恥知らずの勇者様
駅前にある大型のZUDAYAにやって来たところで青司がパン、と手を叩いた。
「はい注目。何時も通りだが、今日は新入りも居るからな。改めて説明するぞ」
それは良いが入り口付近でやるのは止めて欲しい。
お客さんの邪魔にはならないように場所を選んではいるようだが、すっごく見られているから。
「媒体は問わん。これ! ってもんなら何でも良い。
ただ単品で完結しないものの場合は……漫画とかの場合は3巻までとする。
アニメやドラマは一本ごとの収録数にもよるが6話ぐらいまでを目安にしてくれ。
あとゲームもOKだが最低限ストーリーがあるもんで一本までな」
これ、別にここで説明する必要はないのでは?
今川焼きの名称について討論するぐらいなら道中で話してくれても良かったのでは?
いや、あれはあれで楽しかったのだが――疑問に思ったが悠太は空気を読んで何も言わなかった。
「制限時間は一時間。一時間後にレジ付近に集合な。
来ない場合は電話入れるから気付けるようにバイブにしとけ」
言われて悠太はスマホを取り出しマナー(バイブ)に切り替えた。
「したな? よし――――散!!!」
「早ッ!?」
青司が散開を告げるや全員があちこちに散って行った。
残された悠太はどうしたものかと店内を見渡す。
「うーん」
一階は書籍とゲームを販売している区画だ。
「本もゲームもそこそこに嗜みはするけど」
どちらもどっぷり嵌っているというほどではない。
お祭りロボットゲーに一家言あるぐらいか。
「あれは構造上、ストーリーラインに複数の原作が絡んでいるから話作りの上では役立つかな?」
ああでも原作知ってないと分からない部分もあるかなどと呟きながらうろついていると、
(あ、時雨先輩)
一般文芸コーナーで小夜を発見する。
丁度良いし、少し話を聞いてみようと悠太は小夜に駆け寄った。
「……どうしたの?」
「いや、初めてで何を選べば良いか分からないんで参考がてら話を聞いてみようかなって」
「……そこまで難しく考える必要はないよ?」
何ならパッと目についたものでも良い。
面白いかつまらないかは重要ではないのだ。
仮につまらなくても、何故つまらないかを議論すれば実りに繋がると小夜は言う。
「なるほど……ちなみに小夜さんはどういう感じで選んでるんです?」
「……一概にこうとは言えないけど、そうだね。怨念を参考にしたりするかな」
「怨念!?」
「……うん。パソコンでデータを送り、それを印刷して本に。
そうやっていても作者の怨念とかの強いネガティブな情念が割りと透けて見えたりするんだよね」
見てみる? と小夜が問う。
悠太は少し迷ったが、珍しい経験だしと頷いた。
「……ん、目を瞑って」
言われた通り目を瞑る。
すると、ひたっと冷たい感触が目蓋を撫でた。恐らく小夜の手だ。
「……開けて良いよ」
「!?」
少しドキドキしながら目を開け、驚愕した。
殆どの本は普通の本である。だが一部がおかしいことになっている。
ドス黒かったり血のように真っ赤な靄が一部の本から噴出しているのだ。
「……これなんか個人的にとても興味をそそられる」
近場にあった靄が噴き出す書籍を小夜が手に取る。
表紙にはエプロン姿の愛想の良い中年女性が笑っているのだが……。
「……レシピ本なのに、何で負念が出てるんだろうね」
「……ええ、ホント何ででしょうね」
著者であろう中年女性に一体何があったのか。
とても好奇心をそそられる。
「……でも、これは部活動には関係ないから置いておこうか」
「まあ、家庭料理のレシピ覚えてもしょうがないですしね」
料理人を主役にするか、料理を主題に置いたシナリオなら別だろうが、多分そういうのはやらない。
「……あ、見て。あれも面白そう」
「? うわ、あれ絵本なんですけど」
小夜が指差した一角は絵本コーナーだった。
近寄り、手に取る。
表紙にはとても心が癒される優しいタッチの絵が描かれていて、タイトルも普通。
それだけに怖い。この絵本の作者が一体どんな闇を抱えているのか。
「……全部が全部がそうってわけじゃないけどね。
この手の本の中身は面白いかどうかはともかく、目を引くものが多いんだよ」
「へ、へえ……でも、ちょっと怖いので僕はこういう探し方は止めときます」
「……ん」
小夜が指を鳴らすと視界は元に戻った。
「どうもです」
「……どういたしまして。どうせなら他の三人にも聞いてみたら?」
「ええ、そうします」
小夜に礼を告げ、一階フロアを後にする。
階段を昇り二階に向かうが二階は音楽フロア。
ここに用はないなと三階に続く階段を半ばまで昇ったところで、ふと下を見てエリザベスを発見する。
私用かな? と思いつつも一応話を聞こうと階段を下りてエリザベスの下へ。
「あら悠太さん。どうなさったの?」
「いやぁ……何を選べば良いものか迷ってて……それで参考に先輩方の話を聞こうかなって」
「まあ」
「てっちゃん先輩は何を? もう選び終わったから私用を済ませてるんですか?」
「いいえ、これも活動の一環ですわ」
「……音楽が?」
そう言うとエリザベスはふふ、と笑った。
「頭が硬いですわよ。音楽……歌には歌詞が、物語があるではありませんか」
「あ」
「胸弾む甘い恋の歌、切ない別れ歌――これはこれで面白い資料になりますのよ」
「なるほど」
「で、選び方でしたっけ? わたくしなら……どうぞ、こちらへ」
エリザベスに手を引かれ連れて来られたのはフロアの隅。
レンタルではなく一枚50円とかで売られているワゴンコーナーだった。
「……ここ、ですか?」
「ええ。存外、こういうところに良し悪しは別として面白い物が潜んでいますの」
ふんす! と鼻を鳴らし胸を鳴るエリザベス。
大変可愛らしいが、悠太の目は疑わしげだ。
しかしエリザベスは気にせず話を続ける。
「大ヒットして大量にCDが出回った系は除外して選ぶのがコツですわ」
「はあ」
エリザベスが見もせず無造作に一枚のCDを手に取るが……。
「「……」」
沈黙。悠太も、エリザベスも言葉もなくCDを見つめていた。
どこかの森の写真だろうか? ジャケットは普通だ。
しかし、タイトルが普通ではなかった――――“殺す”シンプルにそれだけが印字されている。
「…………あの、これ」
殺すの文字がおどろおどろしいタッチで描かれていたのなら分かる。
ああ、そういう受け取り方をして欲しいんだなと思えるから。
だがこれは普通の書体で一言、殺す。飾り気のない文字が逆に恐怖をそそる。
「ええ……一枚目はこれで決まりですわね」
「マジで!?」
「マジですわ。だって、気になりません?」
「なるけど! めっちゃなりますけど……えー……」
「わたくしはまだここを探すつもりですが、悠太さんはどうなされるので?」
「とりあえず藍川先輩と風花先輩を探してみようかなって」
「そうですか。ではまた後ほど」
「はい。それじゃあ失礼します」
エリザベスにペコリと頭を下げ、今度こそ三階へ向かう。
さてあの二人はどこに居るのかとフロアをさ迷い歩いていると、意外な場所で小春を発見する。
「…………風花先輩?」
「んお? おお、悠太か。どした?」
「どしたって……風花先輩こそどうしたんですか?」
「あん? 何がよ」
「いやだって――――ここ女児向けアニメコーナーですよ」
場違いにもほどがある。
小春のことだ。十中八九洋画コーナーに居ると思っていた。
それだけにここで真剣に吟味している姿を発見したのは完全に予想外だった。
「まあ待て。ジャリ番だの何だのと言われてるがこういうんも侮れねえんだぜ?」
「はあ……まあ、それは分かりますけど」
子供向けと侮るなかれ。
子供向けと子供騙しは違うのだ。
しっかり作られた子供向けの作品は大人の鑑賞にもたえうるものとなっている。
「お前のことだ。どうせあたしが洋画コーナーに居るとでも思ってたんだろ」
「う゛」
「個人で楽しむ分にはそりゃ洋画コーナー直行だが、こりゃ部活動だぞ」
自分の好きなジャンルはむしろ避けるべきだ。
誰に言われずともそのジャンルの作品に多く触れて相応の知識を蓄えているのだから目を向けるべきは別ジャンル。
それも自分の好みからはほど遠いジャンルが良い。その方が参考になると小春は言う。
「おぉ」
「何だよそのリアクション」
「いや、すっごい真っ当なアドバイスだなって。ありがとうございます」
「お、おう。どういたしまして?」
小春の言は至極尤もだ。
ならば自分もロボット系統は避けるべきかと心のメモ帳に刻み込む。
「で、先輩。何か良さげなのありました?」
「んー……難しいな。ぶっちゃけどれもこれも気になるもん」
「あ、そういう方向で」
未開拓のジャンルゆえどれを選べば良いとかではないわけだ。
「ちなみに悠太はこの手のジャンルに詳しかったり?」
「残念ながら」
日曜朝のゴールデンタイムは小さい頃からの習慣だが見ているのはヒーロー番組だけ。
残念ながらそっち方面は未開拓だ。
「あ、でも一つだけ」
「あん?」
「今先輩が眺めてるシリーズって必ず変身してバトルやるんですよ」
「おう」
「でも、このシリーズが始まる前とかは必ずしもそうじゃなかったみたいで」
その中に父のおススメ作品があったのだと語る。
「ほうほう。どんな風におススメなんだ?」
「舞台は二十世紀初頭なんですが時代考証とかしっかりしてて……」
父が熱く語っていたことをうろ覚えながら小春に伝える。
小春は話を聞き終えた後、一つ頷きこう言った。
「子供、分かるの?」
「……まあそこは……はい」
「でもまあ、面白そうではあるな。ネックは話の長さか」
「一年近くやってますからねえ」
「ま、参考になったよ。サンキュな」
「いえいえ、それではこれで」
アドバイスを貰うつもりがアドバイスをしてしまったが、まあ良い。
自分の得意なジャンルは避けるというのは十分参考になった。
小春と分かれて青司を探すべくフロアをうろつき始めるが……。
「……どこにも居ない」
一階二階に戻った? いやそれならすれ違うはずだ。
ならばどこに、と考えたところで悠太の視界にあるものが映りこむ。
18歳未満立ち入り禁止の注意が描かれた暖簾だ。
「まさかね」
制服でここに入るなんて蛮勇が過ぎる。
ないない、あり得ない。
そう思う一方でどこにも居ないし、もしかしたらとも思ってしまう。
「………………一応、覗くだけ覗いてみるか」
キョロキョロと周囲を見渡し、誰にも見られていないことを確認し飛び込む。
が、そこで中に居た店員と目が合ってしまう。
しかし店員は何も言わず生温かい目で悠太を見ると、そのまま去って行った。
(注意されるよりも辛いんですけど……)
だだ下がりしたテンションのまま歩き出すと、青司は直ぐに見つかった。
マジでここにおったんかい……とげんなりしつつ悠太は青司の肩を叩く。
「お、悠太か。どした?」
「どした? じゃないですよ……何してんすか藍川先輩……」
「何って資料探しだけど?」
「は? いやいやいや……これは……こういうのは、違うでしょ」
直接的な表現を避けるとだ。
この手の作品は性的欲求を発散させるためのものでストーリーは二の次三の次。
資料としては不適格だろう。
「いや違わねえよ?」
「でも……」
「悠太――――物語に貴賎はねえんだ」
カッコ良い。カッコ良い台詞だけどAVを片手に言われても滑稽としか思えない。
「つーか忘れてね? 俺、性欲ないんだぞ」
「ぁ」
「だからフラットな目でストーリーを見定めることが出来るんだ」
「で、でも別にAVである必要は……」
「AVでしか味わえないものもあるんだよ」
良いか? と前置きし青司は語り始める。
「確かにお前さんの言う通りエロが主題だ。
サッパリ割り切って速攻でおっ始めるようなのを除けばエロに至るまでの物語がある。
そしてこの物語が重要なんだ。しっかり見てたら雑な導入だと萎えちまってそれどころじゃなくなる。
だが話を上手に運べばどうだ? 同じエロでも単体のエロを見せられるよりも盛り上がるんじゃねえか?」
「そう……でしょうねえ……」
熱弁を振るう青司の顔に羞恥の色は皆無。
一切の下心なしにエロを連呼する人間を見たのは生まれて初めてだった。
「そこを学びてえんだよ」
「いやでも、部でエロ系の話とかするんですか?」
「悠太は頭が硬い。一事は万事に通ずるって言うだろ? 見極めるべきは要訣さ」
じゃあ別にエロじゃなくても良いじゃん、と思ったが長居したくないのでツッコミを飲み込んだ。
「つか、お前さんだってここに足を運んで……あ(察し)」
「違いますから。藍川先輩を探してただけですから」
「俺を? 何で?」
「……いや、もう良いです」
じゃあまた後でと投げやり気味に言って18禁コーナーを後にする。
(ってか、仮にAVが資料に選ばれたなら女子の先輩たちと一緒に観なきゃいけないのかな……)
その時は躊躇なく逃げを打とうと心に誓う悠太であった。




