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あの日、それを見つけたクロノは頭が真っ白になっていく感覚をおぼえた。
これではまるで遺書だ、というのが一番の感想だった。
「願いなんて、いらない」
ただ、エイトがいてくれれば幸せなんだ。
無事に帰ってきて、またいつも通りの日常がおくれれば、それでいい。
自分が帰って来なかったら、なんて心配はしないでほしかった。
「エイトがいなくちゃ、僕は独りだ……」
エイトが帰ってこない未来なんて、信じたくない。
そんな未来を覚悟したくもない。
けれどそう望んでも、ちっぽけな子供に出来るのはただ運命に流されることだけ。
力を持たないものは、何の望みも叶えられない。
どこか空虚な胸の内を誤魔化すように、顔を上げたクロノはただ魔法を極めることを考えていた。
最初こそ憧れからだった魔法の道。
けれどクロノにとって魔法は最早強くなる手段になっていた。
強くなって、エイトに認められたい、役に立ちたい、助けたい。
もしもエイトを危険な目に合わせる者がいるなら、どんな手段を使ってでも
守りたい。
――…ふと、視線を動かした先、ベッドの下に押し込んだエイトの部屋から持ってきた本が目に入った。
「闇属性魔法」
その時はじめて、クロノは、それを使うものの心が分かった気がした。
憧れを捨て、積み重ねた努力を捨て、クロノが選んだのは命を奪い、
削る道だった。
『古の闇属性魔法』
遠い昔から伝わる闇属性魔法を載せたその本は、残虐で残酷で、けれど他とは比べ物にならない程強力な魔法の数々をクロノに教えた。
それらは現在使われている魔法使いの魔力を糧にした、やりすぎなければどうということもない魔法とは違う、生命力や寿命、命そのものと魔力を糧に起こすもの。
故に強力な、おぞましい魔法。
普段ならばきっと手を出さなかっただろうそれらを練習するクロノの姿は、
それだけエイトを、親を失うかもしれない不安が、恐怖が、大きいことを示していた。
壮絶な痛みや苦痛をも覚悟して闇属性魔法に手を出したクロノにとって意外だったのは、クロノに闇属性の才能があったことだった。
闇属性魔法は、他の魔法を使うより簡単に、魔力を操り発動させる事が可能だった。幸いにも苦痛を感じたことも無く、命を削っていることを忘れてしまいそうになるほどだ。
いつか、エイトが光属性魔法の対となるのが闇属性魔法だと言っていたことを思い出し、クロノは苦笑した。
焦がれた光属性魔法に壊滅的に才能が無かったのは、闇属性魔法にあまりある才能があった反動だったのだろう。
「エイトは、わかってたのかな……」
闇属性であっても才能があると分かれば、あの頃のクロノでも大人しく引き下がったかはわからない。
それを案じてエイトが一切闇属性の魔法に関われせなかったのだとしたら。
クロノは自嘲するかのような、乾いた笑いをもらす。
「馬鹿だなぁ、僕って」
けれどそう呟いたクロノの瞳が、揺らぐ事はなかったのだった。




