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「時間が無いのだ。王がどれだけお待ちくださるかわからない以上、我々だけじゃない。おまえ自身も危険だと理解しているのか?」
「俺のことはいい。だが、あいつを巻き込むのは止めてくれ」
「ではお前は何のためにあいつに魔法を教えているんだ?」
「それは――」
クロノはそこまで聞いてそっとその場を離れた。
段々と歩幅は大きくなり、いつの間にかクロノは走り出していた。
時間が無い?王?
クロノにはわからない事だらけだ。
けれど、一つだけはっきりとわかることがある。
早く魔法使いにならなきゃ、エイトが……っ!
「っ!!」
そうだ、と焦るクロノの脳裏に蘇ったのは、前にエイトの部屋から持ってきた本に載っていた存在。そのときは関係ないと思い、詳しくは読まなかったそれが今のクロノには唯一の光に思えた。
息も絶え絶えに家に帰ったクロノは、本を探しにエイトの部屋へと駆けて行くと、沢山の本の並んだ本棚から、あやふやな記憶を頼りに目当ての一冊を手にとった。
紙が皺になることも、指の先が切れることも厭わずにページを捲って、捲って、
クロノはようやくその記述に辿り着いた。
「専門、魔道師」
そっとその記述をなぞった後に血がついて、指を見れば紙で切ったところから血が出ていた。走って来たからか、耳の奥では鼓動が大きく聞こえる。
それらに気づいて少しばかり冷静さを取り戻したクロノは、大きく深呼吸をして呼吸を落ち着けてから、本へと目を落とした。
一通りの内容を読み終えたクロノの中に、迷いが無かったといえば嘘になる。
けれど、瞼の裏にエイトの姿が浮かんで、クロノの中の迷いはすぐに消え去った。
決意はストンと胸の中に落ち着いて、迷っていたことは全てあっという間に切り捨てられる。
本を閉じ、前を見据えたクロノの瞳に、迷いは一片も無かった。
「僕、専門魔道師になるよ」
それを聞いたエイトの目が見開かれたのは言うまでもない。
夕食の席でまっすぐにそう言ったクロノに、エイトは戸惑いながら問いかけた。
「何でだ?専門魔道師を選んだら、お前はその属性以外ほとんど使えなくなるぞ。メリットがないだろ」
「わかってる」
「わかってるって……答えになってないだろ」
馬鹿馬鹿しい、と溜息を吐いたエイトは、席を立った。
「今日の話は忘れてやるから、明日からは今までどおりに訓練をするぞ」
「それじゃダメなんだ!」
バンッと机を叩いて言ったクロノ。
その瞳があまりにも必死そうで、エイトは思わず息を呑んだ。




