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ごっこ部(仮)  作者: カブキマン
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はじまりの夜

今日は二話投稿で次は六時です。

「あ」


 それに気付いたのは風呂上りのアイスを食べている時だった。

 明日提出期限である英語の課題を学校に忘れて来てしまった。

 これが他の教科であればまあ良いかで済ませていたが英語はダメだ。先生が厳し過ぎる。

 以前出された課題も期限を過ぎて出してしまい、既に目をつけられてしまっている。

 明日、早めに登校して学校で課題を済ませる? いやダメだ。

 残りの量を考えれば間に合わない――となれば、しょうがない。


「…………風呂入ったのに……」


 夕凪 悠太(ゆうなぎ ゆうた)にとって風呂上りのアイスタイムは日々のささやかな幸せを象徴する時間だ。

 それをぶち壊されたことで気分は一気に最底辺まで落ち込んだ。

 気付いてしまった以上、見てみぬ振りも出来ない。

 悠太は渋々、寝巻きのジャージから外出着に着替え家を出た。

 時刻は午後8時。学校は閉まっているだろうが、守衛のおじさんはまだ残っているはず。

 ダッシュで徒歩十五分を駆け抜け学校まで行くと、予想通りセーフ。

 お小言を言われたものの学校の中へ通してもらえた。


「別に怖いとかじゃないけど……夜の学校って何だかな」


 借りた鍵を使い来客用の入り口から中に入る。

 フットライトの灯りがあるので完全な暗闇というわけではない。

 しかし薄ぼんやりと闇の中に灯る光は逆に不気味だった。

 来客用のスリッパを取り出すと、悠太は足早に歩き出す。


 が、


「!?」


 ガギィン! と金属と金属がぶつかる甲高い音が校舎中に響き渡った。

 突然のことにギョっとする悠太をよそに、金属音は断続的に響続ける。


「守衛のおじさんに……いやでも、ここまでデカイ音ならおじさんも気付いてるだろうし……」


 何か作業をやっているのかもしれない。

 そう結論付けて悠太は階段を昇り始めた。

 一段、また一段と昇る度に音が大きくなっていく。

 どうやら三階――いや、二階が音の発生源らしい。


(何やってるんだろ)


 目的地は一年生の教室が並ぶ三階だが、少し気になる。

 二階に差し掛かったところで悠太はちょっとだけと壁に貼り付きこっそり廊下へ顔を出し、


(な――――)


 言葉を失った。


「はぁあああああああああああああああああああ!!!!」

「……甘い」


 少女が二人、アクション映画も真っ青な超人的な機動で刃を交えていた。

 比喩でも何でもない。本当に彼女らは真剣で斬り合っているのだ。

 素人である悠太にも分かる。分かってしまう。

 月光に照らされ鈍く光る刃の煌きが命を奪う冷たい現実を孕んでいることに。


(なん……い、意味が分からない……ッッ!?)


 バァン! と一際大きな炸裂音が響く。

 発生源は片目を前髪で隠したショートヘアーの少女の左手に握られた黒光りする鉄の塊。

 拳銃だ。本物の。


「そんな豆鉄砲が当たるかよ!!!!」


 相対する栗毛のサイドテールの少女が凄絶に嗤う。

 その頬はバックリ裂かれているが、臆する様子は微塵もない。

 何だ。何なのだこの光景は。一体どうすれば良いんだ。

 非現実の光景が正常な思考を奪う。悠太は動けなかった。

 フリーズしたPCのようにただただ固まっていた。


 が、ふと気付く。


(……あれ? あの二人って)


 入学してまだ半月ほど。

 学校に慣れたとは言い難いが、そんな悠太でも学内の有名人ぐらいは知っていた。

 目隠れの少女は確か二年生の――そう時雨 小夜(しぐれ さよ)。通称、書架のご令嬢。

 イキった生徒も図書室で彼女を見れば大人しく読書に耽る振りをしてチラ見するとの噂の女子生徒だ。

 そして栗毛の方も同じ二年で、風花 小春(かざばな こはる)

 溌剌とした魅力が売りで去年のミスコンでは一年生でありながら二位の座を獲得したと言う。

 そんな正反対の二人が何故、こんなところで殺し合っているのか。


(わ、わけわかんない……)


 呆然と眺めている間も殺意の交わりは止まらない。

 むしろ、ドンドン激しさを増しているように見える。


(わかんないけど)


 このままじゃまずい。

 未だ混乱から立ち直れてはいないが、人死にが起きるかもしれないという焦燥が胸を炙り始めた。

 悠太は半ば無意識の内にポケットに手を伸ばしスマホを取り出そうとするが、


「ぁ」


 震える手がスマホを落としてしまう。

 カラン、と間抜けな音を立てて転がって行くそれを見送り――血の気が引く。


(見られた……!!)


 二人とバッチリ目が合った。合ってしまった。

 悠太の本能は逃走を選んだ。

 が、選択を誤った。逃げることが、ではない。逃げる場所をだ。

 あろうことか悠太は階段を駆け上がってしまったのだ。

 三階まで辿り着いたところで気付くがもう遅い。

 かと言って足も止められず悠太はそのまま階段を昇り屋上へ。

 勢いそのままに扉をブチ破り転がり込むも、


「――――屋上はダメだろ」


 小春が居た。

 屋上の柵に腰掛けてニヤニヤと笑っていた。


「ホラー映画だと、どう考えてもこのまま乙っちまうパターンじゃん」


 後ろから追い抜かれた覚えはない。

 扉だって閉まっていた。まさか瞬間移動?

 そんな考えが頭をよぎったところで、小春は言った。


「窓をブチ破ってそのまま壁伝いに屋上に先回りしただけだよ。何も不思議なこっちゃねえ」


 心が読めるのか!?

 悠太は背を向けて逃げようとするが……身体が動かない。

 首から下が金縛りにでもあったかのように動けない。

 そして、


「――――どちらへおいでですか?」

「~~~~!!?!?!」


 耳元で聞こえたその囁きで悠太の恐怖が限界に達した。

 声にならない悲鳴を上げる悠太に、小春が歩み寄る。


「うーん……おい小夜」

「……うん」

「このモブ顔」

「……芸のないリアクション」

「間違いねえ」

「……私たちが求めてた人材」


 二人は悠太を抱き締めるように腕を回し前後から顔を寄せ左右から告げる。


「「――――君、ごっこ部に入らない?」」

「……?」


 もう、わけがわからなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 更新まだですか?楽しみにしてるんですけど
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