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――それは、どこまでも深い、闇の色。
眼前に広がるそれは、静かに村を包んでいる。
触れても熱のないゆらめく陽炎のような漆黒の炎。
見上げた空は村を覆うように夜よりも深い闇が広がり、地獄の門が開いたかのように、そこに光は欠片もなかった。
生み出した主ひとりを置いて、最早その場に命と呼べるものは一つも存在しない。
ただ己の起こしてしまった望まざる奇跡に、地面に座り込んだクロノは呆然と辺りを眺めていた。
……暴走したクロノの魔力は、空に闇を生み出した。
そしてその闇は、雨を降らすかのように暗き炎を降らせた。
最初にその炎に触れたのは誰だったか。
火の粉のごとくわずかな炎は、すぐに全身を包み、その身を端から欠片も残さず燃やし尽くした。熱はなく、けれど確実に体を蝕み、灰すら残さず消し去るそれに、人々は次々断末魔の声を上げて消えていった。
クロノを殺さんとしていた村娘も、炎を浴びた瞬間に全身を包まれ、のたうちまわったが成すすべもなく。
叫び、あがき、肉が燃え、骨が灰となり、灰すらも闇の中に消え、静寂と闇だけが残った。
そうしてクロノ以外のすべての人々が命を散らしてようやく、炎の雨は降りやんだ。
地上に残った炎は、草木を燃やしてその僅かな命すらも刈り取っている。
人も虫も植物も、あったはずの感情も、望みも、未来も、燃やし尽くす闇色の炎。
それがクロノを、生み出した主を燃やし尽くすことはなかった。
この魔法の名前も、どうして起こしてしまったのかも、どうすれば消えるのかもわからない。ただ全てが死んでゆくことを眺めている事しかできない。
クロノがその状況に、悲しみや後悔を覚えることはなかった。
否、何も感じることが出来なかった。
人を殺したということ。
それは想像していたよりも、ずっと重い事実としてクロノの心を侵食した。
目の前で燃える、先ほどまで言葉を交わしていた人々。
その叫び声、抉れてゆく肉、剥きだした骨でさえも、瞼を閉じずとも思い出せる。
自身への嫌悪ばかり募り、今すぐ眼前に広がる炎で身を焼ければどれだけ良いかと思わせた。
けれど、立ち上がれるだけの力すら、魔力をほぼ使い切ったクロノにはなく。
ただぼんやりと、ゆらめく炎を見ていた。
「美しいな」
死の静寂を切り裂くように響いたのは、馬がかける音と、場違いな、けれどとても凛とした声。
誘われるようにクロノが視線を移した先にいたのは、ただただ美しい、銀色を湛えた人物だった――…




