記念写真
「この辺でいいかな」
夜中の2時。僕は、桜の木の下に宝物を埋めるためにやってきた。
「ぼくの宝物も埋めていい?」
突然桜の木の背後から1人の男の子が現れた。
びっくりしたけど、「いいよ」と思わず返事した。
「じゃぁ、いっしょに穴を掘ろう」
「そうだね」
僕たちは、初対面のはずなのに何だか懐かしくて、
いつのまにか仲良くなっていた。
土は、雨上がりだというのに意外と固く、
スコップで掘るのに苦労した。
「おじいちゃんに鍬を借りてこればよかったよ」
そんな言葉をいいながら、僕たちは何とか穴を堀り続けていた。
ようやく、宝物が入るぐらいの穴になったところで、
「コツン」と何かモノに当たったようだ。
「え?今何か当たった?」僕はきみに聞く。
もう一度おそるおそる今度はきみがスコップを土に当てた。
「コツン」やっぱり何か埋まっている。
「どうしよう」僕ときみはほぼ同時につぶやいた。
「まさか、やばいモノじゃないよね」
「まさかね」
僕ときみは、この先穴を掘ろうかどうかしばし考えた。
ここでちょっとおやつタイム。
僕はドーナツ、きみはチョコレートを食べながら、
お互いの頭の中ではいろんな妄想が浮かんでいた。
「やっぱり、掘ろう」きみと僕はほぼ同時に叫んだ。
「なんか息ピッタリでびっくりだ」
お互いに笑いあい再び穴を掘り始めた。
「コツン」という音はやがて「カンカン」と言う音になり、
徐々に正体がきみと僕の間に現れた。
「何だ。お菓子の缶じゃん」と僕は意外と普通のモノが出て来てほっとした。
きみは、早く開けたくてたまらない顔をしていた。
「じゃぁ、開けるよ」
「せーの」きみのかけ声と共に缶のふたを開ける。
そこに入っていたものは?
缶には一枚の写真が入っていた。
よく見るとここの桜の木の下で写っている男の子のピースサインをしている写真。
「あれこの男の子ってきみの写真?」
「そうだよ。ずっと探してた宝物。見つけてくれてありがとう。うそついてごめんね」
そんな声を残して気がつくと男の子は、僕の目の前からいなくなっていた。
そして写真もなくなっていた。
こんな訳の分からない展開に僕は混乱していた。
そしていつの間にか桜は満開。
「こんな素敵な光景、初めて見た!そうだ、写真、写真とろう!」
リュックからカメラを取り出そうとしたその時。
「カシャ」
タイミングよくカメラのシャッター音が聞こえた。
え?まだ僕カメラ出してないんだけど。どういうこと?
不意に風が吹いて一枚の写真がひらひらと僕の手のひらに落ちて来た。
そこに写っていたものは、今ここでとられた写真だった。
もちろん満開の桜の木の下でピースサインをしている僕ときみの写真。
裏をめくると「ぼくの写真、宝物見つけてくれたお礼。またね」と書いてあった。
僕はもう一度、満開の桜を見た。
月明かりの下、きみがまたどこかからひょっこり出てくる気がした。
今度は僕の宝物を見せてあげるからね。
たくさんおしゃべりしたのに、すっかり忘れていたよ。
ひらひらと桜の花びらが、さっきとった写真の上に舞い降りた。