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俺が博士で司令官

作者: 浅葱零

 


 父親が過労で倒れたという報せが届いた。


 なんかすぐに来いという。

 俺は選択の余地もなく日本政府のよこした黒塗りの車に押し込まれて半ば拉致されるように連れ去られた。40秒で準備させてくれる時間ももらえないなんて酷い話だ。


 父親の仕事が国家機密でよくわからないことをしているらしいというのは心得ていた。

 ここ数年はさっぱり会う機会もなかったから、いつのまにかその気になれば会いに行けるアイドルとかよりも遠い存在になっていたイメージだ。


 その父親に、でかい病院のでかい病室で再会した。


「息子よ……」


 会うなりそう言って震える手を伸ばす父親。

 正直なところ本当に目の前の草臥れはてた白髪のダンディが父親かどうか自信がなかったが、むこうが「息子よ」ってプルプルしながら言ってるんだから父親なんだろう。

 逆オレオレ詐欺みたいなことだったら騙される流れだが、あいにく金欠なので間違っても振り込める現金はない。


 政府の人らが後ろで見ている手前、とりあえず空気を読んだ感じで対応したほうがいいと俺は判断した。


「父さん……」


 俺は父親の手を取る。


「息子よ、私はもう疲れた……もう戦えない」

「そ、そうか……まあ、あんまり無理しないで休んだらいいんじゃないか」


 戦うとか、なんかオーバーな表現をするよな。

 家族を蔑ろにしても仕事に生きた人だが、この人の稼ぎで衣食住に不自由せずに生きてきたわけだし、俺としてはあんまり責める気もない。

 見た感じよっぽどブラックな職場だった感じもあるから、しばらくはゆっくり休んでもらえたらというのが本音だ。


「うむ……息子よ、あとのことは託す……」

「えっ」


 いきなり父親の全身がピカッと光った。

 そしたらそのLEDなんか比較にならないくらいまぶしい光が手を通して俺に流れてくる。


 すげえ強く握られているから、まったく振りほどくこともできない。


「なんじゃこりゃーー!」


 俺は光に包まれた。


 光のなかで俺は膨大な太古からの記憶を受け取った。

 遥か銀河の彼方から、一万と二千年くらい前に地球にやってきた知的生命体。

 いつしか人類と交わりひそかに社会に溶け込んでいた秘密の一族。


 ──それが俺の正体だというのか。


 そしてまだ真新しい父親の記憶。

 宇宙からの侵略者との戦い。

 日本政府との協力関係。

 地球を守り抜くために造り出した、一族の叡智の結晶。


「ロボ──?」


 大地に立つ鋼鉄の巨体。

 それは──



 ◇



 というわけで俺は父親から地球を守るために戦うロボに関する知識を受け継いだ。


 なんかそういう血筋の生まれだったらしい。

 一子相伝の能力だとかで他人には覚えられないらしく、俺は父親のかわりに戦うことになってしまった。


 俺に人権はないのかとは思ったが、政府との契約の書類にあった給与の額面を見て気持ちは固まった。

 あんなにゼロがたくさん並んでいるなんてすごい待遇だ。たとえ税金でかなり引かれたとしても問題にならない。

 俺は人類のために、主にそのなかに含まれる自分のために頑張ろうと誓った。


 ・

 ・

 ・


 とある太平洋岸沿いにある都市。

 そこに宇宙から攻めてくる敵と戦う人類の前哨基地はあった。


 俺は大学を中退し、そこに職員として赴任する。


「司令、施設についてわからないことがあったら何でも聞いてくださいね」


 小鳥遊クリティーナという名の補佐官が俺について仕事をしてくれることになった。

 知的な雰囲気がまぶしい美少女だ。

 十三歳で米国のなんとか工科大学みたいなところを卒業したりなんかしちゃって、ユニークな最新鋭の研究をしてたりしたところを俺の父親にスカウトされた才女だそうだ。


 まだ俺よりひとつ下の十八歳。

 アホな兄ちゃんだと蔑まされないように気をつけたいな。


「まずは父のロボが見たい」

「こちらです──どうぞ」


 俺は地下ドッグにあるロボを確認した。

 大事な仕事道具だからよく見ておきたかった。


「こいつが……」


 全長にして五十メートル近い巨体は壮観だった。

 侵略者が攻めてきたのが十年前。各国の軍が必死に現行の兵器で対抗したが戦果よりも被害が大きかった。

 やがて父が国に自分の正体を名乗り出て、二年の歳月を経て造り上げたのがこのロボだ。


 それから八年。

 戦い続けたボディには戦いの痕が生々しく残る。


「だいぶ老朽化してるな」

「ええ──前司令も政府に新型ロボの開発を申請していたのですが予算が降りず……」

「そうか。それは問題だな」


 俺はロボを睨む。


「問題、ですか」

「うん……かなりの問題だ。大問題だ」


 一刻も早く新しいロボの開発に着手するべきだと俺は思った。

 このままでは、この先の戦いが思いやられる。


 父親から引き継いだロボはデザインがダサかった。

 大問題だ。



 ◇



「司令、右上腕部のジョイントに問題が発生しています」

「あ、これね」


 世界有数の科学者の人らが束になっても解明できないロボの不調を俺はチラ見するだけで特定できた。

 一子相伝の知識チートというやつだ。

 これがあるので俺は若造ながら人類の平和を守るロボ基地の開発責任者及び運用担当責任者って立場になっている。


「こう、斜めの角度で叩けばなおるよ」

「えっ?」


 新人のスタッフが怪訝な顔をするが、まわりのベテランは当たり前な感じだ。父親のときに慣れているんだろう。


「ほい、パシッとな」


 俺は普段、何重もの鋼鉄に覆われて手厚く守られたロボの内部メカでも特に繊細なパーツを素手で叩く。

 回路がピシッと繋がる手応えがあった。


「完璧です。各部、異常なし」

「オッケーおつかれさーん」


 俺はメンテナンス作業を終えると、次は会議室に向かう。


「先生はもう来てる?」

「はい。先程、到着されています」


 クリティーナが秘書みたいな感じで色々と把握してくれているので俺も仕事がしやすい。

 急ぎ足で会議室に滑り込むとエトキツヅキ先生が座っていた。


「ようこそ、先生」

「司令、お会いできて光栄です」


 俺たちは握手を交わす。

 人類にとっての大事な会議の始まりだ。


 先生の他にも有名なメカデザイナーが会議室に集まっている。

 超イケてるロボのデザインを討論して描き上げる。

 それがこの会議の目的だ。


 新しいロボの姿を考え抜く議論は白熱した。

 三日三晩、論戦は続いた。

 なにしろ地球で唯一の、本気で運用している巨大ロボのデザインだ。軽はずみに決められることではない。


 スーパーロボ系か、リアルロボ系か。

 会議はまずその方向性を決めることに三日を費やし、やっぱりスーパー系も趣があっていいけど、ここはリアル系だよねってことで決着をみた。

 比較的若手のデザイナーがスーパー系を推すのは意外だった。


 そうして幾度もの会合を経て練り上げられたロボのデザイン。

 俺は大満足の作品を、日本政府に開発予算を申請するとともに提出した。


 ついに政府が動いた。


 マジ格好いいロボの姿は人々の心に届いたのだ。

 詳しいことはよくわからないが予算は降りて、俺は自分の世代のロボ開発に着手することになるのだった。



 ◇



『発進! 御剣ケン、ジェットワン! ウイング・ゴーゥッ!』

『イヌイ・ラン、ジェットツー、いっきまあぁす!』

『──ボクが逃げずにやらないと……陽炎シン……出ます!』


 ジェットワン、ジェットツー、ジェットスリーがそれぞれパイロットを乗せて発進していく。

 新ロボができるまでは、しばらく旧ロボを運用するしかない。


 博士ポジでありながら、司令官ポジでもある俺は三人の個性的なパイロットを指揮して敵を殲滅する必要がある。


「敵はメキシコ湾上空。地上に向かって降下中です。各自、急行してください」


 オペレーターの女の子が基本的な指示は出してくれる。

 俺は必要に応じて口を挟めばいい。


「ジェットワン、先行しすぎです!」

『先に行く! 俺の熱い正義は待ってくれないぜ!』

「隊列を組んでください!」


 ジェットワンのパイロット、御剣ケンが先走るのはいつものことだ。

 あいつは任務に真面目だが熱血脳筋でからまわりしがちなんだよな。


『いけない、ケンさんっ!』


 ジェットツーのイヌイ・ランが叫ぶ。


「どうした、イヌイ?」

『ケンさーん!』


 イヌイは直感が鋭くてエスパーっぽい感性があるからな。

 やつの警告は無視できない。


 案の定、単独で前に出過ぎたジェットワンは敵の的になって打ち落とされてしまった。


『よ、よくもケンさんを……やったなっ!』


 ジェットツーも敵の射程範囲に入り、雨のように降り注ぐミサイルを浴びるが凄腕ゲーマーのような動きで回避していく。


 ツーはとりあえず大丈夫だが、問題はスリーのほうか。


『そんな……御剣くんが……いやだ……ボクはもう……戦いたくない!』


 もう臆病風に吹かれてしまっている。

 あいつは基本的に暗いし性格が戦い向きじゃないんだよな。


「敵を補足、映像出ます!」


 司令室のスクリーンに地球侵略を狙う敵の姿が映し出された。

 禍々しい機械の怪物とでもいうような異形。


 それは六枚の翼をもつ竜のようにも見えた。


『あれが……敵か』

『もう嫌だ……』


 翼が羽ばたく度に数千ものミサイルがそこから撒き散らされる。

 海上でなければすでに大惨事だっただろう。


「敵はリヴァイアサン級バトルロイドモンスター! ジェットツーとジェットスリーは敵のコアパーツを発見、破壊してください」

『簡単に言ってくれますね……できると思ってるんですか?』

「イヌイさん、あなたならできますよ!」

『気休めを、言わないでください……』


 ジェットツー、ジェットスリーは揃って人型の戦闘形態になり戦いを始める。

 ジェットワンが撃墜されたのが痛い。

 ロボは合体してこそ真の強さを発揮するのに。


「ジェットスリーが被弾……ダメージは軽微……いえダメです、パイロットの意識が途絶しています!」


 オペレーターが叫ぶ。

 戦況ははなから大ピンチだ。


「司令、ジェットツーにジェットスリーを回収させ撤退を進言いたします」

「う……そうだなあ」


 控えていたクリスティーナがアドバイスをくれた。

 普通に考えても一度、退いたほうがいい場面だ。できればジェットワンも回収したいところだが。


 海に沈んでいる以上はあの海域から敵が離れたあとのサルベージになるか。

 そのあいだに地球上で被害が拡大することは避けられないんだけど。


「ジェットスリーの再起動を確認!」

「お、目が覚めたのか」

「いえ……これは……ジェットスリー、暴走しました!」


 ジェットスリーの内部には未知の不思議生物が組み込まれているからな。

 たまに暴走して制御不能になる。


 まあ今回はいいところで暴れだしてくれた感じだ。


 暴走して狂戦士状態になったジェットスリーはミサイル攻撃を弾き飛ばしながら敵に接触、圧倒的に蹂躙し始めた。

 六枚の翼をひとつずつ、根本からむしりとっていく。


『こ……こんな……人はこんなにも残酷になれるのか?』


 ジェットツーのイヌイがエスパーならではの繊細な感受性で、暴走したジェットスリーから何かを感じてしまっているようだ。

 こういうときに鋭すぎるのも可哀想なもんだ。


「やったか?」

「いえ、敵にイエローパターンのエネルギー反応……第二形態、きます!」


 ジェットスリーの攻撃で無惨な姿を晒す敵リヴァイアサン級だが、自ら装甲を離脱させる。

 内部にあった生物的な機械生命体が露出したかと思うと、そいつは何倍にも肥大化した。


『なんて……悪意の強さだ!』


 イヌイが叫んだ。

 映像で見ていてもグロテスクで吐きそうになる敵だ。近くにいる彼には恐怖そのものだろう。


「ジェットスリー、沈黙……暴走の終了を確認!」

『──はっ! ボクは一体……』


 陽炎シンが目を覚ましたようだが、無敵ボーナスモードな暴走タイムが終わってしまった。

 やはりここは退くべきところか。


『敵の動きが見える!』


 イヌイが一応、健闘はしている。


『そこっ……当たれ! は、反応が鈍い!』


 ジェットツーの問題はパイロットの反応速度に機体が追いつかないことだ。

 機体性能の責任は俺じゃなくて父親だが、立場的にこれを放置しておくと俺にとばっちりが飛んできそうだ。

 新ロボができるまでにも何か対策を考えないとな。


『シンっ、危ない逃げて!』

『えっ……わあっ!』


 ジェットスリーが直撃を受ける。

 さらにそこを追撃から庇ってジェットツーまでが攻撃に晒された。


 まずいな……詰んだか。


『待てい!』

「うおっ、御剣か?」


 ロボ形態のジェットワンが海面から姿を見せた。


『空と海と大地の守り手、御剣ケンっここに見参!』


 守り手だったらまず自分の身を守れといいたいところだが、ロボの自己修復機能が効いたのだろう。

 ジェットワンが戦線に復帰した。


 だがしかし、ロボに腕組みなんかさせてないで海中の死角から奇襲してほしかったところだ。


『ラン、シン! 怪我はないか! 俺が来たからにはもう大丈夫だ!』


 いや、ジェットワンがいなくなったからピンチになってたんだがな。


『ようし! みんな心をひとつに合体だ!』


 さんざん迷惑を掛けても仕切るメンタルはすごい。


『合体ゴー!』

『ドッキングしまーす!』

『えっと……接続確認』


 まったく心がひとつな感じではないがロボは合体し本来の姿を現す。

 今度から合体して発進させるべきだな。


 ロボは敵の攻撃を受けつつも怯まず突撃する。

 なんで合体後の操作は一番雑で破損しがちな御剣にやらせるんだろうか。

 近いうちに父親を問い詰めたい。


『必殺剣! 八の字斬りぃぃぃッ!!』


 俺が現行ロボでもっとも納得のいかない部分である決め技が炸裂、敵を完全に破壊した。


『見たか、正義は勝つッ!』

『……やったのか?』

『もう嫌だ……』


 どうやら今日も、地球は守られたようだった。



 ◇



「ケンさん、あなたのことは嫌いじゃないけど、これからもうまくやっていける気はしません!」

「ランよ、そんなことは言わず俺の背中についてこいよ!」

「お断りします!」


 イヌイが御剣に怒っている。

 だが御剣には話が通じないので矛先はたいてい俺に向いてくる。


「司令、パイロットを変えてください。じゃなきゃ、僕はもうやめますよ!」

「まあまあ、そう言わずに」

「ボクがロボを一番うまく動かせるんだ。せめて合体のときの操縦を僕にまわしてください」


 イヌイの言うことはもっともだが、俺にも大人の事情とかが色々とあって軽はずみには変えられない。

 パイロット同士の仲が良くないのは頭の痛い問題だ。


「司令、大変です!」


 クリスティーナが血相を変えて現れた。

 いつも冷静沈着な彼女には珍しい。


「どうした?」

「陽炎シンが……逃亡しました」

「マジか。本当に逃げやがった!」


 パイロットはどこの誰でもいいわけじゃない。

 しかるべき適正があって選ばれている特別な人材なのに。


「それはいけないな! 俺の熱い思いで考えなおさせないと!」

「いや待て、御剣。ややこしくなるから君はここに残れ」

「僕もどこかに逃げようかな」


 俺は慌ただしく消えた陽炎の捜索の指揮をとりながら思った。


 父親が倒れた理由がわかった気がする。

 絶対にこのパイロットどものせいだ、と。


 ・

 ・

 ・


 地球に平和が訪れる日はまだかなり先だろう。

 しかし待望の新ロボができるのと、俺のメンタルが耐えきらなくなるのと。

 どちらが早いかは神のみぞ知るってところだな。




 ~おわり~



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― 新着の感想 ―
[良い点] 笑いました。司令官から見た合体ロボ、こんな感じなんでしょうね。
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