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数分前・村の外れ
エイトは村中にクロノを見たか聞いて回ったが、有力な情報は一つもなかった。
村のどこかにいるわけでないならば、考えられるのは二通り。
村を出て王都方面へ向かったか、反対に森の中、隣国方面へ向かったかだ。
どっちにしても家出にしてはたちが悪い、とエイトは顔をしかめた。
今、王都で現王は次の戦争の為に使える魔法使いを掻き集めているという。
たとえ子供であっても、むしろ善悪や倫理といったものが曖昧な子供の方が都合がいいと連れて行かれたら終わりだ。
対して隣国は、表面上平和だがその内情は違う。
だが、まず隣国に辿り着けるかという方が問題だ。
広大な森を案内もなく子供の足でどこまでいけるだろうか。
エイトは今日何度目かわからない溜息を吐いた。
「ったく、クロノの奴どこだ?」
そうエイトが頭を抱えた時、ふいにエイトの足元を僅かに魔力を含んだ風が吹き
抜けていった。
その一瞬に感じた魔力にエイトは頬を引き攣らせて風が吹いてきた方……
森の方を見る。
「おいおい、まじかよ」
エイトが感じた魔力は、今死ぬほど尻を引っぱたきたい人物のそれであった。
急いで家に戻ったエイトは、手近な場所にあった鞄にランタンと昼食になるはず
だったサンドウィッチを包んだもの、ナイフをつっこんだ。
相変わらずよれたシャツの上から薄手の外套を羽織ると、鞄を肩から掛けて窓へと向かう。橙色の陽光が差し込む窓から注意深く外をうかがい誰も周囲にいないことを確認してからエイトは扉を開けて外に出た。
もしこんな時間に森へ向かったことが知れれば、すぐに煩く騒ぎ立てる者がいる。
エイトは村人達とそれなりに良好な関係を保ってはいるが、所詮は上辺だけの関係なのだ。
「この村で仮面を被ってない奴なんて、あいつくらいか」
何も知らない。
知らせていないからこその無垢と無知はこの場ではある意味異質なものだ。
エイトは、自分が箱入り息子を育てていたことに気づき苦笑した。
そのエイトが過保護に育てた当人は、今森の何処を彷徨っているのやら。
ガサリと茂みへ踏み込み、脳内で辺り一帯の森の地図を思い描く。
一休みできそうな場所にあたりをつけると、迷い防止のためにナイフで傍にある
木に印をつけながら歩き出す。
もうすぐ、夜が森に静かなる闇を連れてくる。




