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――…二人が去った後の所長室に、一人の研究員がノックをして入って来た。
「あら、そっちの失敗した研究の後片付けはもう済んだの?」
ルーエンは仕事机の資料や本の山の向こうから、丸い厚底眼鏡をかけたぼさぼさ頭の研究員に話しかけた。
「いやあ、さっきまでクレームの嵐だったんですけど、やっと落ち着きましたよ。まさかあんな変な煙が出るとは思わなくて。爆発した瞬間は死ぬかと思いましたよ」
「ふふ、何度目かしらね?あなたっていつも失敗してるじゃない。今回はさすがにちょっと酷かったわよ?私の可愛いお客様が吐きそうになってたわ」
研究員はその言葉におず、と進言した。
「所長、今日来てたのってあの裏切り者でしょう?いくら闇属性の魔法に長けてるっていっても……」
ルーエンは乾いた笑みをこぼすと、すっかり冷めたコーヒーを一口飲んだ。
「確かにクロノちゃんは革命のときに沢山の同胞を殺したし、最後まで前王の傍についていたわね」
「そうですよ!しかも今はそ知らぬ顔して魔法師団で働いてますし!」
「クロノちゃんは別に、好きで魔法師団にいるわけじゃないのよ。少し事情があっただけ。でなければ、何でクロノちゃんはもう魔法を使わないのかしらね?」
「それは……」
押し黙る研究員に、ルーエンは小さく溜息をついた。
「話は終わりね。クロノちゃんのことは私に免じて口を出さないで欲しいわ。
他の皆にもそう言ってちょうだい」
「はい……失礼しました」
とぼとぼと研究員が出て行くと、ルーエンはクロノが飲んでいた空のコーヒーカップを見て呟いた。
「本当に何で、貴方はもう魔法を使わないのかしらね」
ルーエンはふっと、机の端に置かれた書類に目を移し微笑んだ。
「その方が、私にはいいけれど……」
短くてすみません!




