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エイトはもう帰ってこない。
家に帰る意味はもうなくなった。
もし逃げ出して、生き延びて、その先に何がある?
夢も希望も、愛も情も、何も無い。
本当の親の顔も名前も知らない。
この手に残ったのは、魔法だけ。
人を殺す、魔法だけ。
空っぽのまま、どう生きればいい?
……もう、答えをくれる人はいない。
たった一人は、自分のせいで失ったのだから。
全てが手遅れで、結局何もできない子供のままだった。
そしてそのまま全てが終わるのだ。
・・・・・・
村長の家を出たクロノを待っていたのは、変わらぬ村人たちの視線だった。
もう動じることもなく、冷たい視線の中を歩み出したクロノの前に立ちふさがった人物がいた。
「……っ」
瞳いっぱいに涙を浮かべてクロノを睨んだその人物は、例の医者の娘。
クロノには、周囲から彼女に同情が向けられている事が不快だった。
彼女はエイトに一方的に思いを寄せていただけで、恋人だったわけでも、エイトが彼女へ好意を持っていたわけでもない。
「どいて」
素っ気なくクロノがそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして……感情のままにクロノに掴みかかった。
「あんたなんか、さっさと死ねばいいのよ!」
「っ!」
彼女は地面に倒されたクロノに馬乗りになりその細い首を締め上げる。
相手が女性とはいえ、子供の力では振りほどくこともできない。
けれどそれ以前にクロノには抵抗する気力がなく、ただされるがままに終わりを
待った。
「おい、今そいつに死なれちゃ困るんだよ!」
さすがにまずいと思ったのか、周りにいた男が彼女を止めに入る。
「邪魔しないで!」
男達に肩や腕を掴まれながら、それでもクロノの首から彼女は手を離さなかった。
目の前が闇に飲まれるその瞬間、エイトの言葉がクロノの頭に浮かんだ。
“何を置いても、お前は生きてくれ”
その言葉にかっと胸の奥が熱くなると同時に、クロノの魔力が全身を駆け巡り、
暴走を起こした――…




