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ルーエンの声に反応し扉に大きな魔方陣が現れると、扉へかざされた手から魔力を少量取り込んでいく。
魔力は人それぞれ指紋のように微妙に異なっている。この魔法陣は登録されている人物かどうか魔力を調べているのだ。
やがて青かった魔方陣が緑色に変化し、消える。
「行きましょうか」
ルーエンが扉を一押しすると、ロックのかかっていた扉が開く。
ぷるぷるしていたクロノからギノアを受け取り小脇に抱えなおすと、ルーエンは颯爽と扉の向こうへ入って行った。
そこは巨大な広間のような所で、壁という壁にロックのかかった扉がある。
多くは閉じられていたが、いくつか開いている扉もあり、その一つからは例の紫色でひどい臭いのする煙がでていた。
扉のすぐ側にその煙を発生させた張本人であろう研究者が倒れていたのは気のせいだろう。
「こっちよ。まずはこのわんちゃんを煙の入ってこないところに連れて行きましょう」
「そうしてくれ。帰りまでその状態だったら困るからな」
「あら、なんだったらこの子だけ置いていってくれてもいいのよ?」
「……色んなやつから色々言われそうだからよしとく」
「残念ね」
二人と荷物状態のギノアは最奥の扉まで行くと、先ほどと同じようにロックを解除して中に入る。
品の良い貴賓室のようなそこは所長室。
研究室とは別のルーエンの持ち部屋で、限られた者しか立ち入れない場所だ。
あらゆる害のあるものを通さないよう組まれた防御魔法がかかっており、例の煙も入ってはこない。
と、いうことは魔法の失敗によって発生したあの煙は多少なりとも害のあるものだったことになるが、それはまあ置いておく。
「この子はここに寝かしときましょう。きっとすぐ目覚めるわ」
真っ赤な生地のソファに横たえられたギノアは、やはり煙がないせいか顔色がだいぶマシになっている。この分なら数時間もしないうちに元通りに快復するだろう。
横たわっているギノアの足を少しずらしそこに無理矢理座ったクロノに、ルーエンは少し冷めたコーヒーを淹れて差し出す。
「砂糖かミルクはないか?」
「相変わらずお子様な味覚してるのね。それ、けっこういい豆使ってるのよ?」
悪態をつきながらも砂糖の入った容器をソファの前にある机に置くと、ルーエンは整理されているものの本や書類が大量に積まれている大きな仕事机から紙の束を取り出す。
「はい、コレ。クロノちゃんはどう思う?」
「……」
クロノはずず…と砂糖をたっぷり入れた激甘コーヒーを啜りながら渡された書類に目を通していく。
しばらくして空になったカップを置くとクロノは口を開いた。
「闇属性の新魔法か……おすすめしないな」
書類に書かれていたのは、研究段階の新魔法の資料だった。
魔法は火・水・土・風・光・闇の六つの属性に分けられる。
魔力自体は誰にでもあるが、大量の魔力を保有していない限り魔法は使えない。
つまり魔法使いを名乗れるのは魔力量が多い者のみで、さらに魔法師団に入れる者はその中でも秀でた能力を持つ者に限られているのだ。
そして魔法使いには得意な魔法の属性があり、その得意な魔法属性だけをを伸ばした魔法使いのことを専門魔道師という。
多くの魔法使いは全ての属性を一通り使えるように訓練し、得意な魔法属性の魔法はその後に伸ばすため、特に秀でた魔法を使えるようになるまでに時間がかかる。
が、専門魔道師は一つか二つの魔法属性だけを伸ばすため、いくつか不得手な魔法属性があろうとも、専門にしている魔法属性では強大な魔法を早いうちから使える者が多い。
何を隠そうクロノもまた、闇属性の専門魔道師である。




