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暗殺。そんなものは、ただの村人が企てられるようなものじゃない。
そして、魔法使い一人で実行できるようなものでもない。
相手はこの国の王なのだ。そこらにいる人間を殺すのとはわけが違う。
「できるわけ、ない……」
「できるかどうかの問題ではなかったのだ。やらねば、我々が消される。もとより後などなかった」
「なんで!?」
失敗すれば殺される。
ならば最初からやらなければよかった話だ。
頭に感情がついていかず、泣き叫ぶようにクロノは問うた。
「もとは我々が、この国の内情を探るためのスパイとして送り込まれたからだ。
昔は定期的に王都へ人をやっていたのだが……我らが王は欲をかかれた。無害そうな子供を魔法使いに仕立て、ヴィジェーンの隙をついて殺せと命ぜられたのだ」
そこで、クロノの頭の中で全てが繋がった。
前に村長が言っていた“王”とは、この国の王ではなかったのだ。
おそらくは隣国の王のこと。
エイトが“仕事”でこの国に来たと言っていた、その“仕事”がかつてはスパイであり、そして命令があってからは……クロノを魔法使いにすることだったのだ。
けれどエイトは、とっくに人ひとり害せる力を得ていたクロノの代わりに暗殺を請け負った。
ならば、とそこまで思い至ってクロノは自嘲するように乾いた笑みを浮かべた。
「お前さえいなければ、我々は今この窮地にいはしなかった!」
「まったく、その通りだ」
僕がいたから、エイトは死んだ。
クロノには最早、村の正体も、行く末も、何もかもがどうでも良くなっていた。
ただ、自分がいたからエイトは死んだ。
その事実だけが重く、そして辛いものだった。
「お前には我々がここから逃げるための時間を稼いでもらう。
散り散りに逃げれば、まだ生き残れるかもしれんからな」
「時間稼ぎ」
心が麻痺したようにあらゆる感情が凪いだクロノはただその言葉を反芻する。
「そうだ。お前は向ってきている王国の軍を一人で襲撃しろ。ヴィジェーンとまではいかずとも、数人はお前でも殺せるだろう?その混乱に乗じて我々はここから森へ逃げる」
靄がかかったような思考でも、その行動をとればどうなるかなど分かりきっていた。
村長は、村の人々は、クロノに“死ね”と言っているのだ。
エイトも、村の人々も、好き好んでこの地に来たわけではないのだろう。
自身に命じた王に、そしてこの国の王に怯え、恐怖を感じながら、それでも仕事をしてきたのだろう。
そして自分たちの命運を賭けた暗殺に失敗し、危機にさらされている。
……全ては目の前の子供がいたせいで。
憎くないわけがない。本当は今すぐに殺してしまいたいのかもしれない。
だから先ほど村人たちは、あんな目でクロノを睨んでいたのだろう。
「さぁ、すべてわかっただろう?お前はすぐにでもこの村を出て襲撃をしに行け。
そしてもう二度と、我々の前に顔を出すな!」
ガタリ、と音を立てて椅子から立ち上がったクロノは、覚束ない足取りで外へ
向かった。
たとえその先に死が待つのだとしても構わないと思えた。




