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村長の家の中は簡素なイメージを与えるほどにがらんとしていた。
机や椅子といった家具こそあれど、雑貨などの細々とした生活感を感じさせるものが少ない。
そしてその代わりに中身こそ知れないが、溢れそうなほど一杯に物を入れた鞄や、布で包まれた大きな荷物が玄関のすぐ側に鎮座している。
まるで引っ越しでもするかのようなその様子にクロノは眉を寄せた。
「こちらに」
促されるまま入ったのは、いつか外から聞き耳を立てた客間だった。
以前覗いた時よりもいくらか物が減ってはいたが、辛うじてまだ生活感を残した部屋の中、中央に向かい合うように置かれた椅子の片方に村長は腰を下ろす。
クロノがおず、と向かいの椅子に座ると、村長は深刻そうな面持ちで口を開いた。
「……お前は、人を殺せるだけの魔法使いとなったのか?」
「――え?」
そのあまりに殺伐とした、意味の分からない問いにクロノは情けない声を発する。
呆然とするクロノの姿に深い溜息を吐いた村長は、ゆったりとした動作で指を組むと、失望したような声音でひとりごちた。
「あいつならばその可能性はあった……いや、だからこそ自らが代わるなどと言い出したのか……」
徐に顔を上げた村長は、戸惑い揺れるクロノの瞳をしっかりと捉えた。
「エイトはずいぶんと過保護だったようだが、もう我々にはお前に甘く接する余裕はない。簡潔に言おう。エイトがしくじった。ここからほど近い町に、王国の軍が迫っている。目的はおそらく、我々の抹殺だろう」
クロノの胸がどきりと跳ねた。
それは抹殺という言葉の恐ろしさもあったが、何よりエイトがしくじった、という点にだ。
内容について聞くことはとても恐ろしく、クロノの背中を冷や汗が流れる。
けれど聞かないという選択肢はなかった。
「な、にを……エイトは何を」
酷く震えたその声は、蚊の鳴くようにか細く空気を揺らす。
やがて告げられたその内容に、クロノは目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。まるで今まで積み上げた全てが崩れ去るような、あるいは天地が引っくり返るかのような衝撃で、クロノは凍り付き、ただただ言葉を失った。
「王国の頂点、国王ヴィジェーンの暗殺だ」




