25
ページの下の方に載っていたのは、押し花を使ったお守りの作り方だった。
ご丁寧に恋愛関係の花言葉一覧まで書いてある。
“そっと押し花に想いを込めて彼に渡せば、家庭的&献身的アピールに!
仕事やらで遠距離になってしまう彼へアタック!”
なんて煽り文句をエイトは華麗にスルーした。
「エイトに……あげたくて。
恋とかそうゆうのは違うけど、ワイルドストベリーってやつの、いいなって。
だから森にならあるかもって探しに来たんだ」
「ワイルドストロベリー?」
エイトは花言葉一覧からワイルドストロベリーを探し、そこに書かれた言葉に
はっとする。
“幸せな家庭”
それが意味するのは、きっと結婚など恋愛的なものなのだろう。
けれど、ぎこちなくも本当の家族のように関係を築きだした彼らには、多少意味
合いは違えど似合いの花言葉なのかもしれない。
お守りを作ろうとしてくれたこと。
それにこんな想いを込めてくれていたこと。
何も言わずに森に行ったことは、心配もしたし簡単に許せる事ではない。
ただ、それにこんな理由があったならば、許してやりたいとエイトは思った。
単純に、嬉しかったのだ。
「すぐに帰ろうと思ったんだけど迷って……ごめん」
「馬鹿。もう何も言わずにいなくなるなよ」
そう言ってエイトは苦笑を浮かべて本をクロノに返した。
雰囲気はすっかりお許しモードだ。
その甘いところが、危険な事をしでかすクロノを助長させていることは気づかずに。
「んじゃ帰るぞ」
「えっ、今から!?」
ランタンを手にとって立ち上がったエイトに、クロノは思わず声を上げた。
ぐうぅ……
そしてクロノのお腹も限界を訴えた。
丸一日まともに食べていなかったのだから無理もない。
静かな森の中響いた自身の腹の虫の声に、クロノは暗闇でもわかるほど一気に赤面した。
「……なんでもない」
「いや、思いっきり腹鳴っただろ」
呆れたように笑ったエイトは、鞄の中から持ってきていたサンドウィッチを取り
出し差し出す。
「とりあえずこれ食え。昼飯になるはずだったやつ」
「ありがと」
ぼそっと礼を言ってクロノはそれを受け取った。
エイトはクロノの隣に座りなおすと、もそもそとサンドウィッチを租借するクロノを横目に見つつ、辺りに探りを入れる。
すっかり小動物の気配も無くなっていることを確認すると、エイトはふっと一息
ついた。
「はぁ……」
一安心したところで、エイトに忘れていた疲労感がおそってきた。
クロノを探し回って動きっぱなしだったのだ。
身体的疲労だけでなく、気苦労からくる精神面の疲労もクロノの比ではない。
当のクロノが寝こけていたのを見たときのエイトの殺意は当然のものだった。
軽く目を閉じれば、クロノをほったらかしにして眠ってしまいそうだ。
二人がいないことが知られれば村人達が面倒を引き起こしかねない。
今は一刻も早く家に帰りたい、というのがエイトの正直な思いだった。
が、そんなことをクロノが知る由も無く。
そもそも分かっていればこんなことにはなっておらず。
当然の様に、動いて疲れて食べた子供の身体はあっさり眠りに落ちた。
「……。」
こてん、とクロノが寄りかかってきたのを感じたときには既に遅く。
エイトは軽く殺意を覚えつつ、これからどうしたものかと頭を悩ませた。
今の疲労状態で、歳相応に重くなったクロノを背負って森の中を帰れそうにはない。叩き起こすのは簡単だが、家に帰るまでクロノが歩ける気もしない。
結局、選択肢を断たれたエイトは後のことを考えるのを放棄した。
なるようにしかならないのだ。
諦めたようにクロノの隣でエイトも目を閉じる。
そうして二人はそのまま森で一夜を越すことになったのだった。




