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ふーふー、と熱いミルクを冷ましながらちびちびと飲んで落ち着いたクロノに、エイトは講義の続きを始めた。
「で、お前の専門だが、水か風が良いと思うんだ。お前はどっちがいい?」
湯気の立つお茶の入ったカップを片手に聞いたエイトにクロノは首を傾げる。
「風も水も僕ってそこそこなだけで特別得意なわけじゃないけどいいの?」
クロノは今までほぼ全ての属性を試したが、光属性を除けばどれも遜色ない
“そこそこ”ぶりだった。
エイトが才能があると言うわりにはからっきし感があったのだ。
「あちっ……最初は何でもそんなもんだろ」
熱々のお茶を口にして若干涙目になりながらそう言ったエイト。
クロノはそんなエイトに若干頬を緩める。
「そっか。じゃあエイトはどっちが僕に合うと思う?」
心を躍らせながらそう聞いたクロノに、エイトは少し考え込むように唸ってから答えた。
「風、とか?」
「なんで疑問系なの」
困ったようなエイトにクロノはむすっと頬を膨らませる。
「でもほんと、どっちでも良いと思うぞ?
水は応用が利きやすいし、風は扱いやすいし、利点で言えばどっちもどっちだ。
お前はこれから一生付き合っていくならどっちがいい?」
「だからエイトは僕にどっちが合うと思うって聞いてるんでしょ!さんこーにするから!」
「いや、お前参考どころか俺の言った方にすんだろ、絶対。こういうのは自分で決めるもんだ」
考えを読まれていたことにクロノはぐっと押し黙ってしまい、それにエイトは苦笑した。
そういえば、とクロノはエイトに気になっていたことを聞いた。
「僕、闇属性の魔法は使ったことないんだけど、試してみなくていいのかな?」
「いいんだよ」
エイトはカップを置いて先ほどクロノの頭を叩いた分厚い本を手に取ると、ある
ページを開いてクロノに差し出した。
「これ……」
クロノはそれを受け取って、それが魔法を習い始めた頃、一番初めにエイトから渡された本だと気づいた。
「それには闇属性がいかに異質かがわかりやすく書かれている。忘れているようならもう一回読んどけ」
「確かに忘れちゃってるのもあるけどさぁ」
ぶつぶつ言いながらクロノは内容に目を落とす。
そして、自分が忘れていたことがいかに重要だったかを理解し、目を見開いた。
「治癒魔法然り、無から有を生み出すのが光属性なら、対となる闇属性は有を無に帰す魔法だ。多少の例外はあるが、ほとんどが殺したり壊したりするためだけの魔法。しかも、使う者から重大な代償を奪っていく。
普通は例外の、影を操ったりとか軽いやつをさらっと教えて終わりだが……
俺はお前を闇属性には関わらせたくない。だからお前も試す必要は無い」
「……わかった。でも殺すためだけの魔法なんて、そんなの、なんで生み出したんだろうね」
「さぁな、お前は一生知らなくていい理由だろうよ」
「エイト……」
エイトの物言いが、まるで自分は知っているかのようで、クロノの胸はざわつく。
けれど、エイトはこれ以上問うことを禁ずるような、無言の境界線のようなものを確かに引いていて、クロノは口を閉ざすしかなかった。




