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クロノは、もう迷っているしその場に留まる必要も無いか、と移動しながら食べられそうな果実などを採りつつ、一休みできそうな場所を探し歩く。
途中で獣の類に遭遇することもなく数十分、クロノは森の中でも最も樹齢があるのではないか、という巨木に辿り着いた。
辺りは日も差し込んで明るく、鳥の囀る声は聞こえても、獰猛な獣の気配は
しない。
「ひとまずここにしよ」
巨木の根元に座りこみ、道中採った果実を食べつつ、クロノはこれからどうしようかとぼんやり考える。
現状、クロノにこの森を抜け出す術はない。
魔法がある程度は使えても、帰る道がわかるような便利なものが使えていれば
こうはなっていないわけで。
最悪家の方角でなくとも、森を抜けさえすれば帰る手段はいくらでもある。
となれば、今のクロノに出来るのは、こうして食料を確保しつつどこかに出るまで歩く事だけ。
「……きついなぁ」
盛大に溜息を吐き、数時間前の自分を怨む。
「通った道に跡でもつけてこればよかった」
せめてあの、“確定”の魔法が使えれば……と考えたところでクロノは顔を上げた。
「ダメもとで一回やってみようかな」
思い浮かべるのは、きっと怒っているであろうエイトの姿だった。
十分に休息をとって体力・魔力を回復させたクロノは、ふぅ、と一息吐いて立ち上がった。目を閉じて集中すると、ありったけの魔力を込めてエイトに届くよう魔法を発動させる。
「確定!」
途端、魔力を含んだそよ風がクロノを中心に周囲へと吹きぬけていく。
耳を済ませるも、クロノの耳に聞こえるのは周囲の木々や草花が風に揺れる音だけ。
ゆっくりと目を開けたクロノはへろへろとその場にしゃがみこむと愕然とした。
「やっぱ、ダメかぁ」
理論上魔力は足りているはずだが、コントロールが上手くないのだ。
“確定”が何故上級魔法とされているかという理由は、広域に均等に自身の魔力を
放たなければいけないところにある。
魔力にその精密なコントロール、その両方の条件を満たすのは中々難しい。
「あー、ねむい」
ありったけの魔力を使ってしまったクロノは、魔力切れからくる倦怠感と眠気に襲われて目をこすった。
クロノがそのまま座り込んだままうとうと、と舟をこぎ始めた瞬間、
「――クロ……ど…だ」
耳に届いたその声に、クロノははじかれるように目を開けた。
「え?」
ほんの一瞬、途切れ途切れだったが確かに聞こえたその声は、求めていたその人の声で。
だるい身体で何とか立ち上がると、鞄をひっつかんでクロノは歩を進めた。
僅かに届いた声のする方へ……




