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「ずっとお前には魔法の才能があると思ってたんだ。でも読み書きも出来ない子供に理解できるように教えられる自信はなくてな」
「エイトは僕に魔法使いになって欲しいの?」
机に開いた本から視線を上げて自身を見たクロノに、エイトはどこか悲しそうに、申し訳無さそうに目を伏せた。
「どうなんだろうな。俺にもわからん」
「……変なの」
クロノは再び魔法の基礎知識が書かれた本へと視線を戻した。
魔法使いになることをエイトが望むなら、本気で頑張ろうと思えたのに。
本当の親でないとしても、育ててくれた、傍に居てくれたエイトが望んでくれるなら。何かをエイトにしてあげるなら。
そんな淡い想いをもって聞いた言葉への煮え切らない返答にクロノの胸の中は哀しみで満ちた。
エイトは自分に望んでくれない。
期待してくれない。
突き放されたような気持ちは胸の中でくすぶって、やがて認められたいという願いへと変わり、クロノが魔法の道を進む力へなっていった。
・・・・・・
クロノが魔法の基礎を学び終えるまでにそう時間はかからなかった。
朝起きてから夜眠るまで、エイトから渡された基礎知識の本を読み、魔力のコントロールを練習し、簡単な魔法の実戦を何度も試みるの繰り返し。
魔法の勉強を始めるまでに夢中になっていたもの全てを投げ捨てて取り組む姿は、一種の執着や執念を感じさせるほどだった。
そうして僅か一年、クロノが七つになる頃には基礎は全て終わり、本格的な魔法の訓練が始まっていた。
訓練はいつもエイトと二人、家の裏側で行われた。
すぐ裏は森が広がっており人気は無い。
もしも失敗しても村の者を巻き込まないようにというエイトの配慮だったが、
思いがけなくエイトを独占できる時間が出来た事がクロノには嬉しかった。
基礎の間クロノは一人で勉強に励んでいて、偶にエイトが口を挟みに来る程度。
エイトはいつも部屋で本を読んでいるか、村の人の所に居たのだ。
村唯一の魔法使いは相談事を持ち込まれることも多く、口は多少悪いが根は優しいエイトは断る事をしなかった。
必然的に一人が多かったクロノは、子供ながらに遠慮するところもあり、二人の時間は減るばかりだったのだ。
「もう一回。ちゃんと集中しろ、クロノ」
「う、うん!」
そんな日々の中で訪れた二人の時間に、いつかの宣言通り容赦の無いエイトの指導を受けながらも、クロノの頬が緩んでしまうのは仕方のない事だった。




