


「……女子高生が日本刀持って夜の校舎で殺し合うとかカッコ良いでしょ?」

「長くなるから細かい設定は省くが、あたしらが昨日やってたのはバトロワ系だ」

「ちなみにわたくしと青司は既に脱落済みですわ」

「ホントは観戦に行くつもりだったんだけどなぁ。今日提出の課題があったんで昨日は不参加だったんだ」


 分かる。女子高生が夜の校舎で日本刀を手にチャンバラを繰り広げるのはとても絵になる。

 なりはするが、そうじゃない。そういうことではない。

 彼らの自己申告通りならば、だ。

 彼らはパンピーには想像もつかないような大きな力を持っている。

 それをごっこ遊びなんてもののためにフル活用しているという事実に悠太は心底引いていた。


「お、馬鹿なの? って顔してるな。まあ言いたいことは分かるよ」


 うんうんと頷きつつも、青司は言った。

 そんなにおかしなことか? と。そしてこう続ける。


「――――本気でやるから遊びは楽しいのさ」


 ニッ、と稚気に溢れながらも不敵極まる笑顔で青司は断言した。


「…………まあ、個人の趣向に文句はつけませんよ」


 それより、気になることがある。


「何で僕をごっこ部に? 言っちゃ何ですが……」

「……分かってる。君はビックリするぐらいパンピー」

「特別な力なんて欠片もありゃしないことは見りゃ分かるよ。お前は立派なモブだ」

「漫画で言えば3ページぐらい連続で背景に居ても気付かれないようなレベルですわ」

「はい君らはちょっと黙ってようね」


 青司は疲れたように溜め息をこぼし、悠太の目を真っ直ぐ見つめる。


「お前さんの言いたいことも分かるぜ?

ああ、確かに俺らは大概のことは出来る。例えばそう、頭数。

俺にゃ無理だが他の三人はそれぞれのやり方で人間と遜色ないNPCを作ることだって出来る」


 でも、違うのだと青司は言う。


「違う?」


「何でも出来るからって何も必要としてないわけじゃねえんだよ。

邪神の落とし子だろうが、古代の超文明が生み出した人型兵器だろうが、吸血鬼の女王だろうが、勇者だろうが。

限りなく零に近付けることは出来ても、どうしたって欠けた部分は出て来る。

それは手前じゃ埋められない。埋めちゃいけねえもんなんだ。

一人で完結するってことは他者との繋がりを否定するってことだからな」


 繋がり紡ぎ合ってこその世界。

 そう語る青司の言葉には不思議な重さが宿っていた。


「俺含めて全員世界の敵(ラスボス)になれそうな奴らだけどよ。

そんなことをするつもりは微塵もねえ。ああ、俺たちは有り触れた日常が好きだからな。

だが、俺らが真っ当な輩かって問われれば口が裂けてもそうだとは言えねえ。

どいつもこいつも、日常の中に紛れさせるには危険過ぎる欠落を孕んでる」


 卑下しているわけではなく。

 ただ事実を述べているだけのように聞こえるが、


「……いや、女子の先輩方はともかくとして藍川先輩は違うのでは?」


 他三人の肩書きは、なるほど確かにラスボスを務められそうだ。

 しかし青司は勇者。こうして会話をしていても一番良識があって普通に尊敬出来そうな先輩という印象を受ける。

 そんな彼が危うい欠落を孕んでいるとは、とても信じられない。

 悠太の言葉に青司はありがとよ、と礼を返しつつも否定の言葉を返す。


「俺は戦ったよ。世のため人のためにな。

ああ、そりゃ嘘じゃねえ。嘘じゃねえが……俺の戦いの何もかもが正しかったわけでもねえ。

なあオイ、世界を救うためだからって戦いとは無縁の女子供を戦場に駆り立てるのは正しいことか?

熱狂に駆られて何の疑いもなく自ら死にに行くような真似をさせるのが正しいって言えるのか?

大きな戦いに勝つために人命を数で捉え如何に効率良く磨り潰すかを考えるのは正しいことのか?」


 大局的に見れば、その行動はどれも正しかった。

 だが人として正しかったのかと言われればそれは違うと青司は言う。


「大義のための非情な決断。出来ないことは許されても良いさ。

甘いって? 結構じゃねえか。その甘さがあるから何時かの平和に繋がるんだろうが。

そこを否定しちまったら、人は平和を愛する心を持てなくなっちまう。

だからこそ非情な決断を下せちまうことは許されちゃあいけねえんだ。

それが優しい未来を手に入れるためのものであれば尚更、な」


 罰を受けるかどうかという話じゃない。

 青司が語っているのは心の在り様の問題だ。


「俺は出来ちまった。やれちまった。誰かのせいでとか、状況に流されてじゃない。

一度、外してしまえば二度とは戻せない箍を自分の意思で外しちまったんだ。

その時点で俺は、いつか平和を壊すかもしれない存在に成り果てたのさ」


 名君と呼ばれた者が暴君に成り果てた例は歴史を見渡せばそう珍しくはない。

 その者らは大義を成すために箍を外してしまったがゆえ、暴君に成り果てたのだ。

 大義を成すとは、未来の危険を孕むことでもあるのだ。

 無論、名君のまま生涯を終えた者も多いがその者らも火種は抱えていたはずだ。


「……正気にては大業成らず」


 青司の言葉を聞き、何時か読んだ本の一節が頭をよぎった。


「お、葉隠か渋いねえ。ま、そういうわけでな。

俺も含めてここに居るのは潜在的な危険を孕んだ爆弾なのさ。

今はよ。人に迷惑かけない範囲で遊んでるぜ? だがこの先もずっととは限らない。

NPCじゃ物足りなくなってさ。誰も彼もをプレイヤーにするような世界を巻き込む傍迷惑な遊びに発展する可能性も零じゃあねえ。

だからこそ、必要なんだ。普通の感性を、俺たちが愛する日常を感じられるような奴がさ」


 言いたいことは理解した。

 しかし、


「……でも、何で僕を?」


 四人はカースト上位の人間だ。

 いや人間でないのが大半だがそれは置いといて。

 ともかく、この四人ならば人なぞ幾らでも集められるだろう。

 些かコミュニケーションに問題がありそうな小夜はさておき、他三人は問題ないはずだ。

 特に青司。ダブりという肩身の狭い立場でありながら男女問わず信を集めている。

 彼が一声かければ幾らでも人は集まるはずだ。


「それはな。お前さんが条件を満たしてるからだ」

「条件? 条件って……普通の有り触れた人間ってことですよね? それなら……」

「まま。最後まで聞けって。確かにお前さんの言う通りだが、もうちょい細かいんだ」

「はあ」

「どこにでも居る普通の、それでいて確かな“勇気”を持つ人間をこそ俺たちは求めてるんだ」


 勇気。勇気。

 自分がそれを持っているかはともかくとしてだ。

 確かな勇気を持つ人間は普通なのだろうか?

 胸中で生まれた疑問に答えてくれたのは未だ背後でぺタっとくっついている小夜だった。


「……両立しないと思う?」

「え、ええ……だって勇気がある人間って十分特別だと思いますし……」

「……特別って何だと思う?」


 問いに問いを重ねられても困る。

 そして質問の内容も困る。

 特別、改めて問われると言葉に詰まってしまう。

 黙りこむ悠太に小夜は言う。


「……特別とは限られた者にしか手に出来ないということ。

私たちが求めている勇気は違う。決して特別ではない。うん、確かにそれを手にするのはとても難しいよ。

でも、万人に許された可能性。その権利を放棄したりして道が閉ざされることはある。

でも最初は皆、等しくその可能性を与えられている。だから、特別じゃない。でも、とても尊いもの」


 ボソボソと小さな声で。

 だがビックリするほど饒舌に。

 そして確かな熱が込められた言葉だった。


「……私たちは遊ぶ際、人払いの結界を張る」

「あぁ……やっぱそうなんですね」


 昨夜、守衛のおじさんが気付かなかったのはそんな感じの理由だろうと。

 四人の特異性を知った時点であたりはつけていた。


「……でも、通り抜けられないわけではない。

私たちに伍する力を持つ特別な存在なら素通り出来る。けど、それだけじゃない。

私たちの求める光を持っているのなら普通の人間にも通り抜けることは出来る」


 どこにでも居る普通の、それでいて確かな勇気を持つ人間。

 その条件を満たしたからこそ悠太は昨夜、校内に入れたのだ。


「……自覚するのは難しいと思う」


 小夜は抱き締めるように腕を回し、悠太の胸に両手を重ね合わせる。


「……でも、その素敵な輝きはちゃんと“ココ”にあるよ。自信、持って」


 顔は見えないが、微笑んでいるような気がした。


「ま、そういうわけだ。どうだい悠太。俺たちと一緒に遊んじゃあくれねえか?」


 弾けるような笑顔と共に手が差し伸べられた。

 嬉しいような擽ったいような。

 不思議な感覚に陥る。


「今ならこんな武器も特典としてついてくるぜ!!」


 ニュ、と小春の手の平から金属製のグリップが出現する。

 何だ? と首を傾げているとグリップの先端から光の刃が!


「男ってこういうの好きなんだろ? いやまあ、あたしも好きだけどな!!」

「それならわたくしは……この銀の剣を。大抵の不死者ならぶち殺せる優れものですわ!!」

「……私は何が良いかな」

「あの、そういうのは困りますんで……はい」


 正直言って、まだ少し――いや結構、怖がっているところもある。

 だが同時に好奇心と、自分を認めてくれた彼らの期待に応えてあげたいという気持ちもある。


「……あの、まずは体験入部ってことで良いですかね?」


 恐る恐る告げた言葉に返されたのは、


「勿論だ! 歓迎するぜ悠太!!」


 四者四様の笑顔と、熱い抱擁だった。

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