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ごっこ部(仮)  作者: カブキマン


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10/23

歓迎会 中

 ロボット談義に熱を入れているとインターホンが鳴った。

 見れば約束の時間を少し過ぎたところ。

 もうこんな時間かと慌てて玄関先に向かえば、残る三人が大量の料理を抱えて立っていた。


「悪い、ちょっと遅れた」

「い、いえいえ! とりあえず中へどうぞ」

「……おじゃまします」

「おじゃま致しますわ」


 三人を家の中へ誘う。

 リビングに向かうと小春が皿やコップ、飲み物を用意してくれていた。


「お、ようやくか。つかエリー……お前……何その格好」


 エリザベスを見た小春が呆れた顔をする。

 正直、悠太も気になってはいたのでありがたいツッコミだった。


「? 何かおかしいところでもありまして?」

「あるわ。何で内輪の歓迎会に煌びやかな舞踏会で着るようなドレス着て来てんだおめーは」


 それだ。

 悠太を含む他四人が普通の私服なのに対しエリザベスは紅と黒を基調としたイブニングドレス。

 エリザベスの格好は明らかに浮いていた。

 なのに当人は極々自然な顔をしているものだからツッコミも入れ辛い。


「な……だ、だって悠太さんを歓迎する祝いの席ですし、ちゃんとした方が……」

「むしろちゃんと出来てねえわ。場の空気に合ってないもん。弁えろよ、BPOを」

「風花先輩、それを言うならTPOです。BPOは放送倫理委員会です」

「だっけ? まあそれは置いといてだ。この手の集まりなら清潔感のあるラフな私服ぐらいで十分だろうが」


 小春に指摘され、エリザベスは助けを求めるように青司と小夜を見やるが……。


「……小春の言う通りだと思う」

「じゃあ何でもっと前に言ってくれませんの!? ここまで一緒に来たじゃありませんか!!」

「いやだって当然のような面して歩いてんだもん……逆に指摘しづれえわ」

「……道往く人たちにすっごいじろじろ見られてたのにノーリアクションだったし」

「うん。ツッコミを封殺されてた感あるよな」


 一斉放火を受け顔を赤くしぷるぷると震えていたエリザベスが耐えかねたように叫ぶ。


「わ、分かりました! 分かりましたわ! 着替えればよろしいのでしょう!?」


 瞬間、着ていたドレスが弾け飛んだ。

 そして間髪入れず赤い液体(恐らくは血)が鎖のように全身に絡み付き普通の私服に姿を変えた。


「どう!? これで良くって?!」

「あの……良いと思いますけど人ん家でいきなり全裸になるのは止めてくれません?」

「問題ありませんわ。局部は隠れるように弾き飛ばしたので」

「そういう問題じゃないです」


 というかそんな器用に服を弾けさせていたのだとしても一般人には分からない。

 まあ一般人でも動体視力の良い者ならば分かったかもしれないが、生憎と悠太は普通である。

 一瞬、肌色指数が急上昇したことぐらいしか分からなかった。

 

「……それより、そろそろ始めよう」

「お、そうだな。悠太、机に並べて良いか」

「あ、はい。でもこの量、テーブル一つだと足りないので部屋から持って来ますね」

「悪い。手間かけるな」


 部屋から自分のテーブルを運び、リビングのテーブルにくっつける。

 多少、高さが違うもののとりあえず置く場所を確保する目的なので問題ないだろう。


「ところで、こんなに買って来てお金は大丈夫なんですか……?」


 ピザ数枚。フライドチキンのボックスが数個。バーガー多数に大量のポテト。

 お好み焼きや焼きそば。おにぎりの詰め合わせ。色々な種類のサラダにその他色々。

 確実に諭吉さんを複数枚使っているはずだ。


「あ? 平気平気。ちょこちょこ土方のバイトやってて懐は温かいからな」

「……私はバイトとかしてないけどお金には困ってないから」

「同じくですわ」

「そうですか……何かその、僕のためにすいません」

「そこはありがとうで良いんだよ。ほら、何飲む?」

「風花先輩……そうですね。皆さん、本当にありがとうございます。あ、飲み物は緑茶でお願いします」

「はいよ。お前らは主賓じゃねえし自分で注げよ」

「そのつもりだったけどわざわざ言われると何か癪に障るな」

「……エリー、そこのアイスコーヒー取って」

「はいはい。わたくしはー、リンゴジュースに致しましょうか」


 全員に飲み物が行き渡ったところで、青司が立ち上がる。

 部長なので代表として音頭を取ってくれるのだろう。


「あー、えー、何だろ。これ、何て言えば良いのかな」

「異世界で散々アジってたあなたが今更乾杯の音頭で躓かないでくださいな」

「いやアジったけど。確かにアジりまくったけど。でもああいうノリとはまた違うだろ」

「すいません。こういう席で藍川先輩の異世界関連の話するの止めません? 暗い背景がチラチラしてて気になるんですよ」


 開示されている情報だけを見ても青司の異世界での日々は王道ファンタジーとは言い難い。

 どちらかというと泥臭く、血生臭い戦記ものだ。

 当人はもうやり切ったとそれなりに割り切れているのだろうが第三者からすれば堪ったものではない。


「あ……何かすまん。コイツらと同じ対応しちゃダメだよな。うん。反省するわ」


 青司も理解したようだ。

 そしてやはりと言うべきか女三人は青司の重い冒険譚もさして気にしていなかったらしい。


「こっちこそ、勝手なこと言ってすいません」

「いやいや。客観的に見りゃお前さんは間違ってないし、俺らはそういう視点が欲しかったんだから気にすんな」


 つくづく良い男である。


「っし! じゃあ仕切り直しな! 皆、グラス……じゃねえ紙コップを」


 その言葉で全員が紙コップを掲げる。


「えー、夕凪悠太くんのごっこ部入部を祝しまして――乾杯!!」

「「「「乾杯!!!」」」」


 そして歓迎会が始まる。


「悠太さん、食べたいものはあって? 取り分けて差し上げますわ」

「あ、じゃあフライドチキンを」

「……あ、エリー。そこの春巻き取って」

「はいはい、分かりました。小夜は春巻きで悠太さんは骨なしチキンですね」

「喧嘩売ってんですか?」

「エリーは日本語出来てるようで若干怪しいから気にすんな――……っと、それより小春、アレもう渡したのか?」

「アレ?」


 と首を傾げていると小春が忘れてたと鞄の中から一枚のディスクを取り出した。


「ほいよ」

「あ、どうも……って何ですこれ?」

「昨日やった遊びの映像。やった後は皆でこれ観ながらワイワイ語り合うんだよ」

「へえ」


 いやだが、考えてみればおかしなことではない。

 昨日は全員が自分の動きを把握していたようだが、それはあくまで特例。

 普段は自分の居ない場面ではどうなっているかは分からないようになっているのだろう。

 だがそれでは十全に楽しめない。

 ゆえにアフタープレイという形で楽しめるよう映像を撮影しているというわけだ。


「どうせなら今、観るか?」

「あ、はい。観たいです」


 完全俯瞰で昨日のアレを見たらどんな感じなのか。

 悠太は少し、ワクワクしていた。


「OK。じゃあレコーダーちょっと借りるぞ」

「どうぞどうぞ」


 と、そこでクイクイと袖が引かれた。小夜だ。

 何の用だとそちらを見れば彼女は一枚のカードを差し出して来た。


「これは?」

「……一人でも部室に入れるようになる鍵みたいなもの」

「持ってるだけで良いから財布にでも入れときな」

「どうもです」


 そう言えばそこらは考えていなかったとカードを受け取る。


「ちなみに入り口だが、部室棟の壁以外にも幾つかあるから教えておくな」

「いや、何で入り口が他にもあるんです?」


 必要ないだろう別に、と悠太が言うと青司らはおいおいおいと苦笑を返す。


「考えてもみろよ。例えばだぜ? 一見何の変哲もない普通の便所の個室」

「……そこで普通ではまずあり得ない特定の行動を幾つか取る」

「すると隠し通路が! なんて浪漫を仕込まない理由がどこにありますの?」

「えー……いやまあ、確かにカッコ良いですけど……」

「つーわけで、これ秘密の入り口のマップな。鍵を持つ奴以外が見てもただの白紙だから万が一落としても安心だ」

「細かいとこまでこだわってますねえ」

「そりゃこだわるわ。だって楽しいもん」


 うんうんと小夜やエリザベスも頷いている。

 と、そこでそろそろ始まるぞと小春から声がかかった。


「あ……アニメ風のロゴ……これ、風花先輩が?」

「実際に描いたのはあたしだけど、デザインは青司だな」

「……私とエリーのは残念ながら落選してしまった」

「でも次は負けませんわ」


 などと話しているとこれまたアニメ風のOPが流れ始める。

 アニメーション自体は良いが、この歌は誰が歌っているのだろうか?

 そしてOPが始まる前のナレーションも。


「この声は変声機とか使ったんですか?」

「いんや? あたしが作ったナレーションくんとアニソンちゃんだよ」

「???」

「ボーカロイドとかその手の音声ソフトみたいなもんさ」

「マジですか!? え、でも普通に肉声にしか……あ、いやそこは使われてる技術の問題か」


 不自然さがまったくないので驚いたが製作者の背景を考えれば不思議でも何でもない。


(む、サブタイが出ないな……)


 OPが終わるとシームレスに本編が始まった。

 自分が病室で目覚める場面なので、ここは正直どうでも良い。

 それよりも気になるのが(設定では)十話のサブタイトルが出ないこと。

 ロボットアニメ、それもこのノリならば出してもおかしくないのでは?

 ちょっと本編を進めてから出す感じか? いや違う。

 話の内容を考えるならトリだ。クライマックスにバァン! と出すつもりなのだ。僕は詳しいんだ!

 などと悠太は割りとウキウキで考察を楽しんでいた。


「俺さぁ。設定的にこの博士に一話で試験がてら殺し屋差し向けられてんだけど丸くなり過ぎじゃね?」

「悠太さんも鬼か悪魔かなんて言ってますしね。小夜さん、そこら辺はどうなのです?」


 今回のシナリオでメインの設定担当をしていた小夜に水が向けられる。


「……マッド気質もあるし、地球を守るために苛烈な部分を前面に押し出してるけど本質は情の人だから」

「期待をかけて、それに応えてくれる健気な青司たちに絆されてるわけか」

「……うん。特に今はもうどうしようもないって場面だから。闘志よりも柔らかい部分が表に出ちゃってるの」


 それより、と小夜が上気した顔で画面を指差す。


「……見て。無理してる悠太くん。今は自分しか居ないんだからって虚勢張ってる悠太くん」


 良い、ああ、良い。

 そう呟く小夜に悠太は先日の長文語りを思い出し頬を引き攣らせた。


(え、やだ……何か光ってる……目が光ってる……)


 比喩表現ではない。マジで小夜の目が光っている。

 髪で隠れている側の目から禍々しい虹色の光が漏れ出ている。かなり怖い。


「にしてもロボ――ジェネキンのデザイン良いな。

昨今のスタイリッシュな感じじゃなくて昭和の香り漂うスーパーロボットって感じが実に良い」


「ですよね! いや、今時のお洒落なロボも僕は好きですけどコテコテのスーパーロボットは問答無用で素晴らしいと思います!!」


 やっている時は演技に必死だったこともあって脇見をしている余裕はなかった。

 だがこうして気楽な状態で見ると、中々に良い。


「僕的にポイント高いのが操縦席。やたらレバーが多いのが良いなって」

「おぉぅ、めちゃテンション上がってるな。楽しんでくれてるようで何よりだ。ちなみに敵のメカデザインはどうよ?」

「怨絞獣ですか。これも良いと思いますよ。名前はさておき見た目で悪い奴だってのが分かるところが好きですねえ」

「……待って。名前も良くない?」

「良くないですよ……いや、お子様から見れば悪くないかもですが」


 これがマジに放映されているアニメだと仮定しよう。

 そう考えると怨絞獣も単体で見ると悪くないネーミングをしている。

 字面だけで子供にも分かる悪い奴感を醸し出しているのは評価しても良い。

 ただ、ネームド悪役の名前が問題だ。

 ビッチーノ、ファッキーナ、アバズレーノ。

 こう来た上で怨絞獣なんて名前をお出しされると、そういう意味に捉えてしまうだろう。


「待て悠太。お子様でもマセてる奴は気付くんじゃね?」

「あー……今の子は早熟ですしね。よしんば気付かなくても親御さんと一緒に観てるとかだと確実アウトですよ」

「おいおいおい。分かってねえな男子二人」

「ですわ。わたくしたちのセクシーな出で立ちを知っていて親と一緒に観たがる子供が居まして?」

「……気まずいにもほどがある」


 気まずいと自覚してるんなら改めろよ、と思ったが後の祭りである。


「ふふふ、これを観ている子供たちはわたくしたちで精通を果たすかもしれませんわね」

「初めてのオカズはアニメに出て来るエッチな悪の女幹部でした。思春期なんてそれで良いんだよ」

「……まだ精通を迎える歳ではなくても、ドキドキはすると思う。こういう全年齢向けでエロスを感じる体験は大切だと思う」

「まあコイツらのことは置いといて、だ。よくよく考えてみればこれ、子供向けか?」

「あー……」


 エロ要素は置いておくとしてもだ。

 バイオレンス要素が多分に含有されているのは子供向けとしてありなのか?

 青司の問題提起に悠太はそういえばと顔を顰める。


「そういやあたし脇腹、ガッツリ抉られてたな」

「……私は肩から下をバッサリ」

「欠損シーンはアウトですわね。いや、見た目がモンスターとかならそうでもないでしょうが」

「悠太も自爆ん時、ドロドロに溶けてて割りとグロかったっけ」

「となると、子供を引き合いに出すのはそもそもズレてたのかもしれませんね」


 食べつつ、飲みつつ、語らう。

 何てことのない時間。だが、ここには確かな喜びと幸せがあった。

 今更ながら、入部を決めて良かったと悠太は小さく笑う。


「おぉ……派手に散ったなぁ……」

「僕、盛大に散りましたねえ。にしても、やってる時は気付きませんでしたが夕焼け……綺麗だなぁ」

「ふふふ、そう言ってくれると力を入れた甲斐があったと言うものですわ」


 影の世界に舞台を整えたエリザベスがドヤッ! と笑う。


「ですが本当に見て頂きたいのはここ、ここですわ。

自爆の余波が収まった後の、この静寂。風の声さえ聞こえないこの寂寥が何を意味するか分かって?」


「え? あ! 夕凪ですか?」

「ですわ! これを含めて黄昏の表現には本当に気を遣いましたのよ?」


 画面では当初睨んだ通り、サブタイトルが表示されていた。

 さらば友よ、黄昏に消ゆ――サブタイからして夕凪悠太という名前に紐付けがされていたのだ。

 だからこそエリザベスも黄昏の表現には特別力を入れたのだろう。


「さて、観終わったわけだが……どうよ? こうして俯瞰で見るとまた違った良さがあるだろ?」

「はい! 一粒で二度美味しいって言うか……昨日と今日で違う楽しみ方が出来ました!!」

「ははは! そう言ってくれると俺らも嬉しいよ」


 うんうんと頷く先輩たち。

 自分の感動を誰かと共有出来る喜びは、隔絶した彼らであっても同じなのだ。


「ところで先輩たちがこれまでやって来た遊びの記録って観れたりするんですかね?」

「ん? おう、勿論さ。全部ディスクに焼いて保管してあるぜ。何なら今から観てみるか?」

「良いんですか? なら是非!!」


 楽しみと共に夜は更けていく……。

そういや描写してませんでしたが女子三人の胸の大きさは

エリザベス(とても大きい)

小春(大きい)

小夜(普通寄りの小さい)

って感じです。よければブクマ登録、お願いします。

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