10
誰かの泣いている声が聞こえる。
子供?あぁ、これは……
「クロノ」
そっと赤子を抱き寄せ彼女があやすように笑う。
彼女によく似た、綺麗な黒髪の赤子。
「エイト、この子のことお願いね」
「おう、任せとけ」
そう言って赤子をこの手に抱くと、確かな命の重さを感じた。
泣きつかれて眠る姿は愛らしくて無条件に守ってやりたくなる。
「お前は母親とは違って素直で優しい子に育てよ~」
そう冗談交じりに言えば、彼女からすぐさま反論が飛ぶ。
好きな人と、好きな人の子供。
何てことないやり取りすら幸せだった頃は、あっという間に過ぎ去った。
それでも。
「お前のことは俺が守るからな、クロノ」
決意は、固く――…
・・・・・・
なつかしい夢を見たような、そんな気がしてエイトは目を開けた。
「……ん?」
エイトが視界の隅に映った黒と息苦しさに首を少し上げると、なぜか布団の中に入り込んだクロノがエイトの胸の上ですやすやと眠っていた。
「反抗期じゃなかったのかよ?」
苦笑いしつつ、エイトはなんとも幸せそうに眠るクロノの頭をそっとなでる。
宝物でもさわるような優しい手つきで、自身とは似ても似つかない黒髪を梳く。
「でかくなったな」
胸の上に感じる、両腕に抱けていた頃とは違った重みに成長を感じ、エイトの瞳は自然と細められた。慈しみに満ちた瞳は確かに親が子に向けるそれで、けれどエイトは自覚していない。
少しは父親らしく在れているだろうか、と誰にでもなく問い続けてきたのだから。
クロノがエイトと距離を感じるように、エイトもまた、必死にその距離を埋めようとしてきたのだ。
育み、導き、幸福な未来を願い、それゆえに秘密も持ち。
託された命を、必死に守ってきた。
いずれ、それがいつかは知らずとも、遠くはないであろう手を離すその時まで。
エイトはこの、何てことはない平穏を願い続ける。




